第99話 人形少女は頑張る

 この世界はファンタジー的世界だからかおなじみ魔法がある。

どうやって使うの?と聞かれるとよくわからないとしか返せない。

なんとなく使えるのだ。腕を動かすように、息をするように、ただ魔力を操って魔法として吐き出す…それだけ。

魔法には種類がたくさんあるわけだけど…その魔法を知っていて、魔力があればとりあえず使える。それくらい魔法というものは簡単で、操られてた時に初めて使わされた時はびっくりしたものよ。


そしてその経験を生かす時は今…。

つまりありったけの魔法を力の限り撃ちまくり天使を倒す…もうこれしかない。

そんなわけで頭の中をひっくり返して私が覚えた…いや覚えさせられた魔法を片っ端から思い出し、魔力を使い形にしていく。


「あっは、すごい魔力ですねぇ」

「す、すごい…」


いやこっち見てないで天使の事ちゃんと見てて!って言いたかったけれどこれでも今までにないほど集中しているので声をかけられない。

大丈夫か!?君たち大丈夫か!?時間無いから何も言わずに始めてしまったけれど私の意図をくみ取ってくれてるか!?

ダメでもやるしかないんだからほんと頼むよ!

とにかく今は魔法を!炎、水、氷、雷、光、闇…属性も威力もなにも気にせずに知りうる限りの魔法を次々に発動していく。

どれか一つくらいうまく当たるかもしれないし、謎の化学反応的なあれが起こって大ダメージ!とかあるかもしれないからね。


視界の端で光が瞬いた。


「させませんよ」


すかさず私の前にアーちゃんが身を投げ出してこれまた突然現れた天使の斬撃を受け止めてくれた。

しかし天使のほうも地味に学習したようでアーちゃんに剣を突き刺したままアーちゃんごと私に向かって前進してきた。

なるほど確かに確かにそれはまずいかもしれない…でも今は。


「それは愚策としか言えませんよ」


私の代わりに言ってくれたアーちゃんごと天使に魔法を放った。

何か水分を大量に含んだ何かが地面に落ちる音がして無残な姿のかつてアーちゃんだった物がそこに残っていた。天使の姿はない。


「聖職者ちゃん!どこ!」

「え…あ、前方正面数メートルです!」


その場所に向かって魔法を連打。


「フレイムショット、ウォーターブラスト、サンダーフォール、グランドブレイク、ホーリーレイ、ダークスピア!」


地面が抉れるほどの魔法を叩き込んだけれど手ごたえが感じられない。


「次!」

「私の頭上!7メートル!」


それからはもう無茶苦茶だった。

ひたすら聖職者ちゃんの指示する場所に一切の遠慮もせずに魔法を叩き込み、隙を突かれて切られそうになるとぬるっと戻って来たアーちゃんが身代わりになってくれて動きが止まったところにさらにアーちゃんごと焼き尽くす。


「あはっ!うふふふふふふふふふ!ふふふふふふふふ!!!!」


私はすっごく必死なんだけどアーちゃんは終始楽しそうだ。

そして魔法を使いまくっていると私もコツのようなものを掴みだして、ちょっとばかり新しい創作魔法ができそうな感じだがいかんせん天使が速すぎる。少しだけでも足を止めてくれるといいのだけれど最初の一撃で少しばかりダメージを受けたのかアーちゃんを斬っても足を止めてくれなくなってしまった。


「アーちゃんごめん!次もう一回だけ天使の足を止められないかな!?」

「…がんばりますっ!」


あ、だめそう!でもやってもらわないと終わらないからこれ!私の魔力はほとんど減ってないけれど、それでもいずれ限界は来るしアーちゃん自身もいつまで続けられるのかわからない。

なのでいつまでもこの状態を続けるわけにはいかない…なによりこれだけ無茶苦茶やってしまっているので人が来るのも時間の問題だと思うし!


そしてチャンスはすぐにやってきた。

というか作った。あえて魔法の手を少しだけ緩めて隙を作り天使の付け入るスキを与えたのです。

光が走り天使の姿が消える。

飛び出すアーちゃんからの斬られるアーちゃん。


「ふんぬ!」


そんな可愛らしい掛け声とともにアーちゃんが天使の身体を掴んだ…けれどもあっさりと振りほどかれて真っ二つに切り裂かれた。

ダメだったかぁ~…本当にどうしよう…。

その時だった。私の視界を赤い水滴のようなものが通り過ぎて行って…。


「神楽喰血」


天使を赤黒い棘のようなものが貫いて地面に縫い留めた。

これって確か…。


「メイラ!」

「遅くなりましたリリさん」


いやナイスタイミングだよ!よくやった!さすがはメイラ!出来る女!

この隙を逃さずに私は今しがた思いついたオリジナル魔法を披露することにする。


全ての属性の魔法…その中でも威力に特化した魔法を全属性分用意し、そして…ぶつかり合わないように注意しながら魔法をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせる。

すると出来上がるのがこのいろんな色が混ざり合った濁った黒い何か。


「オリジナル魔法、カオススフィア」


一見一つの魔法に見えるかもしれないけれど、この中にはありとあらゆる属性がひしめき合うまさにカオスだ。

熱いし冷たい。痺れるし割れる。眩しいし暗い。

というわけでくらえ!


私の魔法が天使を飲み込んだ。

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