第123話 人形少女は娘が増える

 あの後、慌てに慌てまくるクチナシと謎の赤ちゃんを宥めていたところ、かなり騒いでしまったからかマオちゃんも起きているリフィルを抱えて厨房に現れた。


「リリ?何かあったの?」

「あぶぶ?」

「あ~えっと…」


なんと言えばいいのか分からずオドオドしているとマオちゃんの視線がクチナシの抱いている赤ちゃんに向いてしまい…。


数分後、部屋に戻った後に腕を組んで少し怒っているよな表情をしているマオちゃんと、その正面に正座させられているクチナシにベビーベッドの中でスヤスヤ眠る謎の赤ちゃんとその子をカッ!と見開いた目で見つめている愛娘という構図が出来上がった。

その後一体あの赤ちゃんは何なのかという事を聞いてみると友達の遺言で預かった子供という話を聞いて私たちは唖然とした。

いや、だからって赤ちゃんをさらってくるってどうなのよ…当初はマオちゃんがちゃんとしたところに帰してきなさい!って怒ったのだけど、何も話してはくれず…少ししてようやく赤ちゃんには両親も帰る家もないという説明を受け、どうしたものかと頭を抱えた。


「この子どう見ても人間の子供よね」

「はい、正真正銘の人間です」


「どうしようか…リリは何かいい案ある?」

「コウちゃんに頼んでみる?」


「リリ…ただでさえ皇帝さんにはお世話になってるのだからこれ以上は迷惑かけられないよ」

「う、うん…そうだよね」


正直コウちゃんなら何とかしてくれるのでは?と思っているのだけどマオちゃんが怒り出しそうな雰囲気があったのでそれ以上は何も言わなかった。

マオちゃんはね、普段は可愛いけれど怒ると怖いのよ~、そうまさに今みたいにね!


「クチナシはどうするつもりでその子を連れてきたのかな」

「私が面倒を見るつもりでした」


「ここ最近の私たちを見てたよね。リリのおかげで楽ができているとはいえ子供を育てるってとっても大変な事なんだよ?赤ちゃんのお世話の仕方わかる?ご飯は?数時間おきに授乳とかしないといけないんだよ?夜泣きだってするしおむつも変えられる?面倒を見るっていつまで見るつもりだったの?一生?それともある程度まで成長したら放り出すつもりだった?お金だってすっごくかかるんだよ?成長したらいずれ種族の違いって問題にぶつかるよ?そこでちゃんと説明できる自信ある?」

「…」


「黙ってても何も変わらないよ」


ほら!めっちゃ怖い!でも好き!

いやしかし…私なんかはやっぱりなるようになるさ~って思っちゃうけれど本当はマオちゃんの様に色々考えないといけないわけで…私が人間風の育て方で行きたいって言ったからマオちゃんはたくさん勉強してちゃんとお母さんをやろうと努力している。

それだけの覚悟が必要なのだ。


「確かに魔王様の言う通りです。全て出来るのかと聞かれれば自信があるとは言えません。しかし…それでも私はやります。私の大切な友達との…最初で最後の約束なのです」


クチナシの意思はかなり固いらしく、怒り顔のマオちゃんと正面から見つめ合っている。

ここは私が言ったほうがいいのだろうか…?ひいき目なしで考えてもクチナシの気持ちも分かるけれど…正しい事を言っているのはマオちゃんだと…思う。

さてどうしたものか。


「クチナシ、やっぱりいろいろと難しいよ。どうかな人間のところで里親を探してみるとか」

「…」


私のほうを見たクチナシが俯きながら拳を握った。

そして、


「…で、できません…っ!」

「あら」


まさかそう返ってくるとは思わなかった。

別にそうして欲しいわけじゃないけれど、この子が私に逆らうなんてないと思っていたから意外だ。

いや、そういえば少し前にもぶん殴られたけどさ。

現に無表情のクチナシにしては「やってしまった」という顔をしているし、全身を震えさせて自分の中でもかなりの葛藤があるんだろうなという事は察せられた。

それだけ本気という事なのかな~。


「マオちゃんどうする?」

「…」


しばらく無言の時間が続く。

結構いたたまれないなぁ…と思っていると腕を引っ張られているような感覚がしたので見てみるとリフィルが私の服を引っ張っていた。

なんだなんだ?と思って引っ張られるままにしてみると、そのまま私の手を掴んで指をちゅうちゅう吸いだした。

どうやらハマったらしい。

少しすると口を離して隣を見たので私も見ると…クチナシが連れてきた赤ちゃんが目を覚ましていた。


「だっ!」


我が愛娘が私の指を赤ちゃんに差し出した。

寝っ転がっている状態で目をぱちぱちさせながら赤ちゃんは私の指とリフィルを交互に見ていた。

というか同じくらいの歳に見えるけどやっぱりリフィルって成長速いのだろうか?もう身体を起こせてるし…。

じ~っと私も二人を観察していると赤ちゃんが私の小指をちゅうちゅう吸いだした。

そしてそれを満足そうに見届けたリフィルも親指をちゅうちゅう吸する。

二人の赤子から指をちゅうちゅうされる私という不思議な光景の出来上がりだ。


「…ふぅ。わかったよ、私が一緒に面倒を見る」

「マオちゃん?」


「魔界には同年代くらいの子いないし、そういう意味ではいい感じに作用するかもしれない。リリもそれでいいかな?」

「私はマオちゃんがいいのならいいよ」

「ほ、本当ですか魔王様…?」


「うん、だけどねこれだけは覚えておいて。私の子供はリフィルで、そっちの子の事まで私の気が回るかと聞かれると正直自信はない。もちろん途中で投げ出すとか、冷遇するとかって意味じゃないよ?ただ同じだけの愛が注げるかと言うと分からないって話。それでもいいの?」

「はい…十分です」


「リリ、その子をこっちに。たぶんお腹がすいてるんじゃないかな」

「うん」


二人の口から指を引きぬいて赤ちゃんを抱き上げマオちゃんに手渡す。

マオちゃんはそのまま私たちに背を向けると赤ちゃんに母乳を吸わせ始めた。


「飲んでる?」

「うん、すっごい飲んでる」


「人間にマオちゃんのおっぱいってあげていいのかな?」

「それも手探りだよ。迷惑はかけられないけれど少し皇帝さんにお話を聞いてみる必要もあるかもね」


そうやって子供の事を考えているマオちゃんは…先ほどの言葉とは裏腹に優しく微笑んでいてそういうところも好きだなぁって思いましたですはい。


「うぁー、あー」


リフィルが私に向かって手を伸ばしていたので抱き上げて、そのままマオちゃんの隣に座った。

興味津々と言った様子の我が愛娘です。


「そういえばこの子って名前はあるのかな」

「アマリリスだそうです」


「そっか…これからよろしくねアマリリス」

「ほ~らリフィル~突然だけど妹ができたよ」

「だ~う!」


これからまた大変だろうけれど意外とやっていけそうな感じもした瞬間だった。

げっぷをさせた後、アマリリスはそのままスヤスヤと眠りだし、リフィルもうとうとしだしたのでベッドに二人を寝かせて私たちも、特にマオちゃんは休もうという事になった。

最近マオちゃんのために習得したリラックスして眠れる魔法をかけて休んでもらった後に私も休もうと思ったところでクチナシが土下座していてびっくりした。


「な、何してるの…?」

「私はマスターに逆らうという己の存在意義に反する行いをしてしまいました。いかなる罰も受ける所存です…どうぞお好きなように」


「いや、いいよそういうのは。別に怒ってないし」

「しかし…」


「ああいうのは逆らうって言わないの。いや、そりゃあ確かにいきなり「死ねぃ!」とかされたら困るけどさ」

「そんなこと絶対にしません…!!」


「うんうん、じゃあいいよ問題なし!はい寝るよ!」


このまま会話してもうまい事はたぶん言えないし、怒っていないことを伝えて強制的に会話を終わらせた。

クチナシはそれでもしばらくなにか考えている様子だったけどまぁ大丈夫でしょう。

…また家出とかしないよね…?しないと信じたい。

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