第171話 人形少女は見放したい

「嫌に決まってるじゃん」

「少しくらい話を聞いてくれ給えよ」


手を貸してくれと言われれば貸してあげたいのが人情だけどもさ、嫌いな相手のためにとか意味が分からないしという事を伝えたのだがヒートくんは聞いてくれない。


「そう言わずに一つ頼むよ。レクトの事が嫌いというのなら僕のためと思ってくれ」

「いや君の事も嫌いなんだよ」


めんどくさいからね。

というか今さっきまで殺し合っていた相手によくそんな風に話しかけられるよね。


「まぁまぁ。僕が考えるにレクトは何者かの干渉を受けている。おそらく思考や自我を何らかの方向に誘導されているんだ」

「ふーん」


勝手に話し始めたヒートくんだがびっくりするほど興味がわかない。


タイミングを計って逃げるか。

空間移動か走るか…いや走るのはちょっと面倒くさいなぁ。


となれば空間移動だが…あれ実は一度発動すれば私が消さない限り誰でも通れてしまうので実は逃げる用には使えないのだ。


「それで僕はレクトをその呪縛から解放してあげたいとずっと考えていたんだが…これがなかなかに難しくてね。そもそも一体なにがどんな理由でそんな事をレクトにしているのか見当もつかない」

「へ~」


「そこでどうだろうか?キミからは尋常ではない何かを感じる。レクトの状態についてなにか心当たりはないだろうか?」

「そうなんだ~すごいねー」


「話を聞いていないな?しかしこれは割と重大な事だと思うんだ。僕はこの五年間、レクトの事を一番近くで見てきた。だからこそ無性に気味が悪いんだ。何者かがレクトを勇者に仕立て上げようとしているみたいで」

「…」


勇者に仕立て上げようとしている…そういえばコウちゃんとアーちゃんがなんかそんな事を言っていた気がする。


何だっけ…神様がコウちゃんを英雄に仕立て上げただったかな?勇者くんも同じ状態って事?

そういえば帝国が襲われた時に天使の姿もあったってアーちゃん言ってたっけ。

むむむ…なにかつながってきたような?


「その顔は心当たりがあるって顔だな?話してもらえないか」

「ん~…心当たりはあるけど私は良く知らないし。何より私には関係ないよ勇者くんのことなんて」


それが全てだ。

私がここで丁寧に知っていることを彼らに話す理由がない。

それより私は早く帰りたいのだ。


「いいのかい?実は僕たちがここに来た理由はとある男が助けを求めてきたからでね。もう少しすれば町中から兵が集まってくるぞ。協力してくれるのなら僕が口をきいてあげてもいい」

「正義の使者だとか言ってた割に汚いことするね」


「ははっ僕が正義なのは変わらないさ。たとえ君がここで人殺しをしていないとしても明らかに火事場泥棒はしているだろう?」

「むむ…」


「それに先ほど僕を一度殺した時のためらいの無さから言って人の命を奪ったことも一度や二度ではあるまい。となると君には罰を受ける理由がある。そうだろう?」

「ないよ」


「む?」

「私はいたずらに命を奪った事なんてないもの。私の邪魔をするから、私に手を出そうとするから。大切な人を守りたいから殺したの。それは悪い事じゃないでしょう?」


それは偽りない私の本音。

奪わないと奪われるのだ。それが悪い事だというのならいい人はとっくの昔に全滅してる。


「そうきたか…キミとその是非についてじっくり議論したいところだが事実としてもうじき兵はやってくる。結局は同じことだろう?」

「なら私は全員殺して帰るよ」


「…それは僕たちに話をするより選ぶほどの事かい?」

「うん。そっちのほうが早い気がするしね」


「そうかわかった。僕は正義を守るものとして人の命を守る選択をしよう」


そう言ってヒートくんが道を開けてくれた。


「ここで正義を守るっていうのなら私に立ち向かってくるんじゃないの?」

「もちろんできる事ならそうしたいけどね。だがこれでも僕には背負っている物があるのさ。どうしても結局は悪魔だから最後に優先されるは欲求ということなのさ」


「ふーん…まぁどうでもいいけどさ。そういえばあなたのさっき言ってた母親ってアーちゃんの事?」

「アーちゃん?」


「悪魔神のアーちゃん。え~とデミラアルスだっけ…?本当の名前」

「っ!確かにそれは我が母親の名前だ。知り合いだったのか?」


「まあね。じゃあさ私よりもそっちに話を聞いたほうがいいよ」

「どこにいるのか知っているのか!?」


「うん。じゃあそういうことで~」

「ちょっと待ってくれ!」


ヒートくんの引き留める声を無視して全力で走った。

ヒントはあげたのであとは自分で何とかしておくれ!

後ろから追いかけてくる気配はしていたので曲がり角を曲がると同時に空間移動を発動して飛び込んだ。

こうして私は無事に帰宅することができたのだった。

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