第216話 人形少女は気に留めない

「教主様。あなたは…どんな味がしますかね?」


メイラのそんな言葉と共にただでさえ棘が凄い事になっている教会内にさらに棘が突き出していく。

もはや棘の下から棘が出たり、棘から棘が出ているような意味不明の状況だ。

ちなみにだけど個人的に言わせてもらうなら教主はあんまりお肉がないからそんなに美味しくなさそう。


「さて、無駄な肉はつけていないので筋張っていて美味しくはないかもしれませんね!」


ほぼ同じこと言いやがった。

なんとなく嫌な気持ちになったよ私は。

それはともかく教主は何もせずそのまま棘をその身に受けたのだが…なぜか身体に棘が刺さっておらず、平然としている。


「なんだ今の」


私には一応見えたのだが…棘が教主に接触する瞬間、溶けたのだ。

ドロッと棘が溶けて次の瞬間には教主に当たらない位置で再構成された…とでも言えばいいのだろうか?

なんだかよく分からない妙な能力を持っているらしい。

いいなぁあれ。

私もあんな能力があれば現在進行形で私に襲い掛かっている棘から逃げ回らなくていいじゃんね。


「何度やっても無駄ですよ。この身は神の寵愛を受けていますので…あなたのような邪悪な悪魔の力では神聖なこの身体を傷つけることなどできはしない」

「そうですか、ふふふふふふふふ!」


メイラは構わず棘を出し続けながら笑っている。

すると教主もしびれを切らしたのか手の中に、まるで奇術師か何かのように手の中に数本のナイフを出現させるとそれをメイラに投擲。


そのナイフはまるでメイラとの間にある棘なんてないかのようにすり抜けながら直進し、メイラに突き刺さる。


なんなんだあの男。ちょっと強すぎない?

血を流すメイラを見てちょっとむかむかしてきた…手を出したほうがいいのだろうか?

でもメイラは依然笑っているし余計なお世話かもしれない。


「ダメですよぉ教主様…やるなら中途半端じゃなくてしっかり殺さないと…こうなりますよ!」


メイラが自分に突き刺さったナイフを勢いよく引きぬくと血が勢いよく吹き出し、空中に飛び散っていく。

そしてその血は真っ赤な棘へと変わり、つららのように教主に降り注いだ。


「何度やっても無駄だと言うのです」


きっとあの棘も先ほどまでと同じように教主に当たらないのだろうけど…でも気づいているのだろうか?


「ふふふふふふふふ!」

「何を笑って…っ!?」


遂に教主の足元から伸びた棘の一本がその足に突き刺さった。


「あははははははははは!なんで当たらないのかは全く分からないですけど…当たらないのなら逃げ道がないほど埋め尽くしてあげれば一つくらいは当たりますよねぇ!!」


そう、すでに彼の足元はもう逃げ場がないほどに棘で埋め尽くされており、簡潔に言うのならすでに棘の逃げ道がないのだ。

となると必然的にもう棘は教主の身体に突き刺さるしかない。

そしてそうなってしまえばもうメイラの勝ちだ。


「うふふふふふ!さぁてどんな味ですかねぇ~」


棘の刺さった教主の足から血が噴き出した。

また、ブチブチと音を立てて足の内側から無数の棘が生えてきてズタズタにしていく。

うへぇ…かなり怖い光景だ。


「ぐがぁあああああ!?」

「う…なんか変な味が混じってますよ教主様…あまりおいしくない…」


メイラが眉を歪めてぺっぺっと何かを軽く吐き出す仕草をした。

いつの間にか直接食べなくてもよくなってるの?いやでも普段はお肉食べてるしどうなんだろう?


「貴様ぁ!自分が何をやっているのか分かっているのか!?」

「食事ですがぁ~?」


「私は選ばれたんだ!神に!だから生まれつき様々な能力を持っていた!この神の目も!神の腕もそうだ!それを貴様は傷つけた!この罪は重いぞ!!」

「罪?罪なんてありませんよ。だって私の神様が私を赦してくれるのですから」


「あの方は貴様の神じゃぁない!私の神だ!あの方に会わせろぉ!そうすれば貴様と私どちらが真に神に仕えるものとして相応しいか判断してくださる!」

「うふふふふふ!じゃあ直接聞いてみませんか?ねぇリリさん」


メイラが上を見上げ私を見た。

え?ここで私?降りて来いって事?まぁいいけどさ。


私はぴょんと飛び降りて教会に降り立った。

考えてみれば当然だけど何の対策もなしに飛び降りたもんだから足に棘が刺さったけど恥ずかしいので何事もないかのようにふるまうことにする。


「おお!我が神よ…!!」


棘をかき分けるようにして教主が這いつくばりながら私の足に縋り付いてきた。

えええええ?なになに?こわっ…。


「お助けください我が神よ!どうか私に慈悲を与え、あの忌まわしき悪魔に神罰をお与えください!」

「え…何言ってるの?気持ち悪…」


鬼気迫る表情で意味の分からないことを言われたせいで率直な意見がつい口から出てしまいましたわ、御免あそばせ。


「我が神よ…!」

「いやあなたの神様じゃないし…」


背筋がぞわぞわしてきたので軽く振り払ってメイラのほうを振り向いた。

するとメイラはなぜか膝をついて座っていて、私の手を取った。


「メイラ?」

「私の神様…リリさん…」


そっとメイラの口が私の手に当てられる。

君までどうしたのさ一体。

流行ってるのか私の神様とかいう概念。


「変なこと言ってないで用事が済んだのなら帰るよ。さすがに暴れすぎだと思うし」

「はい…すみません」


しゅんとしたメイラの手を引いて空間移動で帰ろうとしたところ教主が大声を出して私を呼び止めた。

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