第89話 人形少女は作戦を考える
時間は少しだけ戻って帝国内にて。
「どうやら出たらしい」
教えてもらったお店でお菓子類などを大量に買い込み、もぐもぐとしていたところコウちゃん(服着てない)が突然真面目な顔でそう言った。
「でた?もぐもぐ」
「ああ、さきほど我の部下から魔法で通信が入った。連合軍が目をつけていた場所で悪魔が出たらしい」
「ほぇ~、むぐむぐ」
「…できれば食べる手を止めて行動してもらいたいのだが?」
そんなことを言われても一度手を付けた物は食べきる主義だから食べ終わらずして席を立つことなんてできない。
「というか私が相手するのって神様だけじゃないの?」
「それらしき奴を目撃したとさ」
「そっか。そんなあっさり見つかるものなの?」
「ほとんど表に出てこないが正体を隠してたわけではないだろうからな」
「コウちゃんなんて表にも出ないし正体も隠してるから勝ちだね!」
「うむ」
正直ニートじゃんと思っているのは内緒だ。
え?私?私はいいの、人形だもの。それにほら、今みたいに外に出てるし。
「まぁそういう事なら食べ終わった後にでも行ってくるよ~。コウちゃんが送ってくれるんだよね?」
「ああ。我の部下のいる位置になら飛ばせるからはよ食べろ」
「あいあい…あ、そうだ。メイラ呼ばないと」
「ん?連れていくつもりか?」
「うん~。ほら悪魔たちの住処を奪えって話だから下見がてらね」
「気負わないのはいいが油断はするなよ」
「大丈夫、だいじょうぶ~」
私は今食べるのに忙しいので巨大人形ちゃんにメイラを連れてきてもらおうと頭の中でお願いしてみるが反応がない。
「あれ?」
「どうかしたのか?」
不思議に思っていつもの要領で空間を割って、闇の中に顔を突っ込んで中を覗き見る。
いつもはそこにちょこんと座っているはずの巨大人形ちゃんだが、どこを見渡しても闇が広がっているだけで、その姿は見当たらなかった。
「巨大人形ちゃんがいない…」
「巨大人形ちゃん?あの戦いの時にお前の後ろにいたでかいやつか?」
「うん。おっかしいなぁ~どこに行ったんだろう?というかどっかに行けるのかな?」
「そんなもん我が知るわけないだろう。あれはお前の惟神なのだろう?」
「さぁ~?」
「ええ…お前自分の力だろうにわからんのか?」
分からない!だってそこら辺はあまり興味がないもの。私は楽しく幸せに暮らせて、大好きな人を愛せればそれでいいもの。
力の事なんて二の次よ!
「まぁいいや。メイラは後で自分で呼んでくるよ」
「すぐ戻ってくればいいが戦闘になると厳しくはないのか?我の時はあの人形はかなり厄介だったぞ?」
「そうかもね~…じゃああれだ。不意打ちでざく~!ってやればいいんじゃないかな」
「おいおい天才かよ」
あはははははは!と二人で笑う。
いや実際それで勝負がつくならそれでいいじゃんね?今までは私から戦いを挑むってことがなかったから使えなかったけれど、こっちから仕掛けるのならわざわざ正面から行かなくてもいいのだよ。
そんな完璧かつ合理的な作戦を考えているとコウちゃんの背後にいるジラウドさんが何とも言い難い変な表情をして私とコウちゃんを見ていた。
「ジラウドさんどうかしたの?お菓子食べる?」
「ん?おぉなんだジラウド、妙ちくりんな顔しおってからに」
「いえ…その…お二方の会話と言いますかその…神様の会話とは思えませんでしてその…」
何を言いたいのかはよくわからなかったけれど私たちの会話がお気に召さなかったらしい。
だいたい私は自分の事を神様だとか言われてもピンとこないし、神様の会話ってなんだよって思わない事もない。
「相変わらずつまらんことを気にする男だなぁお前は」
「しかし偉大な存在にはそれらしい振る舞いを求めてしまう気持ちも察していただきたく…」
「はいはい気が向いたらな。…ジラウドはあれだな、悪魔神に会ったらすぐさまにアレに取り込まれるタイプだな」
「なっ…!私は皇帝陛下の敵に屈するようなことはしません!」
「そうそう、そういうやつよ。まさにアレの好きそうな人間よお前は」
めんどくさそうにため息をつく裸のコウちゃんを見て、確かにもう少し威厳というものは持ったほうがいいかもしれないと思いましたとさ。
「結局さ、悪魔神ってどんなの?不意打ちアタックするから見た目くらいは覚えとかないとさ。一発勝負だからね」
「どんなのか…う~む…かれこれ最後に会ったのも100年くらい前だから少し見た目は変わっているかもだが…「頬に趣味の悪い紋様がついてる無駄に人に媚びた可愛い顔と胸と尻に駄肉のついた下品な身体をした女」だ。まぁ部下がそれらしい奴がいたと報告してきたのだからたぶんそれっぽい見た目のままなのだろうさ」
コウちゃんがどれだけ悪魔神の事が嫌いか伝わってくる素晴らしい説明だった。
しかしもう普通に100年前とかいう単語が出てくるようになってすごいよねほんと。
「おっけー、じゃあそろそろ行ってくるよ~」
「頼んだぞリリ」
「大船に乗った気でいてね」
「船は嫌いだ。酔うからな」
話せば話すほど威厳がなくっていくコウちゃんだった。
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