第98話 人形少女は頑張りたい
これで何度目になるかわからないけれどアーちゃんが血を噴き出しながら倒れた。
天使が血に濡れた剣を引きぬき、私に向かってくる。
そしていつの間にか起き上がっているアーちゃんが刺されて…の無限ループである。
さすがに罪悪感がすごいし、いつまでアーちゃんが耐えられるのかわからないので何とかしなくてはならない。
「とは言ったものの…」
まず天使の動くスピードが速すぎる。
あんまり目で追えないうえに、動き出す時に目つぶしとばかりに眩しく光るので余計に悪いことになってる。
逆に光るおかげで動き出す瞬間は分かるのだけれど…と言った感じ。
「あ、あの…」
「ん?」
背後から恐る恐る声をかけてきたのは聖職者ちゃんだった。
いや後ろのほうでこそこそしてたのは知ってたけどまさか声をかけて来るとは思わなかったよね。なんなら襲い掛かってくるかと思ってナイフ片手に待ち構えてたくらいだよ。
「すみません…レクトさんの身に何が起こっているのでしょうか…?」
「知らない~。だからこそこんなことになってるわけで」
「そうですよね…」
「それで何か用?こっちに向かってくるつもりなら…」
「い、いえ!違います!むしろ逆で何か協力できればと!」
マジかよ。いったいなんでそんなことになった?
「どういう心境の変化?」
「いえ、少し思うことがありまして…それで何か協力できないでしょうか?」
「う~ん…いや正直足手まといだと思うんだよ」
今この状態で聖職者ちゃんの強さで役に立つ場面なんておそらくない!
戦力には数えられないし、仮に背後から襲われてもたぶん何も起こらない!つまりいてもいなくても変わらない!そんな聖職者ちゃん。
「私…あの謎の存在の動きを追えますよ」
「おっと」
まさかのまさかである。
しかし私が目で追えない天使の動きを聖職者ちゃんに追えるはずはないと思うのだけど…?
それとも実は私って大して強くないのだろうか…?はたまた実は聖職者ちゃんがすっごい強い?
「どうか私を使ってはもらえませんか」
「本当にできるならやって見せてよ」
今この瞬間もアーちゃんがザクザクいかれているのでこの際対処できるなら何でもいい。
失敗したり裏切られたりしても殺しちゃえば問題はないしね。
「ありがとうございます。必ずあなた様のお役に立って見せます」
やけに丁寧に頭を下げて聖職者ちゃんが前に出た。
この子一体どうしちゃったのだろうか…?最後に会った時は意気揚々と敵対してたのになんでこんな従順というかなんと言うかな感じに…?なんかあれだ、あの神都の教主と同じ匂いがするようになってる。
まぁ役に立ってくれるのなら何でもいいんだけどね。
やがて聖職者ちゃんが両手を組んで祈るようにぼそぼそと何かを呟く。
すると小さな光の玉のようなものが集まってきて聖職者ちゃんの前で振り子のような形になった。
「あっは!」
謎の奇声を上げて切り裂かれるアーちゃん…そして消える天使。
「…上です!私のいる位置から数メートル前!」
「んん!?」
聖職者ちゃんの突然のそんな叫びにびっくりしながらも慌ててそれっぽい位置にナイフを投げる。
カンっと軽い音がしてナイフが弾かれ、そこに天使がいた。
すげぇマジで分かってる!
そして再び眩しい光と共に天使が消える。
「…左です!私から約10メートル!」
その位置に向かって即座に駆け出す私。
腕からおなじみの刃を出現させて最高速度で走り抜ける。
「見えた!」
聖職者ちゃんの言葉通り、そこに天使の姿が見えた。
だけどタイミングが悪い…!向こうもこちらに気づいており剣をすでに振りぬいている。
私も慌てて刃を振るけれど遅かった…!斬られる!
「リリ様!!」
そんな聖職者ちゃんの叫びと…肉と骨が切り裂かれる音…噴き出す血飛沫…そして倒れるアーちゃん。
メイン盾ーーーーーー!!!!!!!
ギリギリアーちゃんが間に入ってくれて間一髪助かった。
そのチャンスを無駄にしないため、ありったけの力で刃を叩きつけたけれど天使の盾に阻まれて傷一つつけることもできなかったので慌ててアーちゃんを掴んで後退した。
「助かったよアーちゃん」
「いえいえ」
「というかアーちゃん…あいつの動き追えてるの?さっきからそんな感じだけど」
「全然ですよ。完全に目視してから動いてますね。この花が咲いている部分は私の領域ですので瞬間移動くらいできるのですよ」
なるほどねと足元に咲く、最初に比べて随分と成長した彼岸花のような花を見る。
割と怖い!
「しかし…こりゃどうするかなぁ」
正直勝てる気がしない。巨大人形ちゃんがいれば話は違うかもしれないけれどいない今だと完全に火力が足りていない。
聖職者ちゃんが思いのほか役に立ってくれそうな気配を見せてくれたけれどおそらく攻撃には期待できないしアーちゃんもメイン盾である。
私の刃も盾に傷一つつけれなかったし…どうしようか?
聖職者ちゃんのおかげで場所は分かる。アーちゃんが盾役をやってくれるから準備もできる…しょうがない少しだけがんばるか。
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