第311話 人形少女は聞かされる

「クララちゃんどうしたの…?酷い怪我してるみたいだけど」

「え~?怪我なんてしてないよぉ~☆これは~今はやりのゾンビメイク…げふぅっ」


ダブルピースをキメて何やら言っていたクララちゃんが血を吐き出し、ポーズを取ったままの姿勢で倒れた。


正面から見ても酷かったけど背中側もすごい傷だらけだ。

そのままにもしておけないのでとりあえず傷の手当くらいはしてあげないと…。


「私たちが運びますね。ほら手伝ってください」


メイラがクララちゃんの脇下に手を差し込み、持ち上げて足側を悪魔さん達が同じように持ち上げて運んでいく。


結構血が流れてるけどメイラは大丈夫なのかな?何も反応していないところを見ると大丈夫なのか。

あれ?そう言えば実は龍なんだっけ?なんかクチナシに土下座されながらそんな事を言われた気がする。


一体なんであんなことになってるのか、なぜここに来たのか気になることは多いけれどそれはクララちゃんが回復してからにしよう。

とりあえず今は魔法の開発が先だ。


「じゃあまずは魔法を頑張って作ろうか」

「はい」


クチナシがベッドに座り、私と両の手のひらを合わせて目を閉じる。


「じゃあ私は…ちょっと汚れちゃってるから掃除でもしておくね」


言われて気がついたけれど寝室の入り口付近がクララちゃんの血でべしゃべしゃになってしまっている。

たぶんだけどあの様子ならこの部屋に来るまでに結構血を流しながら歩いて来たのではないだろうか?


「マオちゃん私も掃除を…」

「ううん、リリはそっちに集中して。早く魔法を作ってもらわないと安心できないから」


「う、うん…ごめんね」

「謝ることなんてないから。じゃあ頑張ってね」


そうして私の新魔法創造が始まった。

クチナシと同じように瞳を閉じると私とクチナシの腕をぐるぐると魔力が循環していくのが分かる。


そのままじっと魔力の流れに身を任せていると辺りの音は消え去って、私とクチナシ二人だけの世界が出来上がる。


(やることはマスターがオリジナル魔法を作る時と同じです。イメージして勘と直感で手を加える)


喋ってはいないのにクチナシの考えが声のように聞こえてくる。

というか勘と直感ってほぼ同じ意味じゃないの…?知らないけども。


(おっけ~。でもなんとなくイメージ湧かないんだよね…攻撃系じゃないからかなぁ?)

(私がズレているところの修正は行います。とにかく先ほど言った制御魔法の効果を思い浮かべながら好きにイジりましょう)


(頑張る)


そこからはまさに試行錯誤。

なんだかよく分からない魔法が何個かできるほどには脇道にそれたりなんたり…明らかにおかしい方向に行きそうになるとクチナシが軌道修正をしてくれたけど何回かは見逃され、その結果謎の新魔法ができた。


おそらくは私に協力する傍ら自分の趣味にも利用されているような気がする。

まぁいいんだけどさ。


やがてそれっぽい魔法の…原型?のようなものができた段階で一度休憩をしようという事になり閉じていた目を開く。

それと同時に一気に周りに音が戻ってきて…。


「キラキラな世界を~☆」

「「キラ!!」」


「み・せ・て・あげっるわ~☆」

「「いぇ~~~い!!」」


「みんな~コール行くよー☆!!!」

「「L・O・V・Eク・ラ・ラ!!」」


まさかの寝室でクララちゃんのライブが開かれていた。

めちゃくちゃうるさい。


この爆音が聞こえなかったとはかなり集中していたようだ。

どれくらい時間が経ったのかは分からないけれど、クララちゃんは完全に回復しているらしく、シーツか何かをひらひらしたドレスのように着こなして歌って踊っていて、それを見ている娘たちが熱いコールを送っている。


相変わらずクララちゃんが好きだね娘たちよ。

でもとりあえずは…。


「あの、ちょっと静かにしてもらっていい?」


──────────


ひとまず閑話休題。

皆で寝室を後にして広間でお茶をすることにした。

私はマオちゃんが言った通り娘たちにしこたま怒られて泣かれてしまい。精神的にかなりきてしまったのでこれからは気を付けようと心に誓う。


子供に悲しみの涙を流される親にはなりたくない…というかなってしまったので反省。

いい親という物がどういうのかは分からないけれど、悪い親にはなりたくないよね。


そしてこの屋敷にいる全員でテーブルを囲み、お茶とお菓子が行きわたったところでクララちゃんに事情を聞くことに。


「それで?クララちゃんはどうしてここに?」

「え~☆知り合いが~ここにしかいないから?」


何とも悲しい理由だった。

友達いないのかいクララちゃんよ。

まぁ私にもそんなにいないがな!!!!


「じゃああの怪我は?」

「ん~…あのクソガキ…じゃなくてえ~と皇帝…じゃないのかもう…ん~とあの金髪の…」


誰かの名前を出そうとしているようだが名前が出ないらしい。

金髪で皇帝となるとコウちゃんしかいないけれど知り合いなのかな?


「コウちゃんの事?」

「誰それ。もっと違う名前だったと思うのだけど…」


そっか、なんとなくコウちゃんが定着していたけれど本名じゃなかったねアレ。

本名なんだっけかなぁ…。


「フォス様の事ですか?」


さっきまでいなかったはずのアーちゃんがいつの間にか私の背後にいた。

何の気配も感じなかった…やるなアーちゃん。


「そう、そんな名前。いないの?」

「ええ、フォス様は少し忙しいので」


「そっかぁ…まぁじゃあ君たちに話しておこうかな☆実は少し前まで原初の神と戦ってたのだけど…」


そんな衝撃の幕開けと共にクララちゃんの回想がはじまった。

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