第90話 人形少女は不意討ちする

「おっけー、じゃあそろそろ行ってくるよ~」

「頼んだぞリリ」


「大船に乗った気でいてね」

「船は嫌いだ。酔うからな」


話せば話すほど威厳がなくっていくコウちゃんだった。


そんなこんなで空間移動でメイラを連れてきてからのコウちゃんのところにある不思議な鏡をくぐるとあら不思議、崩れた建物がいたるところにある、いかにもな場所にたどり着いた。

あの鏡便利だな~と思っていたけれど背後を見ると出口がきれいさっぱりなくなったので一方通行らしい。

空間転移があるからいいもの、やっぱりなかなかに不便だと思った。


「うわぁ…」


転移に成功した途端メイラが口元を抑えて茫然と呟いた。


「どうかしたの?」

「いえ、そこら中に美味しそうな匂いでいっぱいで…なんだろう…たぶん風に乗って血の匂いがしてるんですかね」


「なるほど。ご飯タイムにする?」

「ああいえ、さすがに拾い食いはやめておきます。それにうっかり帝国騎士の方を食べちゃったりするとまずいですからね」


拾い食いの定義がよくわからない。

そこら辺の人を食べるのは拾い食い…?いやでもメイラの食事って基本それだよね。

あ、道端の死体は拾い食いになるのかな?よくわからないけれどどうせ食べてる段階で死体にはなるんだから変わらないのでは?…考えても仕方ないか。

それよりもだよ、問題は…。


「ここって廃墟みたいなところしかなくない?」

「ですね」


「…こんなところ住める?」

「…さすがにちゃんとした屋根は欲しいところですよね」


この件に関してはあとでコウちゃんにクレームを入れよう、そうしよう。


「それにしても結構派手に戦ってるね」

「血の匂いがすごいですし、だいぶ派手にやってるみたいですね」


私達がいる場所には誰もいないが雄たけびのような声や金属がぶつかる音、悲鳴のような物も聞こえてくる。

この中から目当ての人物を探すのは大変そうかな…いやさすがに神様なんだし圧倒的に強い!みたいな人のはず?…とりあえず探しますか。


「じゃあひとまず向こうのほうに隠れながら…」

「リリさん、先に行っててください」


「ん?どうかしたの?」

「私に用事がある方がいるみたいなので」


あぁ、さっきから私たちの事を向こうの木陰から覗いてる人はメイラに用があったのか。

なんか不健康そうな見た目をした男だけどそんなに強くなさそうだし、何をするでもなくこちらを見ているだけだから放っておいたのだけど…。


「一人で大丈夫?」

「ええ大丈夫です。敵意は感じませんし…あの人たぶん悪魔です。おいしそうじゃない」


「そっか。じゃあ先に行ってるね」

「いってらっしゃいませ~」


そんなこんなでわいわい戦っている人たちの目を盗みながら移動すること数十分。

大きな木の上から見てると、なぜか離れたところで戦っている人たちがいたので覗いて見るとコウちゃんから聞いた通りの見た目をしている人を見つけた。

愛嬌のあるかわいい顔に…うっわなにあれ!お胸でかっ!!すっごい柔らかそうだ…片手でおさまらんだろあれ…ちょっと好奇心で一回触ってみたいところ。

ちなみにマオちゃんは片手でぎりぎり包み込めないくらいのサイズだ。一回触ったら顔を真っ赤にして怒られたのでいつか再チャレンジしたい。


「いや今はそんなことどうでもいいのよ」


なんだか知らないけれど暫定悪魔神は誰かと戦っている最中らしくこちらには気づいてない。

さっき確認したけれど巨大人形ちゃんはやっぱりいないままなので不意打ちアタック作戦で行くしかないので慎重に行かないとね。…いや今隙だらけじゃない?なんか喋ってるし、背後から黒い触手みたいなものが出てるけど全部前のほうに出てるし背後に飛び降りればいけそう?


よし行こう。思い立ったが吉日、即決即断がめんどくさくなくてよい。

というわけでダーイブ!

取り出したるはコウちゃんから貰った「悪魔によく聞く聖なる力的なものが込められたナイフ」だ。

本当に効くの?とメイラと喋ってた時にちょっとだけ触ってみたメイラがめちゃくちゃ痛がってたので効果はお墨付きである。


そして作戦は思いのほかうまく行き、こちらに気づかない暫定悪魔神ちゃんの肩口から落下の勢いもプラスされたナイフが食い込み、骨のような硬い物に触れる感覚があったけどそれも一瞬で勢いそのままにお腹のほうまで切り裂いた。

ぱっくりと開いた上半身から噴水の様に血が噴き出していく。

ナイフを引きぬくと何やら臓器のようなものの一部が付着していて…これは完全に死んだな。

…いや本当にこの子が目的の子だよね?え、こんなあっけなくやれたけど人違いじゃないよね?大丈夫だよね?


「…さすがに背後からここまで勢いよくやられるのは予想外で呆けてしまいました」


暫定悪魔神ちゃんが見た目の凄惨さに反した呑気で可愛い声で喋った。

これ絶対悪魔神だ!こんな見た目で生きてるんだから間違いなし!そして余裕そうなら追加でくらえ!

悪魔神ちゃんの頭を掴んで固定した後、ナイフで胴体をめった刺しにする。

正直絵面は酷いけれどしょうがないのよ、うん。


「欲を感じない攻撃ですね。これはちっとも素敵じゃありません」


黒い触手が私に向かって殺到する。

当たっても痛そうじゃないけれど、コウちゃんと戦った時に痛い目を見たので一応距離をとって避けた。

悪魔神ちゃんは穴だらけになった身体で少し動かしづらそうにしながらもゆっくりとこっちを向く。


「あら?人間じゃない…?魔物の類ですね」

「おやまぁ」


見ただけで見破られた。

なかなかいい目をお持ちのようで。とか言ってる間に悪魔神ちゃんの身体に触手がまとわりつき、傷がどんどん治っていく。

あちゃ~…だめだったかぁ~…どうしよう?いったん逃げて巨大人形ちゃんが帰ってくるの待つ?

悪魔神ちゃんはこちらを探るような目でいる。

というか…なんかこう真正面から見るとなんか見覚えがあるような顔をしているなこの子。


「あなた…魔物の割にはすごい欲望を持ってますね。とっても素敵…ん?以前どこかでお会いしたことありますか?」


なんと私が感じていた見覚えがあるような感覚を向こうも感じていた。

え、本当に会ったことあるのかな…?でも私って人形になってから記憶の摩耗というのが一切ないからピンと来ないはずはないのだけれど…。


「あ。あなたもしかして「魔血神樹」の所にいた人形さんではないですか?」

「…は?」


魔血神樹…それは思い出したくもない、あの忌々しいクソども。

私を数百年にわたって道具扱いしたあの男たち。


この世界に転生してすぐに私を召喚したやつらが率いていた組織の名前だった。

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