第78話魔王少女の愛
――トクン…。
特に意識していなくてもお腹の中に確かに私以外の鼓動を感じる。
ここにいるのは私の王子様との愛の証。家族の証明。
この子がいる限り、きっとリリは私の事を愛していてくれる。私だけの王子様でいてくれる。
無条件で私を助けてくれて、他の誰でもないここにいる私を愛してくれる強くて優しい王子様に。
それを考えるとこの子の事がたまらなく愛おしく思えるし、どんな苦痛だって喜んで受け入れられる。
最初は辛くて辛くて死んでしまいそうだった。
お腹に子供がいると認識したその瞬間から常に身を引き裂くような激痛が走っていたし、血だって吐いた。
絶対に普通じゃない…そうは思ったけれど、リリが嬉しそうな表情をするのが嬉しかった。
私に微笑んでくれるのがたまらなく快感だった。
私を大切に、優しく扱ってくれるのが気持ちよかった。
あんなにすごい力を持っていて、誰の言うことも聞かないリリが私に依存していくのがたまらなかった。
私の顔色を恐る恐る窺ってくるのにゾクゾクとしたものを感じた。
私のために傷ついてくれるのが素敵だった。
私のために血に濡れている姿がとっても綺麗でずっと見ていたかった。
そしてそんな身勝手な私が大嫌いだった。
必死にまっすぐに私に好きだと伝えてくれる純粋な彼女…それをまっすぐに受け取ることのできない私。
あんなにすごくて綺麗なリリが、こんな何の取り柄もない私を好きでいることが信じられない…何度愛を囁かれても、何度好きだと言われても…綺麗でも強くもない、何もない小娘の私を私が信じられない。
だからこそ、お腹のこの子は何があっても大切に育てる。
そうすればリリはさらに私に依存してくれて、好きでいてくれる…私も自信が持てるかもしれない。
「だからどれだけ痛くしてもいい…辛くしてもいい…たとえ私がどうなってもキミがいてくれれば私は愛されるはずだから」
リリからの説明を聞いて、とても危険な状態だったのを魔族の最大の敵である帝国の皇帝に対策してもらったそうだけれど…今この瞬間にもお腹の子供が私の身体を蝕んでいるのが分かる。
魔力や精神力といったものが生きていけるギリギリまで吸われている感じがするのだ。
身体を引き裂かれそうな痛みも、身体の中身を全て吐き出してしまいそうなほどの苦痛もなくならない。
それがとってもとっても嬉しい。
それだけ元気という事なのだから。もっともっと、私なんかでいいのならいっぱい食べて、すくすくと育ってほしい。
この苦しみも含めて愛しくて愛しくてたまらない。
私とリリを繋いでくれるキミが愛しくてたまらないの…だから早く元気に産まれてきて。
その身体を抱きしめさせて、愛を注がせて。
幼いころからずっとずっと夢だった素敵なお嫁さん。
大好きな王子様と子供に囲まれて、絵本のお姫様の様になんて言わない。
一人の女の子としての幸せが欲しい。
ズキンとお腹に鋭い痛みがはしった。
…もしかしたら怒られたのかもしれない。
「ごめんね、自分勝手な願いばかり押し付けちゃったかもね」
だけどキミが愛おしいのは、なんの思惑もなくてそこは本当なの。
だからお願い、怒らないで。
私も…そしてきっとリリもあなたを愛してる。あなたは間違いなく愛されてこの世界に生まれ落ちるの。
そして私たちの愛を永遠のものにしてくれる。
だから早くその顔を見せて。
溢れんばかりの愛を注がせて。
身体中を激痛が襲った。
強烈な吐き気も同時に覚える。
「うぁぁ…くっ…」
「…マオちゃん…?」
「あ…はぁ…ごめん、起こしちゃったかな…」
「ううん。どうしたの?もしかしてまだ辛い?」
「大丈夫だよ。お腹に子供がいるんだからこういうものだよ」
「そっか…ごめんね、代わってあげられたらいいのに…」
「ダメだよ。私はこれがすっごく嬉しいんだから。この子の存在を確かに感じられて」
「マオちゃん…」
ベッドの中でリリが優しく抱きしめてくれた。
少しでも力をこめれば私を絞め殺すことすら簡単にできるはずなのに、少しでも傷つけないようにと優しくしてくれるのが嬉しい。
初めて会った時は怖くてたまらなかったのに…一体いつからこんなにもリリの事が好きになったのか。
そう…好きなんだ。
だからこそいつか愛されなくなるのが怖い。私の事を見てくれなくなることが怖い。
だから、だから、だから、だから、だから、
だから、だから、だから、だから、だから、
1つでもリリを繋ぎとめるための鎖が欲しい。
そのためなら私の何を無くしてもいい。
あなたに愛されない私なんてもう考えられない…そんな私は私じゃない。
だから愛がなくなれば殺してと頼んだ。
だからお願い…そうはならないで。ずっとずっと私を愛して、愛させて。
世界が終わったとしても、世界中のなにもかもが消え失せてしまったとしても。
死がふたりを分かつまで…永遠に。
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