第308話 人形少女は渡したい

「そういうことなら…それ、マオちゃんにあげるよ」


私としてはそれ以外に選択肢がない…というか悩むまでもない事だったのだけど、皆は大なり小なり驚いたような顔をしていた。


「リリ…そんな簡単に言っていいの…?」


マオちゃんが私の手を握りながら心配そうな顔で聞いてくるのだけれど…。


「いいよ」


そうとしか言えない。

仮に嫌だとしてもやらないといけない事だし、そもそも嫌じゃない。


「そもそもの話、私の全てはマオちゃんの物じゃない。今までと何も変わらないでしょう?」

「変わるよ。だってリリの身体を私が好きにできるんだよ?自分の身体なのに…」


「うん。極端な話だけど私はマオちゃんになら殺されたっていいからさ…いまさらダメなんて言わないよ」


知らないやつに身体を好きに使われるなんて死んでも嫌だ。

でもマオちゃんにならいいって心から思える。


「リリ…」


マオちゃんとぎゅっと抱きしめ合う。

柔らかくて暖かくていい匂い。


どうしてこうもマオちゃんは可愛いのだろうか。


この世のありとあらゆる可愛いを混ぜ合わせたらマオちゃんが出来上がる説。


…本人には絶対に言わないけれどアルギナさんがマオちゃんの事を作ったという話を聞いて私はひそかに拍手喝采を送っていたのだよ。


「あ、あの~一つだけいいですか?」


自分の世界にトリップしていた中、メイラがおずおずと手を上げる。


「どうしたの?」

「リリさんから少しだけ話に聞きましたけど魔法でパペットを支配したらリリさんって自分の意志では動けなくなるんですよね…?それってまずいのでは」


確かに。

マオちゃんになら操られてもいいけれど全く動けなくなるというのは確かにまずい。


勝手に盛り上がっていたけれど中々に問題では?

やはりそういうところに気づくところができる女たる所以よ…。


「その点についてはご心配なく。私に考えがあります」


第二のできる女のクチナシが目元をハンカチで拭いつつもそう言った。

そうだよね、クチナシが提案する際にそんなわかりやすい問題点を見落としているはずは無いよね。


確かにできる女だけど微妙に脳金思考みたいなところがあるからメイラに比べて若干信用性は落ちるけれどそれでも出来る女だぞ君は。


「さすがくっちゃん。それで?その考えって?」

「制御権自体は魔王様が握りつつ、身体の主導権はマスターが握ればいいのです」


…うん。

それはそうだね。

それができれば解決だね。


ちなみにね?ちなみにだけど…。


「そんなことできるの?私が覚えてる魔法にそんな効果はないんだけど…」

「まぁそうですね」


「…」

「まずは話を聞いてください。確かにそんな都合のいい魔法なんてありません。しかしないのなら作ればいいのです」


「作るってそんな簡単に…」

「そうは言いますがマスター。忘れているかもしれませんがマスターが主戦力にしている魔法はほぼ創作魔法のはずですよ。マスターの力の根源は「創造」、やろうと思えば作れないものは無い。ましてや今回はゼロからではなくもとからある魔法に手を加えていくだけ…不可能ではないはずです」


やはりこの子は脳筋だ。

確かにカオススフィアみたいな感じでいいのなら出来ないことは無い気がするけれど…攻撃魔法ではなく身体を制御するという魔法の改造なんて私にできるのだろうか…?お世辞にも頭がいいとは言えない私だよ?


「私も手伝います。出来るにしろ出来ないにしろやるしかないのでは?」

「まぁ…確かに」


マナギスさんのせいでかなりめんどくさい事になってきた。

あの人マジで許せねぇ…。

次に会ったら絶対に殺そう。


「頑張ってねリリ。もう私にあんな悲しい思いさせないで」

「…うん」


そう言われると意地でもやらないとなって思う。


頑張ろう。


死ぬ死なないは置いておいて、悲しいのは嫌だからね。

そうして今後の方針は決まった。


後は実践するのみ…。


「ところでリフィルとアマリリスは?」

「あの二人なら寝ちゃったよ。リリのこと心配してたんだからね。あとで怒られるかもよ」


「うへぇ…」


二人に怒られる様子を想像しただけで精神が削られる思いだ。

娘に弱すぎる私である。


まぁ親なんて結局はそんなものだよねたぶん。

今回は私が悪いし粛々と受け入れようじゃないか。


「あの…お話し中すみません」


寝室と扉をおずおずと言った様子で開き、悪魔ちゃんたちが顔をのぞかせる。


「なんです?話し中だって分かってるならノックくらいしたらどうなの?」


メイラが圧倒的上司オーラを纏いながら悪魔ちゃんたちに詰め寄っている。

怖いって…メイラさん。


「す、すみません!でもあの…お客様がお見えで…」

「客?」


「ええ…お通ししてもいいでしょうか?」

「誰が来たの?」

「わったしだよ~☆」


半開きのドアを勢いよく開け放ち、姿を見せたのはクララちゃんだった。

こってこての笑顔で目の横ピースを決めているが…全体的にボロボロでよく見ると身体もプルプル震えている。


髪もなんだか先端の部分が焦げているみたいになってるし明らかに何かあったなこりゃと感じさせるには充分な風貌だった。

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