第28話教主は事態を俯瞰する
「教主様!ご報告いたします!」
これからどう動こうかと思案していた折、部下から報告があった。
黒の使徒の構成員と思わしき人物にメイラがさらわれたらしい。
「ふむ…潜伏しているとは思っていましたが随分と早く行動を起こしましたね?そしてなぜメイラを?誰かを誘拐することが目的なのか?誰でもよかった?」
いや、誰でもよかったとしたならメイラはいくらなんでも特殊過ぎる…。
まさか悪魔憑きを狙った?あんな誰が言い出したかもわからぬ噂を信じたのか…?
「いや、思えばあの噂は不自然なことが多すぎた。この私が直々に否定して回っていたのに一向に収まる気配を見せず…どんどん悪化していった」
うぬぼれと言えばそこまでだが、私のこの場所での発言力はかなりのものだ。
私が白と言えば黒も白になる…はさすがに言い過ぎだがそれくらいは信用があるということだ。
その私の言葉が通じなかった時点でおかしいと思っていたのだが…まさかやつらの仕込みだったのか?
「狙いは最初からメイラだった…だとしたら彼女の失明にもそこに理由が?」
私には特殊な力がある。
一目見て適性があると思った人物に「神の力」を授けることができるのだ。
私の「裏」の仕事などにも力を貸してもらっている部下などはこれで私が力を授けたものがほとんどだ。
そしてメイラにも私は力を授けた。「神の瞳」を確かに授けたはずだった。
そしてその力は完全には発現せず、一部だけが目覚め、そして視力を失ってしまうという結果に終わった。
なぜそんなことになったのか私にもわからない。
確実に言えることは神の力がなじまなかったということなのだが…それでも視力を失うなどありえない事だった。
なぜ?と問われると困るのだが…まぁわかるとしか言いようがない。
「ふむ…直接見たほうが早いか」
精神を集中させて気配を探る。
元はと言えば私が与えた力…それを探ることなど簡単にできる。
「見つけました。ここは…おやおや、生意気にも我が教会にいるとは…ますます何をするつもりなのか興味深いですね」
「ザナド様、お供はどうしますか」
「私一人で結構です。あなた達は指示があるまで待機を…そういえばもう一人の監視対象のほうはどうなりました?」
「そちらは宿から外に出ていない様子です」
「ふむ…そうですか…ではそちらを監視している人員はそのまま監視を続けてください」
「かしこまりました」
「あぁそれと神聖騎士の者たちにいつでも出られるように準備をさせておいてください。念のためにですが」
「すぐに手配します」
「結構」
「それとすみませんもう一つ」
「なんでしょう?」
「たまたま居合わせた勇者様と聖女様がすでに奴らを追いかけているそうです」
「それは少しだけ厄介ですね…」
あまり鉢合わせはしたくない…というより彼らが何をするのか、目的と行動を知りたいから勇者に乗り込まれるのは非常にまずい。
「私の手の者を勇者たちにあてがってください。別の道を教えるなどして少しだけ到着を遅らせればそれでいいですので」
「はい」
私は指示を済ませた後、一人教会に向かった。
しかし黒の使徒…私のことは嫌いでしょうに、なぜわざわざ教会に?
まさか当てつけなわけはないでしょうし…。
それにしても嫌な感じだ…空気が淀んでいると言えばいいのか。
彼らが何かをやろうとしているのはほぼ確定…。
「はぁ…これだから彼らは好きになれない」
正直最初のほうは私の神と求める者は同じなのではないか?と思ったこともあったのだが…奴らには品がなさすぎる。
この教会に近づくにつれて淀んでいく空気がその証拠だ。
彼らはもちろんのこと、その信仰する神にも圧倒的に神々しさが足りない。
そのような神など信仰するに能わず。
しかし彼らの謎の術には興味がある…我が神へのヒントになるかもしれない。
「さて…何を見れるか楽しみですねぇ」
教会にはすぐについた。
私は部下に与えている神の力を全て使える…つまり私は実のところ部下より強いので長距離の移動など簡単なのですよ。
正面からは入らず、私だけが知っている隠し扉から中に入ると淀んだ空気はもはや目視で確認できるほどになっていた。
黒い塵のようなものが舞い、いるだけで不快な空間を演出していた。
そして彼らはすぐに見つかった。
教会の中央。その場所に不思議な陣を描き、その中心で寝かされたメイラを10人ほどの黒の使徒が囲んで何か呪文のようなものを唱えている。
私は柱の陰に隠れて様子を伺うことにした。
「しらない言葉ですね…彼らの神の言葉か?」
しばらくすると男たちの腕から血が流れだし、陣を汚す…すると白い線で描かれていた陣が赤く染まり中心に寝かされたメイラの身体に黒い紋様のようなものが浮かぶ。
「これはまさか…彼女の身体を何かに作り替えている…?」
まさかメイラを神にでも仕立て上げるつもりか…?
いや、この感じは…魔族とかそっちのほうに近い…これはまさか悪魔か?
悪魔とは魔族やモンスターとも違った存在で、主に殺戮や破滅をもたらし、地上に現れればその地は死の都に変わるという…。
くはははは!人を悪魔に作り替えるだと?なかなかどうして面白い事をするじゃないか。
しかし微妙にお粗末で陣を完成させるためのパワーが足りていない。
「神の目の適合者を失うのは痛いですが…また探せばいい。ひとまずは少しだけお力添えをして差し上げようではないですか」
私はメイラの神の目を通して陣に魔力を注ぐ。
そうすると陣が完成し、真っ赤な光を放つ。
「う、うぐぁああああああああああああ!?」
のどが張り裂けるのではないだろうかというほどの絶叫がメイラから放たれる。
変革の苦しみ…ですかね。
さぁどうなるのか私に見せてください!
黒い紋様がメイラの全身に広がり、その目や口、耳…ありとあらゆるところから血が噴き出す。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
光が収まった後…そこにいたのは小麦色の肌をした少女だった。
その瞳は開かれ、真紅に染まり。
髪も銀色に染まり、地面に垂れている。
また右側頭部からは黒いねじ曲がったような角が生えている。
その背中からは黒い二対の翼が揺れている。
メイラの面影は確かに残っているがほとんどが変質してしまっている。
これが黒の使徒の秘術…!素晴らしい。
人を人ならざる存在に作り替えるなど…非情に興味深い!
悪魔という点が評価を下げますが、これを盗むことができれば悪魔以外にも変質が可能となるかもしれない。
おっといけない…今は観察を続けなくては。
メイラは状況がつかめていないのか…はたまた別の理由からなのか放心したように座り込んでいた。
黒の使徒も成り行きを見守っているようで彼女を取り囲んだまま観察している。
やがてメイラの口がゆっくりと開いていき…、
「…おなか、すいた」
そういった。
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