第38話人形少女は魔王少女と契る
マオちゃんの部屋は思ったよりも質素な部屋だった。
ベッドと机と…申し訳程度にインテリア雑貨が配置してあるだけ。
「何もないところだけど座って…椅子が一つしかないね。どうしようか」
「こうすればいいよ~」
マオちゃんに飛びついてそのままベッドに二人で転がり込む。
うむ、ふかふかで気持ち良い。
「大胆な事するね」
「だめだった?」
「ううん、いいよ」
「やったね、えへへ」
しばらくマオちゃんの体温とふかふかのベッドの感触を楽しむ。
私は気持ちいいけれどマオちゃんは私にあまり強く抱き着かれたら痛いだろうから意識して優しくあまり力をこめすぎないように気を付ける。
「ところであの悪魔の子はいいの?」
「うん、疲れてたのかすぐに寝ちゃったから」
メイラにこれからどうする?的なことを聞こうとしたのだけれど少し目を離した隙にぐっすりと眠っていた。
まぁ色々あったししょうがないとそのまま布団をかぶせて寝かせてきた。
一応鍵もかけたし勝手に部屋の外に出たりはしないはずだ。
「そっかそっか。じゃあどうしたの?」
マオちゃんの綺麗な瞳が私を覗き込む。
私がマオちゃんに会いに来たのは少しモヤモヤしていることがあるから…マオちゃんならもしかしたらこのモヤモヤをどうにかしてくれるかもしれないと漠然と思ったから。
私は意を決して口を開く。
「マオちゃんって家族はいる…?」
「家族か…血が繋がってるって意味ではいないかな。物心ついた時には両親はいなくて、アルギナがずっと面倒を見てくれてたんだ。そういう意味ではアルギナが一応は母親かな」
「そっか…」
「そういうリリはどう…あぁいや…その…」
マオちゃんが腕をあわあわと動かしながら取り乱している。
私は人形だから家族なんているわけないものね…前世にしたって私は、私の両親と呼ばれる人間の顔すら思い出せない。
記憶が薄まることのないこの身体でも思い出せないということは、そもそもその程度しか記憶していなかったということで…それはつまり私にとって家族とはそういうものだったのだ。
だけど…私は違う形の家族というものを見てしまった。
子供のために全てを切り捨て、私という人形にさえすがったメイラの両親。
もし…もしも私にあんな家族がいれば…私は幸せだったのだろうか?こんな人形の身体になることもなかったのだろうか?
そう考えだすと居ても立っても居られなくなって…マオちゃんに会いに来てしまった。
「ねぇマオちゃん」
「な、なに…?」
「マオちゃんは、私の家族になってくれる?」
_________
「マオちゃんは、私の家族になってくれる?」
そう言い放ったリリの宝石のような瞳は不安げに揺れていた。
いま彼女がどういう経緯でそういう発言に至ったのか、何を考えているのか、どうなりたいのかさっぱりわかりはしないけれど…今のリリは不安に沈む普通の女の子のように見えた。
あぁずるいなぁ…普段はニコニコしてて、平気で人を殺して…そして強くて綺麗な王子様なのに、こんなにも女の子な部分も見せてくるなんて…本当にずるい。
彼女が何を求めているのかは分からない。でもリリが私を…他の誰でもないここにいる私を求めてくれるのなら。
「リリ」
「あ…」
私は不安げな表情のリリを抱き寄せ、そんなに大きくはないけれど胸に顔を埋もれさせてみた。
「いいよ。リリが私をずっと好きでいてくれるのなら…家族になろう」
これはきっと…悪魔の契約よりずっとずっと黒くて…深くて…逃げ出すことなんてできない物だ。
それでも私はリリを受け入れる。
だってこれで彼女もずっと私の物になるのだから。
「マオちゃん…ホント?本当に私と家族になってくれるの?」
「うん」
リリの腕にものすごい力が籠めれられて私から離れた。
再びその瞳が私をじっと覗き込んでくる。
「じゃあその証拠をちょうだい」
「証拠…?」
「うん、これが何かわかる?」
いつの間にかリリがその手に何か光る玉のようなものを持っていた。
それが何か…一目見て理解した。
どうしてそんなものをリリが持っているかは分からないけれど…彼女が私に何をしてほしいのかは分かった。
そうだよね…それはリリには出来ないけれど…私には出来ることだから。
「でもリリ…それだけじゃできないよ…?」
「うん。そこも何とかする…だから答えてマオちゃん。全部受け入れてくれる?」
少し前なら絶対にダメだと答えた。
だけど今の私は…むしろ今からリリが行うであろうことを嬉しいと感じていた。
幼いころに漠然と憧れていたことが一つだけ叶うかもしれなかったのだから。
魔王である私では選べない…これは私がただの小娘で…そしてこれからはリリと一緒にいるという証明…。
「いいよ。きて…リリ」
「いいんだね」
「うん…その代わり約束よ。ずっと一緒だからね…飽きたら駄目よ」
「大丈夫…だってこんなにも嬉しいんだもの」
私達は二人で笑い合う。
そしてその独特な音のする硬い腕が私に触れた。
きっとここからすべてが変わる…夜の闇が支配する世界の中で私達はまるで一つに溶け合うような感覚を感じていた。
_________
数日後。
アルギナはレザとべリアを引き連れて魔界ではない不思議な場所に赴いていた。
「ほう?久しいな女狐。貴様がワシを訪ねるとは…どういう風の吹き回しじゃ?」
若い女のような声で紡がれる老人口調がアルギナの目線の先…厳かに飾り付けられた巨大な椅子に座った少女から放たれる。
「私だって来たくはなかったさ…「龍神」よ」
「くかかかかかかか!!これはまた不思議なことを言うもんじゃ。来たくないのであれば来なければいい…簡単な事ぞ?」
「お前と言葉回しをして遊んでいては時間が足りん。おとなしく話を聞いてほしい」
「つまらんのう…まぁいいわ深刻な顔をしとるようだし…だがいいのか?もし何か頼みごとをしようとしているのならば…ワシは「高い」ぞ?」
「知っている…何度も言わせるな。来たくて来たわけじゃない…必要に駆られてきたんだ」
「ならば話せ、聞くだけ聞いてやろうぞ」
「龍神よ…お前の神としての存在をかしてほしい」
しばらくの沈黙…そして。
「くくくくく…ははははははは!これは傑作だのう!魔族の貴様が龍の神であるワシに言うに事を欠いて!まさかそんなことを言うとは!笑いが止まらんわ!」
龍人と呼ばれた少女はひたすら笑い続けた。
笑い、笑い、笑い続け…不意に真面目な表情になりアルギナを見た。
「つまりは「神楽」が必要ということか?そういえば貴様らには「神」がいなかったな…なるほど、そこでワシというわけか」
「ああ」
「ふむ…貴様ともあろうものが「神楽」を使わねばならぬほどの相手がおるか?なんだ他の神にでも喧嘩を売ったか?悪魔のところは引っ込んどるし…人世の神か?」
「いいや…一体のパペットモンスターだ」
「…貴様はワシを馬鹿にしとるのか?」
「していない。本気だ」
再び沈黙が場を支配する。
レザとべリアは龍神に会った時からその強大な存在に気圧されて発言できずにいる。
よって必然的に龍人とアルギナが黙ってしまえば声を発する者はいなくなる。
「なんだ?その人形…神性でもおびとるのか?」
「少なくとも私が普通に戦っても勝てない…そこにいるレザも片腕を存在ごと持っていかれている」
「ほう!貴様は確か破壊のとこの息子だったか?なんだ?油断でもしたか?貴様が力を使えば人形なぞ一撃でバラバラであろうに」
レザは初めてリリと対峙した時の記憶を思い起こし…身体を震えさせた。
「無傷だったんだ」
代わりにアルギナが龍神の疑問に答えた。
「なんと!もしやそっちの劫火の娘も敗れたのか?」
「ああ」
「なるほどのう…それは確かに「神楽」が使えぬ今の貴様らでは難しい相手になるか…ふむ…いいぞ気に入った!」
手を叩いて龍神と呼ばれる少女が椅子から立ち上がった。
「対価の話は後じゃ。まずは一目見てみたいのう、その人形」
「見るじゃない。もう殺すんだ、その場で」
「物騒な事じゃのう…まぁ良いわ。女狐をそこまで追い込んだ人形をワシが一ひねりにしてくれようぞ。そうすれば貴様の悔しがるところを見られそうじゃしのう?くかかかかかかか!」
「間違いはないと思うが油断はしないでくれよ…私たちが「神楽」を使えればそれでいいんだ」
「それじゃがのう、喜べ?このワシが直に力を振るってくれようぞ!」
「助かるが…いいのか?」
「構わんよ。相応の対価はもちろん用意してもらうがのう?そもそもそういうつもりで来たのであろう?女狐」
「・・・」
「まあよい。早く案内せぇ。ワシの気が変わらぬうちにな」
アルギナはレザとべリア、そして龍人を引き連れ歩いて行く。
その目的は…リリ。
「お前は言ったな?殺そうとするなら殺されても文句を言うなと…その言葉の清算をしてもらうぞ」
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