第3話人形少女は勇者たちと対峙する

「交渉?君と私が?」

「はい」

「おい!何言ってるんだ突然!」

「そうです勇者様!相手は何万もの人間を殺した悪魔の人形ですよ!?」


おいおい勇者少年よ、お仲間からも驚かれてるけど大丈夫なのかい?


「でも言葉が通じるじゃないですか…それなら話し合う余地があるはずです」


うっわ!すっごいお人よしだ…まぁ勇者だしね~。

う~ん…そうなだなぁ恩人の話だし聞くだけ聞いてあげよう。


「とりあえず話すだけ話してみたら?聞いてあげるよ」

「…ありがとうございます。単刀直入に言いますけれど俺たちと一緒に来てくれませんか」

「おい!?」

「勇者様!?」


「うーん…どこに行くというのかな?」

「とりあえずこのあたりで一番大きな国まで。そこでもう人を襲わないと誓ってくれませんか」


これはまた…なんというか…とんでもない話が出てきたものだ。


「誓って?その後は?」

「その後はおとなしくしていてくれればいいと思います」


「…本気で言ってるの?」

「はい」


…やべえなこいつ。

私の感想はそれだった。いやだってきれいごと過ぎるでしょう?何言ってんだって感じだよ。


「私が誓ったとして信じてくれる?」

「信じます」


少年はまっすぐと私を見つめていた。

ホントにまっすぐに信念を感じられるような強い瞳だ。


うぜぇわ。そういうのを信じる夢見る子供の時代なんて私の中では何百年も前に過ぎ去った。


「論外」

「理由を聞いてもいいですか」


「私はね?自由になりたいの…せっかく解放されたんだもの…誰にも縛られない自由を満喫したい」

「ですから人を殺さないと誓ってくれれば…」


「だめ。人を殺さないのはね?別にいいけど、殺したくて殺してたわけじゃないしね」

「なら…!」


「でもあなたたち人間は絶対に私の自由を認めないわ。どこかの人形遣いを連れてきて私を縛るでしょう。もしかしたらそこの聖職者ちゃんみたいなのを集めて封印とかされちゃうかもね?そんなのごめんよ」

「それは俺がさせません!」


はぁと私の口からついついため息がもれてしまった。

というか人形の身体だけど呼吸をしているのか?私…我ながら謎ボディーだ。


「あなた一人の力で何とかなるの?全ての人間をあなた一人が説得できるの?」

「やってみせます!」


言い切れるのすごいね。どんな人生を送ればこんな子が産まれるのやら。

いいかげんマジでうざくなってきたよね。


「できないよ」

「どうしてそう言い切れるんです?」


「だって同じ状況で私がただの人間なら…何としてでも私を排除するもの」

「…」


「そもそもそこの聖職者ちゃんが言っていたように、私は数えきれないほどの人を殺した怖い怖~い人形だよ?」

ギギギギとわざとらしく関節の音を立てながら腕を上げて指を不気味に動かす。


「そんな私を連れて行こうだなんて…君、どこかおかしいんじゃないの?」

「でもさっきあなた言ってたじゃないですか…殺したくて殺したわけじゃないって」


「今まではね?でもこれからは違うよ?私は殺したい人間がいたら殺す」


数百年、ひたすら殺戮を繰り返したのだ。倫理観なんて吹き飛んだよ。

それでも快楽的に人を殺そうとは思わないけれど…。


「それこそ私を縛ろうとする人がいたら迷わず殺しちゃう」


そう私が言ったのと同時に私の顔面に光の玉のようなものがぶつけられ、大爆発を起こした。

おそらく聖職者ちゃんの魔法だろう。

かなり上位の光魔法だ。


「勇者様!やっぱり駄目です!この人形はここで破壊か封印をしなくては!」

「さっきの私の話きいてた?」


さっきの魔法ごときでは一切のダメージを負わない私はするりと聖職者ちゃんの背後に回り込みその首を掴んで持ち上げる。


「ぐぅう!?」

「大丈夫か!?くそ!その子を離しやがれ!」


大男が私に向かってくるが…彼の攻撃は先ほどの戦いを見る限り身体能力を強化して物理的に殴るだけだ。

そんなもの今の私に通用するはずもない。

案の定、大男は私を殴り蹴り、斧を振り下ろしと頑張っているが全く何も感じない。

しかしうざいので聖職者ちゃんを掴んでいる指に少しだけ力を入れる。


「あがぁ!」

「ほらほら離れな?この子の首折るよ~」

「おい!?ちくしょう!」


大男はそのまま数歩私から離れた。


「さてどうしようかな?この聖職者ちゃんはもう殺すのは決定として…そこの二人はどうする?」

「本当に殺すつもりなんですか…?」


「うん。だってこの子…私を封印するって言ったよね?それだけは許せないよね。ただ向かってくるだけなら別によかったけれど…私の自由を奪おうとするならもう殺すよ」

「や、やめろおおおおおおお!!!」


勇者少年が光り輝く剣を手に私に斬りかかってきた。

あれは…さすがに何もせずに受けるのは少しだけ危ない気がする?

ではどうしようか?

あ、魔法だ!自分の意志で魔法を使ってみたいってずっと思ってたんだよね。

というわけでレッツマジック。


「ヘルランス」


そうつぶやくと同時に私の、真横の空間から漆黒の巨大な槍のようなものが伸びて勇者に襲い掛かった。


「ぐっ…!」

「お、受け止めたね?すごいすごい。でもまだまだ」


ヘルランスを連射。

これくらいの魔法なら私の魔力はほとんど減らない。無限に打ち続けられる。

なんとなく選んだ魔法だけどもしかして弱い魔法なのかな?


「そんな…闇属性の上位の魔法を…あんなに連続で…」


聖職者ちゃんが丁寧な解説をしてくれた。結構強い魔法らしい。

やっぱり私ってやばいみたい。嬉しくともなんともないけどさ。

そして30発を超えたあたりで勇者少年が耐えられなくなったようで膝をついた。

私はそこで慌てて魔法を止めた。

彼を殺すつもりは今のところないからね…私が殺したいのはこの聖職者ちゃんだけ。


「じゃあそろそろ死のうか。口は災いの元って勉強になったね」

「…やるならやりなさい!私はあなたのような邪悪には屈しません!」


「うん、じゃあね」


指に力を入れる。面白いように私の人形の指は聖職者ちゃんの首に沈み込んでいき…。


「…やめてください!人を…殺さないでください…!」


勇者少年が私の足首を掴んだ。ここまで這いつくばってきたのだろうか?素晴らしい執念でお姉さん感激しちゃった。

一応は恩人だし許してやりたい気持ちはあるけど…私の中でどうしても譲れない。

この聖職者ちゃんの封印発言だけは看過できない。冷静そうに見えるかもしれないけど私は結構キレてるんだよ?


「ぐおおおおおおおお!!!!」


私が少し考え込んでる時、いつの間にか最接近していた大男はこれまたいつの間に回収していたのか勇者少年が持っていた剣を私の聖職者ちゃんを掴んでいる腕に思いっきり振り下ろした。


「痛ったっっ!」


さっきまで全然痛みなんて感じなかったのに、あの剣での一撃はすっごい痛かった。

こう…腕を引き延ばした輪ゴムでバチン!ってされたくらいの痛み。

めっちゃ痛い…。

そして久々に感じた痛みだったからついうっかり聖職者ちゃんを離してしまった。


「今だ!離れろ!」


大男が聖職者ちゃんを抱えて私から距離をとった。

勇者少年もなんとか立ち上がり少し離れる。


「うーん…すごいねその剣…痛くてびっくりしちゃった」

「くそっ…魔物なら問答無用で存在ごと断ち切られるはずの聖剣の一撃を受けて痛かった程度か…化け物め…」


やっぱりすごい剣だったらしい…しかし存在ごと断ち切られるとは物騒だな。

腕を持ち上げてみるが断ち切られた気はしない。

ほんとにそんな効果あるの?あの輪ゴム剣。まぁでも久々に痛みを感じられて少し面白かった。


「けほっ!だめです…今の私たちではあれには勝てません…ここはなんとか撤退するしか…」

「しかしあれが逃がしてくれるか…?」


むむ?どうやら逃げる相談をしているようだね。


「いいよ」

「な、なに…?」


「なんだかんだ言っても君たち恩人だし、面白い経験もできたから今回だけ見逃してあげる。ほら行った行った」


手をしっしっと降る。

相変わらずギシギシといびつな音が鳴る。


「くそっ!」


勇者たちは悔しそうにしながらも私の前から逃げ去っていった。

しばらく勇者少年が何とも言えない表情で私を見ていた。なんだあいつホント。

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