第340話 人形少女は決戦へ
コウちゃんが屋敷にやってきたのは本当に突然だった。
最近は私のほうが遊びに行っていたので、ここにコウちゃんがいるというのはなんとなく新鮮だ。
大きくなったコウちゃんはどうやらそのまま過ごしているようで、出会った頃から顔つきは多少変わっているけれどスレンダーな美人さんに変貌している。
スラッとしていて余分な肉がついていない感じなので、隣にいる小柄なのに同性でも目を奪われるほどのたわわなお胸様を持つアーちゃんとは対照的で面白い。
「ニヤニヤしてんじゃねえ。お前らのせいでこっちは大変なんだ」
イライラした様子のコウちゃんだったが特に心当たりがない。
「はぁ…少し前に帝国あてにこんなものが届いた」
ことりとコウちゃんがテーブルの上に変な色をした水晶玉を置く。
見慣れないものだったから手に取って眺めまわしてみるけれど、どう見ても変な色をした水晶玉としか言えない。
「なにこれ」
「頭の腐った女からの宣戦布告だ」
「ん~?」
「貸せ」
コウちゃんが私の手から水晶玉を奪い取って何やら操作をすると、水晶玉からビームの様に光が放たれて空間に四角く映像を映し出す。
すごい…前世でのSF映画みたいだ…。
全体的に前世に比べて文明レベルは低く思うけどこういう部分は進んでるなぁ。
「見ろ、この女に見覚えがあるだろう」
映し出された映像の中でこちらを見ている女性がいた。
ぱっと見クール系の印象を受けるにもかかわらず、まるで子供のような無邪気な笑顔を浮かべる不思議な女。
「ああマナギスさんだ」
全身が包帯やガーゼだらけでまさに満身創痍といった見た目をしているが、間違いなくマナギスさんだ。
死んだと思っていたけれど、しぶとく生き残っていたらしい。
映像のマナギスさんはしばらく笑っているだけだったが、やがて楽しそうな顔で話し始めた。
「見えてるかな?やっほー久しぶりだね元皇帝さん。いいや、今は再び皇帝になったんだったね、おめでとう。いやはや正式な祝辞を送れていないのが心苦しいけどさ、私もこんな状態で結構大変だったんだという事で許してほしいな」
ややオーバーな身振りでマナギスさんは両手を上げた。
肩口に包帯がぐるぐる巻きにされていて、両手共に義手のように見える。
マオちゃんが結構な事をやっていて、あの中でよく生き残れたなぁと思ったけど、やはりそこそこギリギリな状態だったみたい。
「さて、あんまり前置きの長い年寄りのような話し方は好きじゃないから単刀直入に言わせてもらうけれど、君の作った帝国…それが欲しいんだ。知っているかどうかは分からないけれど元々そこはすでにとある国によって占領されているはずの場所でねぇ…暴露してしまえば巡り巡って私の物になる予定だったんだ。というわけで改めて返してほしんだ」
細かいところは分からないけれど、めちゃくちゃなこと言ってんな~というのは分かる。
さぞコウちゃんもイラついたことだろうと、その顔を横目で盗み見てみると案の定、眉間に皺を寄せて今にもぶち切れそうな雰囲気だ。
うんうん、コウちゃんは分かりやすくていいなぁ。
映像の中で笑ってる何考えてるのかわからん女より数百倍好感が持てる。
「でも君は素直に頷いてはくれないよねぇ?だからさ、このメッセージが届く…え~どれくらいで届くのかなこれは?…五日?舐めてるの?もっと本気になりなさい。三日もあれば届けられるでしょう?努力が足りない甘えだよそれは。あ、ごめんね皇帝さん。というわけでこのメッセージが届く三日後からさらに二週間後に帝国を攻め落とす。抵抗するも自由、降伏するも自由さ…できれば抵抗してほしいけどね?ほら君の帝国から素晴らしい原石を見つけることが出来るかもしれないからね。人は追い詰められた時にこそ本来持つ輝きを発揮するものだからね」
あはははと無駄に可愛らしく笑うその顔がなんとなく腹立たしい。
「とまあ伝えたいことはこれくらいかな?あ、返信は不要だからね。それじゃあ二週間後にまたね!」
笑顔で片腕を振るマナギスさんの映像を最後に水晶玉から放たれていた光が収まり、映像が途切れた。
「…」
映像が終わった後にはなんとなく重苦しい雰囲気が場に流れていた。
誰も何も喋らない。
アーちゃんはなにやらそわそわしてるし、コウちゃんは貧乏ゆすりが凄い。
このままこうしていてもしょうがないので、私はとりあえず水晶玉をつつきながら口を開いてみることに。
「大変そうだね?」
「ああそうだ、大変なんだ。だから手伝えリリ」
「え」
「元はと言えばお前らが仕留めそこなったんだ、尻ぬぐいくらいしろ」
「いや仕留めそこなったって言うのなら最初にあの人と戦ったのってコウちゃんじゃん」
「うるせえ」
でた!言い返せないときの「うるせえ」!
いや、正直ね?協力するのはやぶさかじゃない。
実はマナギスさんが生きていると知れたのは私にとって嬉しい事だ。
今度こそこの手で殺せるという事なのだから。
でも問題は何でコウちゃんがこの話を持ち込んできたのかという事で…プライドが無駄に高いコウちゃんが私にこの話を持ってきた以上何か理由があるはずで…それが分からない事にはおいそれと頷けない。
「あのですねリリさん。今回ばかりはフォス様は真面目に手を貸してほしいのです」
「そうなの?」
「…」
「まだ帝国は出来たばかりで兵力が潤沢とは言えません。それにあの人形兵とやらが再び出向いてきたら私たちだけでは国を守り切るのは難しい…ご理解いただけますか?」
「あ~うん、なるほど」
まぁそういう事なら手を貸してあげてもいいのかな?人間の戦争に首を突っ込むのは微妙な気分だけど友達が純粋に困っているというのならば気にならない事もない。
「…一つ気になることがある」
「うん?」
コウちゃんが指で水晶玉を弾きながら難しい顔をしている。
「なんでこの女はわざわざこんなものをよこしてきたのか」
「宣戦布告のためでしょう?」
「何のためにそんな事をする必要がある?」
「え?それは…」
なんかそんなルールがあるからじゃないの?国際法なんちゃらとかあるんじゃ?
あ~でも…。
「あの女がそんなものを順守するたまには見えない。それにあいつがどこの国に属しているという情報がないのなら宣戦布告の意味すらなしていない。ただ日時を伝えて来ただけだ。目的が分からん」
「たしかに…国に属してないんじゃ?」
「だとするとさらに意味がないだろう。野党の類が、今から襲いに行くからと連絡をよこす意味がどこにある?何か別の目的がある…我はそう考えている。だからお前にはいざという時に控えていて欲しい。頼む」
なんとコウちゃんが私に頭を下げた。
「いいぃ!?どうしたのコウちゃん!」
「…」
「わかった、わかったから頭を上げて!」
「…ああ」
ゆっくりと頭を上げたコウちゃんはばつの悪そうな顔をしてそっぽを向いた。
私は珍しいものを見たせいで若干動揺しているよ?
「帰る。当日は頼んだ」
取り繕うようにコウちゃんは立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
残されたアーちゃんは苦笑いを見せながら後を追うように車椅子を走らせて…部屋を出る直前で私のほうを振り向いた。
「フォス様あれで帝国という国に対して責任を感じているんです」
「ん?」
「愛着と言ってもいいかもしれません。自分達だけでは国を、人を守れないかもしれないと。だからリリさんに頭を下げることを選んだんです。迷惑な話だとは思いますが…どうかお力を貸してもらえると嬉しいです」
ぺこりと頭を下げると今度こそアーちゃんはコウちゃんの後を追って行った。
国だなんだというのは分からないけど、私が家族の事を大切に思うようにコウちゃんも帝国を大切に思っているという事なのだろう。
大切なものは守らなければいけない。
そのために手段を選んではいけない。
それがどんなものであれ、愛するもののためならば何をやっても許されるのだから。
「よしっ、ここはひとつ友達のために一肌脱ぎますか~」
まずはマオちゃんに説明しないとな~と考えると少しだけ憂鬱になった。
心配されちゃうかなぁ…。
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