第33話人形少女は覚醒される
「わぁ」
光の柱が棘をいきなり砕いてきたので、すっごくびっくりして何事かと見てみるとそこに見覚えのある顔があった。
「な…なんで!?」
向こうも私を見てびっくりしているようで…まぁでも知らない仲でもないので気さくに挨拶をしてみる。
「やぁやぁ久しぶりだね~勇者くん」
「全員さがって!近づかないでください!」
そんな聞き覚えのある大声で周りの騎士たちを遠ざけようとしていたのは聖職者ちゃんだった。
よく見ると大男もいる。
勇者パーティはやっぱり仲良しなんだなぁ。
「どうしてここにいるんですか…」
勇者くんが例の輪ゴム剣を私に向けて、そう問いかけてきた。
それは私が聞きたいところなんだけども…まぁ勇者なんてそんなもんだよね!
騒動あるところに勇者アリ…これが主人公補正か…。おっと、変な事考えて勇者くんのこと無視しちゃってたよ~あぶないあぶない。
「ちょっと大切な用事があってね~たまたま来てたんだ~」
「もしかして…今回のこの騒動は全てあなたの仕業ということですか」
なんでそうなった。
そんな要素が一ミリでも今の説明にあった…?
「残念だけど、一から十まで無関係で~す」
「それを信じろと!?」
聖職者ちゃんが親の仇のような目を向けてくるけれど本当に無関係だからしょうがないじゃんね。
「おい見ろ…あの悪魔の足元…骨が落ちているぞ!」
「まさか親でさえ喰ったというのか…なんと醜悪な…」
「邪悪な悪魔め!滅びよ!」
そんな状況であら大変。
騎士の何人かが私の後ろにいるメイラに武器を持って近づこうとするので適当に首をはねておく。
あ、貰った袖の長い服着たまま腕から刃を出しちゃったから破れてしまった…まぁいいや。
そんなことよりまずは勇者くんたちの誤解は解いておきたいからね。
「逆になんで信じてくれないのかな?私が関わってるって証拠もないでしょうに」
軽く腕を振って刃についた返り血を落とす。
「ダメです話になりません…レクトさん、アグスさん覚悟はいいですか」
「…わかった」
「俺も行けるぜぃ」
穏便に会話をしていたはずなのに勇者くんたちは何故か臨戦態勢だ。
解せぬ…何が悪かったのか…。
しかし今の目的はメイラを無事に逃がすことだからできれば戦闘は避けたいのよね~…ここはいい子ちゃんを気取って話し合いで解決する努力をしようじゃないか。
「まぁまぁ待ってよ。私は戦うつもりはないの、話を聞いてくれないかな」
勇者たちの遥か背後から、こちらに向かって魔法を使おうとしている気配があったので、そっちのほうに適当に例の私の謎の飛ぶ斬撃を投げておく。
「今回はねメイラちゃん…あ~そこの子をね?ここから逃がしてあげたいだけなの」
私達の背後から弓を構えている人たちが見えたので魔法で大きな火の玉を作って放り投げる。
以前べリアちゃんに見せてもらった爆発する炎を参考に作った魔法なので着弾と同時に大爆発を起こす。
「だからさ、こっちからはなにもしないから見逃してくれないかな?」
「もうやめなさい!」
私の足元に何か瓶のようなものを聖職者ちゃんが投げた。
それは当然の結果として地面に落ちると同時に割れて、中の水のようなものが飛び散る。
その様子を聖職者ちゃんはかたずをのんで見守っているのだけれど…何がしたいの…?
「きゃぁああ!痛い…!」
後ろのメイラちゃんが急に痛がり始めた。
え…?一体何が…?
「やはり聖水がきかない…あれで邪悪な存在じゃないなんて…」
なるほど…あれはなんか邪悪な何かとかそういうのに効果がある水だったらしい。
そら私には効かないでしょうに…何も悪い事なんてしてないし。
メイラちゃんはやっぱり人を食べちゃったりしたのがまずかったのかもしれないね。
まぁいいか、とりあえず聖職者ちゃんは殺しておこう。
腕を振りかぶり、斬撃を飛ばす。
「させない…!」
「おや」
勇者くんが間に入り、斬撃を受け止めた。
あらら…やってしまったかな?と思ったけれどなんとなんと、勇者くんは見事に受け止めて無事に立っていた。
この技って防がれたの何気に初な気がする。
「うおらぁあああああああ!!!」
勇者くんに気を取られていた隙に大男が接近してハンマーを振り上げていた。
受けてもいいけれど気分的に嫌なのでハンマーに合わせて拳を打ち付け砕く。
そのまま抜き手に構えなおし、大男の胸を貫く…はずだったけれど存外に反応が良くてよけられてしまい、肩口を貫くだけに終わった。
「ぐぁ!くそっ!」
「はいは~い、離れてね~」
仕方がないので大男は蹴り飛ばしておく。
そしてお次は勇者が突撃してきていたのでその輪ゴム剣を腕の刃で受け止める。
あれ普通に腕で受けたりすると痛いからね!
「なんでこんなことをするんですか!」
「うん?」
こんなことってどんなことだろうか?
「人を…こんなに簡単に殺すなんて!!」
「いやいや…私だって殺すつもりはなかったよ。さっきも戦うつもりはないって言ったじゃない」
「でも殺した!」
「手を出してくるんだから対処しないと大事になるでしょう?」
「彼らは自分の仕事を果たそうとしただけで…!」
「私だってメイラちゃんを守るって役目を果たしてるところなのよ~」
さっきから何なのだ…前回もそうだったけれど勇者くんの言うことは私にはさっぱりわからない。
「その子の人生をあなたが踏みにじったのに!!」
「…はい?」
「人を悪魔にするなんて…何が目的なんですか!」
「だから私じゃないってば」
いい加減うるさいと感じてきたので適当に魔法も駆使しつつあしらう。
しかし器用にも勇者くんは攻撃をかわし、私に斬りかかってくる。
「俺は…俺は心のどこかであなたを信じたかった…でも人を…人の人生を台無しにするのは、命を踏みにじるのは許せない!」
「あのさぁ…」
私は痛いのを覚悟で輪ゴム剣を素手で受け止め掴む。
そして勇者くんを引き寄せて、その目を覗き込んだ。
「もしその台無しになった人生ってのがメイラちゃんの事を言っているのなら…とんだ勘違いだよ」
「なに、を…」
「確かにメイラちゃんの人生はちょっと変わってしまったかもしれないけれど…まだあの子は生きたいって言ってるの。人じゃなくなったって幸せに生きる権利は誰にでもあるはずでしょう?あの子は前を向こうとしてるの。その人生を勝手に他人が台無しだとか言うんじゃない」
そのまま勇者くんを放り投げる。
そのまま地面に激突して動かなくなってしまった。
え?死んだ?いやいや…そんなはずは…。
「どうして…」
「よかった生きてた」
「どうしてそんな綺麗な言葉を言えるのに…あなたは人を殺そうとするんだ」
「はぁ…私の邪魔をするから、だよ」
その時、勇者くんの身体から光があふれだした。
え…なにあれ!?
ただ光るだけじゃなくてその力が目に見えて膨れ上がっていく。
「俺が…あなたを止める!」
立ち上がり輪ゴム剣を構えた勇者くんの姿が視界から消えた。
「え…?」
そして気づいた時には私の正面にいて輪ゴム剣を振り下ろしていて…腕の刃で受け止めようとしたら私の刃が粉々に砕かれた。
「ええ!?」
慌ててメイラちゃんを小脇に抱えて後ろに飛びのく。
何があったの今…あの輪ゴム剣で私の刃が砕かれるなんて…。
「おいおいすげぇじゃねえかぁレクト!」
「レクトさん!その力はいったい!?」
勇者くんは自分でも驚いているらしく、自身の腕を見つめていた。
そしてその口がゆっくりと開く。
「か…ぐ…ら…神楽?この力の名前は…神楽」
何かを理解したようにうなずくと、やけに力強い視線を私に向けてきた。
神楽?なにそれかっこいい…というかこれはあれか。
私はもしかして勇者くんの覚醒イベントの噛ませにされたやつか。
私は勇者の…世界の理不尽さを少しだけ恨めしく思った。
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