第39話人形少女は神様と戦う
「このあたりなんてどう?」
「人がいなくていいかもね~」
現在私たちはマオちゃんの案内でメイラが腰を落ち着けられそうなところを探している最中なのです。
メイラ本人は外に出ることを禁じられてるのでお留守番だけどね。
とりあえず魔界で人目につかないところ、もしくはマオちゃんたちが実質支配している場所で誰も来なさそうなところをとりあえず探している。
「でもこういうところは家とかないけどどうするの?」
「そこはまぁテントとか…時間はたっぷりとあるんだし頑張って建ててみてもいいかもね。メイラちゃん次第だよ」
「そっか。じゃあおすすめはここかなぁ」
「うんうん。じゃあメイラちゃんとアルギナさんに相談してから…」
その時、近くで魔法を使われたような気配を感じたのでなんとなく後ろを振り向いた。
そこに依然見せてもらったレザが使う近道をする魔法の入口が開いていた。
「飛んで火にいる夏の虫…確かそういう言葉があったと思うのじゃが…まさに今がそういう状況なのかのう?まぁしかし状況的に虫を退治しようとしているワシらも火に飛び込んでいるようになってしまうのは美しくないところよな」
その中からそんな気取ったような老人口調の中高生位に見える少女がアルギナさんとレザとべリアを引き連れ現れた。
「あなたは確か龍神…どうしてそんな方とアルギナが一緒に?」
「ふむ…これは話してよいのか?女狐」
「いや、魔王様。少しだけ席を外していてもらえるか…そうだなゲートの中にでもいてくれ」
「魔王様、こちらに」
レザがゲートを開いてマオちゃんに一礼する。
それをマオちゃんは何とも言えない目で見ていたが私が背中を軽く押すとしぶしぶといった感じでゲートに向かって歩き出した。
「リリ…」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ~事前に教えてもらってたし準備はばっちりよ~」
実は以前からアルギナさんが近いうちに何かしてくる可能性があるとマオちゃんから言われてたのだ。
何故か私はアルギナさんに嫌われているらしく…かなしい。
まぁとりあえず私としてもマオちゃんを巻き込みたくはないので避難してもらったほうがいい。
「アルギナ…」
「お前はなにも気にしなくていい。少し待てばすぐに今まで通りに戻るから」
「私の気持ちは以前伝えた通りよ。それで行動に出たアルギナを否定するつもりはない…でもね…リリはたぶん負けないよ」
「負かせて見せるさ」
マオちゃんがゲートの向こうに消えた。
「さて…え~と、まずは初めましてリリですよろしくお願いします」
見知らぬ少女に挨拶してみた。
どんな状況でも知らない人にはまず挨拶!これ大事。
「ふむ…本来ならば貴様のような人形風情に名乗りはしないのだが特別に名乗ろうではないか。ワシは龍を統べる神が一柱…龍神のクラムソラードである!」
少女が胸を張ってどや顔で名乗った。
正直かわいい…だけども確かに見た感じかなり強そうだ。
「お前がわざわざ名乗るということはそういう事なのか?」
「うむ。よかったな女狐、貴様の判断の速さを誇るといい。まだ覚醒していないが…やはり神性を持っておるな、あの人形」
「そうか…ならば今のうちに殺させてもらうぞリリ」
アルギナさんが大きな鎌のようなものをどこからともなく取り出し構える。
レザも銃を、べリアは剣を取り出して私を睨んでいる。
「うーん…なんでこんなことになるのか…はとりあえず置いておいて。本気なんですか?そこの龍神さん?はよくわからないけどレザとべリアちゃんは私には勝てない。もちろんアルギナさんも…それでもやるんですか?」
「俺たちだって何の勝算もなくこんなマネはしない」
「ええ、私たちの力…とは言えないから微妙なところだけど…今日ここであなたを倒す!」
皆やる気だ…おかしいなぁこんなに怒らせるようなことをしたつもりはないんだけど…。
だけどやるというのなら容赦は一切できない。
私は死にたくないのだから。
「まぁまぁ落ち着け小童ども、ワシも手をかすといっておろうが。神性を持った人形という面白いものを見せてもらった礼にワシも面白いものを披露しようではないか」
この場では一番年下に見える龍神さんだけど皆を小童とか言ってるし喋り方も老人みたいだしもしかしてすっごい年上なのかなぁ?アルギナさんもかなり年みたいだし若作りがすごいね皆。
「のう、そこの人形」
「うん?」
「貴様は神を見たことがあるか?」
「え~?」
あるわけないだろうと言いたいけれど…私がこの世界に転生するとき聞こえていた声…あれはもしかしてそういう類のあれじゃないだろうかと個人的には思ってる。
だけど目の前の少女が神を名乗っている以上そういうものでもない?わからん…。
「まぁよいわ。喜べ貴様に神が神たる証を見せてやろうぞ」
龍神の身体が一回り…いや二回り以上大きくなった。
いや違う、力が急に膨れ上がったせいで大きくなって見えてしまっただけだ。
「下々の民は「神楽」を請うことで力を得る…ならば神は?」
「・・・」
「神は願い、崇められることでその存在で全てを得る。その力をここに見せよう」
龍神が笑う。
その力はとどまることを知らず、際限なくどんどん高まっていく。
止めなければと思うものの脚が動かない。
まるで動かずに見ていろと命令されているようで気に入らない。
「さぁ願うがよい愚かな魔族どもよ。この慈悲深い龍の神が慈悲を与えようぞ」
龍神の周りで何かが弾けて、空間を…いや世界を取り込んで膨れ上がっていく。
「――1つ数えて鞠を蹴り
2つ数えて独楽を回す
3つ数えて鬼を討ち、宝を持ち帰れ
4つ数えて姫を娶り、世を救え
5つ数えて、はいおしまい
すべてはこの手の中、愚かなる者どもよ無知に笑い遊べや遊べ
蒙昧な物語の紡ぐ夢の中で、閉じて消えゆくその日まで」
そらんじるように、歌うように、詩を読むように。
その言葉が世界に溶けていくのを感じた。
これはきっとダメだ。私の手には負えない何かが来る…。
今初めて私は…もしかしたら死んでしまうかもしれないという気持ちになっていた。
そして、
「惟神(かんながら) 万象御伽噺 神綴リ儚ミノ昔話」
そして神様が現れた。
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