第2話人形少女は解き放たれる
数百年経っても私の状況は何も変わりはしない。
あの男の子孫に脈々と受け継がれていく私は操られるがままに殺戮を繰り返していく。
もう私が手にかけた人間は千じゃ済まないだろう。
人形だからなのか私の記憶は一切色あせない…いつまでもいつまでもこの手で殺した最初の人間の表情でさえ思い出せる。
あぁ…本当に前世から何も変わらないくだらない人生…いや人形生かな?略して人生。
我ながらくだらない。
あぁこの生き地獄はいつまで続くのだろうか。
あの男の子孫たちもほんと揃いも揃ってクズばかり…一人くらい突然変異で善人が産まれてこないものか…物語ならこのあたりで私を不憫に思った人が私を解放してくれるところじゃないのか?
まぁ今私が自由になれたのならその解放してくれた人間をぶち殺すけどもね。
先祖代々として私に地獄を見せてくれたお礼だ。怒りのぶつけどころがないとやるせなさがすごい。
そんな馬鹿なことを考えながら日々を過ごしていた時だった。私にとっての救世主が現れた。
「ぐっ!くそが!俺を舐めやがって!」
現在の私の所有者の男がその醜悪な顔を歪めて悪態をつく。
ただでさえ貧相な顔してるくせに余計に残念になってしまっている。早く死んでくれればいいのに。
とまぁそんなことは置いておいて、今何が起こっているのかというと…。
「いけるぞみんな!」
「ようやく会えた大物だ!絶対逃がすなよ!」
「はい!人類の敵!悪の権化をここで断ちます!」
きらびやかな見た目をした三人組が私と対峙している。
どうやら彼らは「勇者」と呼ばれる存在らしい…いたのね勇者。ならもっと早く来てほしかった。
悪と戦う正義の勇者…なるほどいうだけはあるよ?そこそこ強い。
でもだめだ、弱い。
もしかしたら200年…いや100年くらい早く来てくれれば私を倒せたかもしれないが今の私を倒すには明らかな練度不足だ。
この世界に来てからずっとずっと戦わせられ続けた私はその力もどんどん増してしまっている。
自分の身体だもの実感としてわかる…転生した当初から考えれば物理的な力も魔法的力も桁違いに上がってしまっているのだ。
もう少し強くなって出直してきておくれ…とまぁ当初は絶望していたのだがこれがまた、うまく行けば勇者たちが私に勝ってくれそうな気配なのだ。
というのも先ほど勇者たちに練度不足という評価を下したところだったがそれはこちらも同じなのだ。
いや私じゃないよ?私の今の所有者であるカス野郎の事である。
悲しいかなこの男…その貧相な見た目に比例するように恐ろしいほどの才能なしだった。
歴代でも最低じゃないだろうか?私という素晴らしい人形の力を10%も引きだせてない。
もうなんというか完全に私の素のスペックだけでなんとかやり合えてる感じだ。
「くそ!なんだこの人形!?硬すぎる!」
「今まで数えきれないほどの血を啜ってきた魔の人形です…生半可な力ではありませんね」
「みんな、俺に作戦がある」
それにしてもよくしゃべるね勇者たちよ。
丸聞こえだよ…しかし作戦か…いいね!どんどんやってみようか!ほら早く!
「くそっ!くそ!何やってるんだよこのクソ人形!はやくそんな奴らぶっ殺せよ!先祖代々受け継がれてるとか言っても全然ポンコツじゃねえか!」
いや操ってんのお前なんだよこのカス。とっとと死ねボケ。
とか願ってたのが天に届いたのか…なんと私の魔法的パワーによって360度ある視界にいつの間に移動したのか私の所有者のカスの背後に勇者の少年が迫っているのが映っていた。
おぉ!?いけるのか!?行ってしまうのか!?
この瞬間、私の心は希望で満たされた。このままいけば解放されるかもしれない…!やれ!やれー!
「ひっ!いつの間に!?クソ人形!俺を守れ!」
私を抑え込んでいた大男と聖職者のような恰好をした女を押しのけて私の身体は所有者のカスを守ろうと動き出す。
勇者の少年はすでに剣をカスに振り上げている。
今ここでもし、一瞬だけでも抗えたのなら…!私はこの世界に来て一番必死になった。
全力で、何もかもを押し込めてただ一瞬だけ支配に抗って動きを止めた。
それはほんの一瞬の事…コンマ1秒にも満たない一瞬。
だがそれは勇者にとっては十分な時間で…勇者がカスの首をはねた。
瞬間、がくんと私の身体から力が抜けた。
いや、私の身体を縛っていた糸が消えたのだ。
あぁ…!あぁ!あぁ!ああ!!!!久しく忘れていた感情…これが嬉しいって気持ち!!!!
「あはははははははは!やった!やったわ!ついに!うふふふふふふ!あはははははははは!」
この世界に来て私は初めて声を上げた。
だって嬉しいんだもの!こんなにも!今にも踊りだしてしまいたいほどに!
身体に力を入れて立ち上がる。ぎしっと球体の関節が音を立てて動き出す。
動く!自分の意志で!私は自由になれたんだ。
「あはははははははは!」
今から何をしよう!何でもできる!だって自由なんだもの!
でも、そんな嬉しさの絶頂にいる私を無粋な金属音が邪魔をする。
見ると勇者たちが各々、私を取り囲んで武器を構えていた。
「やめよう?せっかく解放してくれたんだもの。あなたたちの事は見逃してあげるつもりなんだよ?私」
「まさか喋れるとは思わなかったな…」
「どうする?所有者を殺せばそれで済んだと思ってたが…」
「ありえません…人形が自分の意志で動くなんて…やはり放置され過ぎたんです!この人形はもうただのパペットモンスターなんかじゃない…」
それを言い出したら最初から私は普通の人形じゃないと思うけどもね。
「う~ん…本当にやるつもり?言っておくけどあなたたち間違いなく死ぬよ?さっきまではあのカスが私をうまく扱えてなかっただけ…今の私は全力で戦える…意味わかるよね?」
さて、どうでる?私としては本当に見逃してあげたいところだ…だって解放してくれた恩人なんだもの。
「交渉はできませんか?」
「はい?」
勇者の少年の意外な一言に素で困惑してしまった。
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