第112話 終わる少女と口無し人形5

その夜、想いの花が借りている宿に同じくお世話になることになったルティエはベッドから起き上がることができなくなっていた。

極度の心労、ストレス…それが一気にその身体を蝕み、倒れてしまったのだ。


想いの花の三人は心配ではあったがルティエが眠りにつくと同時に闇のようなものがその身体を包み込んでしまい、接触できなくなってしまったため近場で食事をとっていた。


「あの感じただ事じゃないよね…」

「そうね。あの偉そうな男を見てから急にルティエちゃんの様子がおかしくなって…結局誰なのあのオッサン」

「貴族様だそうだ。ここから少ししたところにある領地を治めている侯爵様らしい」


「なんでそんなのがギルドに?」

「さぁな」


三人とも食べていないわけではないがテーブルに並べられた料理はほとんど手が付けられておらず、食が進んでいないことは一目瞭然だった。


「ルティエちゃんとどういう関係なのかしら?」

「…ギルドで少し話を聞いてきたんだが、どうも以前何かの戦いで武勲を上げた家らしく、使用人含めて荒っぽいところがある家らしい。そして娘がいるそうだが魔力が高い事で有名らしく、両親ともにそれはそれは可愛がってるとかなんとか」

「へぇ~」


ザンが先ほどの男について話すが、ルツとレミィはさほど興味を持たず、少しづつ飲み物を口に含むようにして飲んでいる。


「話はここからだ。その家にはもう一人娘がいたらしいんだが、社交界には出てこずに姿を見た人はほとんどいなかったらしい。そして噂だが侯爵家は家ぐるみでその娘を虐待しているという話が一部でささやかれていたのだが…俺たちが嬢ちゃんと出会った前日に病気で死んだらしい」

「ちょっと待ってよ!それってもしかして…」

「ルティエちゃんがその娘…?」


「確証はないし、虐待云々はあくまで噂だ。だがあの怯えように危険な森に一人でいたこと…世間知らずな部分があること…正直状況は限りなくそういう事だと思う」


それを聞いたレミィがもっていたグラスを落とし、ふらふらと立ち上がった。

ご飯時の時間帯という事もあり店は賑わっており、喧騒に飲まれて周りはその様子に気づかなかったがザンとルツはもちろんレミィの様子がおかしくなったことに疑問を覚える。


「どうしたレミィ」

「私…見たのよ…」

「なにを?」


両手で顔を覆い、今にも泣きだしてしまいそうな声色でレミィは話し出す。


「ルティエちゃんを連れて水浴びをしたとき…あの子恥ずかしいからって私とは少し離れた位置で、しかもあの大きな手が壁みたいになって水浴びしてたの…その時一瞬だけ…あの小さな背中が傷だらけで変色しているように見えて…一瞬だったしあんな森にいたんだから小さな傷と汚れを見間違えたのかなって思ってて…でももしかしたら…!!」

「落ち着けレミィ!全部憶測だ。それで取り乱したってしょうがないだろう」

「でももし事実だったら…?僕あのオッサン許せる自信ないよ…あんないい子を…!」


「とにかく落ち着け。もし可能ならルティエに話を聞こう…もちろん無理強いはしない。そして近いうちに拠点を移そう…まだ嬢ちゃんが俺たちのチームに入るかは分からんが安心して活躍できる町に送り届けるくらいはしよう」

「うん、賛成。レミィも取り敢えず座ろう。ご飯食べてルティエにお土産でも持って行ってあげようよ」

「…そうね、ごめんなさい」


なんとか落ち着きを取り戻した三人は今後の方針を決めると食事を進めるのだった。


――――――――


一方ルティエは光の差し込まない闇の中で巨大な人形に抱えられていた。

身体の震えも治まり、巨大な掌の上で身を休めている。


「…ここは真っ暗だけど自分の姿も人形さんの姿も見えて不思議なところだね」

「…」


「みんなびっくりさせちゃったかな…でもあの人の姿を見て声を聞いたら身体が…」


再びルティエの身体が震えそうになった時、巨大な指が優しくルティエの身体を撫でた。


「ありがとう人形さん。人形さんは…とっても優しいね」


ルティエが手を伸ばし、人形の頬を撫でる。

すると人形は顔を遠ざけてしまい、ルティエは手を引っ込めた。


「あ…もしかして嫌だった?」

「…」


人形はその瞳を閉じてうつむいている。


「もしかして照れてる…?」

「…」


「あははっ!」


いつの間にかルティエは笑っており、二人の不思議な交流はルティエが自然と寝てしまうまで続いた。

そして翌日。


「くそっ!やられた…」


不機嫌そうにザンがテーブルに一枚の紙を叩きつけた。

その剣幕に昨日の事で皆に罪悪感のようなものを感じていたルティエはビクッと身体を震えさせた。


「ちょっとルティエちゃんが怖がってるじゃない!」

「どうしたのさリーダー」

「すまん。だが一大事だ…この町にいる全ギルド所属者に強制集合がかけられた」


「はぁ?なによそれ」


全員が紙に書かれた文に目を通す。


「本日、日が頂上に上る頃に全ハンターはギルドに集合されたし。これは命令であり、無視したものに懲役等のは罰則が設けられる?ふざけてるの?」

「いいや…正真正銘ギルドから配られたものだ。そしてさっきこの紙を渡された時、近くにやたら派手な馬車が止まっていた」

「それって…」


三人の視線がルティエに向けられた。


「たぶん…昨日の男が絡んでいる」


それを聞いたルティエは無意識のうちに自らの身体を抱えるような姿勢になっており、顔を青ざめていた。

それを見た三人は昨日の推測がほとんど間違っていないことを確信したが、それゆえに頭を抱えることになってしまった。


「くそ…ハンター登録しちまってるからルティエも出ないわけにはいかない…どうするか」

「一人くらいはばれないんじゃ…?」

「馬鹿!私たちは基本的にこのカードで今どこにいるかの大雑把な位置はギルド側から把握されてるの!もしかしたら無くしたフリとかうまくやれるかもしれないけれどもしバレたら…」

「あ、あの…もしかして皆さん私と…侯爵様の事知っているのですか…?」


ルティエのその言葉に三人はしまったと思った。

まだ本人には確認していない状況で不自然な言動をしてしまったと後悔した。

しかしこうなったら事情を知っておいたほうがいいかもしれないと素直に打ち明けた。


「そうですか…わかりました。お話しします…私の事を」


ルティエは自分の過去について話し始めた。

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