第310話 番外編 お返しの日
今日はリリがチョコをくれてから一か月たった日…の一日前。
あの後リリから色々話を聞いて、その結果例のばれ…バレンタイン?から一月たった日はホワイトデーと言ってチョコを貰った人がお返しをする日らしい。
リリは「お返しは気にしなくていいよ~」って言っていたけれどすごく頑張ってくれたみたいだからそれに見合うお返しはしたい。
リリ曰く私は記念日やお祝い事に全くムードが出せていないらしいけれど…まぁ実際その通りだ。
なんていうか…苦手というかなんというか…私はいつもの日常ってものが好きだから、記念日だとか特別な事をする日って言うのがいまいち乗り切れないところはあると思う。
だけどリリがそれをやって嬉しいのなら私も嬉しいから。
「チョコ作るか~」
と意気込んだのがだいたい半日前。
私の眼前には天高く積みあがったチョコレートケーキの山があった。
元々料理が好きだったのだけれど…リリがどういうのなら喜んでくれるのかなと無心で作っていたら凄い事になってしまった。
「どうしようこれ」
パーティーでもするのかな?どうやって消費するのよこれと頭を抱える。
でもこれだけ量を作ればリリが喜んでくれるやつが一つくらいあるかも?うーん…というかリリって甘いもの好きなのかな?食べることは好きだからよくアマリリスと一緒に色々食べているけどどちらかと言うとお惣菜系をよく食べている印象がある。
うーん…やっぱりメインも何か作ったほうが喜んでくれるかな?でもチョコのお返しにお肉!ってのも何か違う気がする…。
どうしようかなぁ…。
「魔王様」
「ん?」
頭を悩ませていると声をかけられ、振り向くとクチナシさんが無表情でそこに立っていた。
リリにそっくりだけど確かに違う、そんな不思議な雰囲気の瞳で私を…いや私の前にある何かを見ている。
「…今日は何かパーティーでも?」
「ああうん…そういうわけじゃないんだけど…」
あらためてキッチンに広がるケーキの山を見て驚いた。
なんといつの間にか量が二倍近く増えている。
どうやら総菜がどうのこうの考えていた間にさらに無意識で量産してしまっていたらしい。
いよいよまずいよねこれ…。
「…なにか悩み事なら相談に乗りましょうか?私でよければですが」
「そうだね…聞いてもらおうかな?」
私はクチナシさんに話を聞いてもらうことにした。
「…なるほど。マスターが好きな食べ物が分からないと」
「うん。もしかしてクチナシさんそう言うの知らないかな?」
「私はあまり食に関心がありませんので意識したことは無いですが…マスターは魔王様が作ったものなら何でも喜ぶのでは?」
「うーん…でもリリは特別なのが好きみたいだから特別喜んでくれるものを作りたいなって」
「そうですか。しかし私が見たところマスターには特別好きな食べ物は無いように見えます」
「そうなの?」
リリと言えば食べ物ってくらいのイメージが私にはあるのだけど…。
最近はあの小さな身体で私の3倍くらい食べるアマリリスにそのイメージを塗り替えられつつあるけれど、それでもご飯を食べている時のリリは幸せそうに笑っている。
「…なにやら楽しそうですね」
「え?」
「口元、笑ってますよ」
「あら」
どうやらリリの笑顔を思い浮かべているうちに私まで表情が緩んでしまっていたらしい。
恥ずかしい…。
「でもそういう事じゃないでしょうか」
「ん?」
「好きな人を思い浮かべて作る料理というのは、それだけで「特別」なのでは?」
私はその言葉に衝撃を受けた。
まさに電撃を受けたような衝撃だ。
確かに私は考えすぎていたのかもしれない…リリにチョコを貰って嬉しかったのはチョコ自体じゃなくて、そこに込められた想いだ。
特別な日に特別な物を用意してくれたという気持ちが嬉しかったのだ。
「そうだよね…うん、その通りだ。ありがとうクチナシさん」
「いえ、お役に立てたのなら嬉しい限りです」
「よ~し!方向性は固まった!頑張ろうっと」
そうして私は包丁を片手に料理を再開したのだった。
──────────
キッチンをそっと後にしたクチナシを、隠れるようにして様子を伺っていたメイラが迎えた。
「どうだった?クチナシちゃん」
「ええなんとかなったと思います」
「よかった…あのままだとキッチンがケーキで埋まっちゃいそうだったからね…」
「わざわざ私を呼ばなくてもメイラが言えばよかったのでは?私が言うには随分と…人間味のある言葉だったと思うのですが」
クチナシが懐から一枚の紙を取り出した。
そこには先ほどマオに伝えた言葉が一言一句そのまま書かれている。
「いや…ほら、私あんまり魔王様といい関係じゃないからさ。クチナシちゃんのほうがいいかなって」
「むしろ関係を改善させるチャンスだったような気もしますが」
「そうなんだけどさ…」
「まぁ無理にとは言いませんが。タイミングもあるでしょうし」
「うん…せっかく楽しそうなんだし今日じゃないかなって」
「そうですか。ではとりあえず行きましょうか。余計なお世話かもしれませんがマスターがこちらに来ないようにしましょう」
──────────
そして翌日。
「リリ。え~となんだっけ?ほわいとでー?だっけ、ハッピーホワイトデー!」
「うぉぉぉぉ…」
楽しそうに笑うマオちゃんに連れられて部屋に入るとどえらい光景が広がっていた。
見渡す限り広がる無限の料理、料理、料理。
肉!サラダ!ケーキ!この屋敷にある食材全部使ったのではないかというほどに大量の料理が所狭しと並べられている。
嬉しいけど絶対これホワイトデーじゃない…。
前世で経験したことないけれど、何かが違う事だけは分かる。
「えへへ…リリの事考えてたらいっぱい作っちゃった。これ食べたら笑ってくれるかな?って。そしたらレパートリーにあるの一通りできちゃって」
可愛いこと言ってくれるじゃないかちくしょう!
照れくさそうに笑う顔に存在しない心臓を射抜かれた感覚がする。
何かズレてはいるけれど何も問題はないじゃないか!これだってホワイトデーだ!だってこんなにもマオちゃんが可愛いのだから!
私はナイフとフォークを武器にマオちゃんが作りし料理の城の攻略に挑むのだった。
余談だが、この料理は屋敷に住むもの総出で食べ物を保存する魔法を使いつつ三日三晩食べて消費を続けたという。
小食のリフィルとクチナシ、フォスは早々にダウン。
食べられないメイラは舞台にすら上がれず、悪魔たちは善戦してはいたが3割ほどでギブ。
約七割ほどリリとアマリリスの胃に収まったのだった。
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