第217話 人形少女は心当たりがない

「お待ちください我が神よ!」


周りが棘に覆われているからなのか声が反響してすごくうるさい。


「なに?」

「私を、私を連れて行ってください!あなたのような神聖で気高い神にはその邪悪な悪魔よりも私のような者を側に置くのが相応しいはずです!」


神聖で気高い…?私が?

自分で言うのもなんだけど私は自分の事を大した人間…人形だとは思ってない。

結構自分勝手だな~という自覚もあるし、いわゆる普通とはかけ離れていると思っているんだけど…。


「私って神聖で気高いの?」

「…まぁ…そんなところもあるかも…?」


メイラに聞いてみると微妙を極めた反応が返ってきたのでやはり神聖で気高いなんてことは無いようだ。


「あのさぁなんだかわからないけど、その我が神だとかやめてくれないかな?」

「あなたは私がずっと待ち望んでいた神だ!」


「いや知らんし」


勝手に待ち望まないでいただきたい。


「あなたは私が幼いころ夢に見た神…そうなのでしょう!?」

「違います」


夢とか知らないし間違いなく人違いだ。

それか妄想。


なんというかこの人前世で生きていたのならストーカーとかになってそうだよね。

というか私を殺した奴もしかしてストーカーだったんじゃないだろうな?今ほどじゃないけど顔は悪くなかったし…いやどうでもいいか。


「違わない!確かにあなただった!あの美しい光景に佇んでいた神は間違いなくあなただ!」

「そんな事言われても…」


「違うというのなら私のこの力は何だ!生まれつき備わっていたこの特殊な力は!これは神の加護なのでしょう!?あなたが私に与えてくださった力なのでしょう!?」

「し~ら~な~い~」


びっくりするほど心当たりがない。

というか幼い時っていつだよ。私はキミが幼かったころはたぶん絶賛操り人形だったぞ?

そんな状況で何かできるもんか。

だいたい今もやろうとして力を授けるなんてマネができるのか疑問が残る。


「リリさん、もう行きましょう。正直ここまでおかしな人だとは思いませんでした」

「うむ」


私は最初からおかしな人だとは思ってたけど方向性の違うおかしな人だった。


「余計な口を出すな悪魔!貴様のような汚らわしい存在が私の神に…!」

「あ~もううるさい」


なんだかめんどくさくなって適当にオリジナル魔法カオススフィアを発動させてみた。


「こ、これは!?素晴らしい…なんと強大な力だ…!!」


いや私の保有している魔力の一割も使ってませんが?

隣を見るとメイラもちょっと怯えたような表情になっていた。

クチナシが前に私は魔力量だとか魔法の才能だとかが桁外れとか言ってて、私は「まっさか~そんなはずないよ~こんな簡単な事~」と軽く流していたけどまさか本当だったのかな?


だとしたら上記のセリフはうざい事この上ない。

あとでクチナシに謝っておかないと私の株がダダ下がりしているかもしれない。


あの子私に従順なようで結構言う事聞かないからな!いや、それでいいんだけどね?あの子だって生きてるんだからさ。


「じゃあ私たち帰るから、ばいばい」


ぽいっとカオススフィアを投げた。


なんとなく耳触りのいい音を立てて棘が砕けていく。

やがて私の魔法は教会をどんどん飲み込み分解していき…。


「はははははは!すばらしい!やはりあなたは私の…」


闇が教主をも含め全てを飲み込んだ。

慌てて逃げようとするメイラを背に庇って、闇の爆発が収まったころには何も残っていなかった。

うむ、相変わらず掃除に便利な魔法だ。


「メイラ大丈夫だった?」

「し、死んだかと思いました…」


範囲が広すぎて味方も巻き込んでしまいかねないのは改善の余地ありかもね。

私には効かないから私が庇えばいいのだけどさ。


「さて、じゃあ今度こそ帰ろうか」

「はい」


メイラを連れて空間移動をしようとした時だった。

視界の端で見覚えのある人影が見えた。


「…馬鹿な人間だ。ただ踊らされていただけとも気づかずに」


そう呟いて地面から何かを拾い上げたのは…アルギナさんだった。


「あれ!?アルギナさん何やってるの?」


マオちゃんが以前殺したとか言ってた気がするのだけど…。

もしかしておばけ!?そういえばかなり透けてる気がする!!


「久しいなリリ」

「う、うん久しぶり」


「哀れだとは思わんか」

「なにが?」


「先ほどの男はないわゆる先祖返りだ。あいつの祖先が持っていた力がどういうわけか今の時代のあいつに継承されてしまったんだろうな」

「ほほう?」


相変わらず難しい事を言う人だ。


「興味ないか?まぁそうだろうな。あの男が見た夢の神と言うのも多分…お前じゃなくて人の死体を積み上げた原初の神だろうしな」


ひゅんとアルギナさんが手に持っていた何か…たぶんさっき地面から拾い上げた物を投げ渡してきた。

キャッチしたそれを見てみるとキラキラと輝く不思議な石のように見えた。


「これは?」

「持っていろ。役に立つかは知らんがな」


「んん?」


なんだか不思議な感覚だ。

この石を見ていると懐かしいような…そんな気持ちになる。

まるで同じ境遇の仲間を見つけたような感じだ。


「ああそれと早く戻ったほうがいいぞ」

「え?」


「お前の住んでいる場所で誰かが戦っているようだ。それにともなって原初の神にも場所が割れてしまったようだな」

「マジか」


それは早く帰らないとまずい?のかもしれない。

なんでそんな事になってるのかはわからないけど。


「じゃあ急いで帰るよメイラ」


今度こそ空間移動を発動させて先にメイラを押し込む。

屋敷で誰かが戦っているとなると娘たちが心配だ。


「リリ」


今度はアルギナさんが私を呼び止めた。

急げと言うのなら呼び止めないでほしい。というかなぜ私が移動しようとすると皆呼び止めるのか。


「なぁに?」

「…いや、あの子をよろしく頼む」


「あの子?もしかしてレイちゃん?」

「アルソフィアの事だ」


「アルソフィア…マオちゃん?」

「ああ。私が言えた義理ではないが…幸せにしてやってくれ」


「なんだかアルギナさん雰囲気変わった?」

「そうかもな。私も気づかないうちに「私の本体」に少なからず思考の誘導を受けていたと今なら分かるな。憑き物が落ちたというやつだ」


そういうアルギナさんの顔は確かに以前までの硬さはなく、どことなく柔らかい感じがした。


「そっか~」

「それでもお前のことが嫌いな事は変わらんけどな。まぁでもいつまでも老人が出しゃばっても仕方ないからな」


「私はアルギナさんの事そこそこ好きだったよ」

「うるさいわ。…とにかく頼んだ。お前たちの歩いた先がどんな未来につながるのかは知らんが…私の…娘の事は最期まで捨てないでやってくれ」


そのまま逃げるようにしてアルギナさんの姿は消えてしまった。

娘の部分だけ照れるように声のボリュームが落ちたのがなんだかおかしかった。


「認めてくれたのかな?任せてアルギナさん!娘さんは私が責任をもって幸せにしまーす!」


聞こえたかは分からないけど大声でそう宣言しておいた。

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