第100話 人形少女は一仕事終える

「わぁ凄い。森が吹き飛んでしまいましたね」

「だね~」


まさかこんなに威力があるとは思わなかった。

ほとんど地形が変わってしまって魔法って凄いなぁと他人事のように考えていた…だけど肝心の天使がまだ生きている。

鎧も、その下の石造のような身体もボロボロだけれど、まだ確かに生きていた。

そしてこちらを見るとまたもやそのボロボロの剣を手に襲い掛かってくる。


「まだ動くの!?もう疲れたんだけど…」

「でしたらあとはお任せくださいませ。私の花も満開になったことですし」


そう言って一歩を踏み出したアーちゃんが片腕を上げると地面に咲いていた花が散り、その無数の花びらが宙を舞う。


「咲いて咲いて欲の花。綺麗に咲き誇り…散りゆく時も美しく…さぁ幸せの夢の中でおやすみなさいませ」


舞い散るたくさんの赤…その一つ一つが淡く光りそして大きな一つの光となって私の視界を奪った。

目を開けるとボロボロだった天使は姿を消していて、アーちゃんの花も最初からなかったかのように消えていた。


「…何したの?」

「秘密です」


可愛らしくウインクをされてしまったのでそれ以上は追及しない所存。

正直そんなに気にならないしね。


「終わったのでしょうか…?」


聖職者ちゃんがおずおずといった感じで声をかけてきたので頭に手を置いてなでなでしておいた。


「うん終わり終わり~。いやぁ助かったよ~ありがとうね」

「え!?あ、あの!!…恐縮です…」


ぷしゅ~と音が聞こえてきそうなほど顔を真っ赤にして頭から湯気を出して聖職者ちゃんが座り込んだ。

本当にどうしてしまったのだい君は。


「メイラもありがとうね。いいタイミングだったよ」

「お役に立てて何よりです」


これまたにっこりと可愛らしく笑うメイラだったが実は気になっていることがある。

なんかメイラの服が血のようなものでべったりと汚れているのだ。


「…どこかケガしてるの?」

「いえいえ。私の物ではないので大丈夫です」


「なんだそうなのね。安心した」


メイラが無事ならまぁいいでしょうと思っているとアーちゃんがメイラをじっと見つめていて、それに気づいたのかなんなのかメイラもアーちゃんを睨みつけるようにして見ている。

なになに?何かあったのかな?


「あなた…もしかして私の眷属を何人かやってしまいました?」

「あなたの眷属は知りませんが悪魔たちは不快だったので少しお片づけはしましたよ」


「あらまぁ」

「え、メイラ何かやっちゃったの?」

「不可抗力です。襲われたので返り討ちにしました」


それは仕方がない。襲われたのなら抵抗しないと危ないからね。


「ふむ~…あ!あなた私の眷属に入らなかった暴食系統の悪魔ですね。なるほどなるほど…」

「…」


「私の眷属であって欲しいわけではないですが何故だろう?と疑問に持っていたのですけど合点が行きました。「瞳」になにか仕込んでますね?それと…すでに私ではない神様に魂を明け渡していらっしゃる」


一瞬だけアーちゃんは私のほうを見て、再びメイラに視線を戻した。

さっきから私はさっぱり何が何なのかわからない。


「瞳になにか…というのは心当たりありませんが、その口ぶりからあなたが悪魔の神様なのですね」

「はい、その通りです」


すっと目を細めたメイラは何やらいつもと様子が違うように感じた。

普段は元気よくニコニコしててそれでいて宿屋仕込みの丁寧な雰囲気なのに今は親の仇を見つけたような表情でアーちゃんを見ている。

…親の仇…?あっ!!!


「あなたが人を悪魔憑きに変えているという話を聞いています…本当ですか」

「本当ですよ」


「理由はあるのでしょうか」

「もちろんありますよ…ただあなたにとって大事なのは理由ではありませんよね」


楽しそうに笑っているアーちゃんと、どんどん表情が曇っていくメイラ。

私はこの状況でどうすればいいのか…まぁ何もしなくてもいいか。

もしメイラが悪魔関係のあれやこれでアーちゃんに復讐したいというのなら止める気もないし…そもそもアーちゃんたぶん簡単に死なないだろうし問題はないよね。


「あなたのせいで…」

「あっは!いいですねいいですね!…いいんですよ、あなたは完全な被害者です。私という悪魔によって生まれてしまった可哀想な被害者。だからあなたには私に復讐していい理由があるんです。さあどうぞ、あなたのしたいように…」


うわぁすごいなぁアレ…こういうのを魔性の女というのかな?いや違うかも?

とにかくアーちゃんはこんな状況なのにすっごく楽しそうだ。

これはしばらくかかるかなぁと思ったけれどメイラは意外にも何もせず背を背けて私の元まで戻って来た。


「あら?いいのですか?」

「…私も悪魔だからわかります。あなたはきっと誰よりも自分の欲望に忠実だから。私がここで怒りをぶつけるとあなたはきっとすごく喜ぶ…そんなの悔しいですから」


「そうですか…残念です」

「それに私が手を下さずともあなたはリリさんに殺されるのでしょうから」

「あ~…メイラごめん、その事なんだけど…」


私は天使と戦う前にあったことを話した。

メイラはそれを難しそうな顔をして聞いていた。


「それは…皇帝さんは怒りませんか…?」

「その時はその時だよ!」


「ええ…」


というかね…巨大人形ちゃんがいない今アーちゃんを殺せる気がしないというのもあるの。

だったらもう連れて行って話し合いしてもらったほうがめんどくさくなくていいじゃんね!


「というわけで行きましょう!」

「はーい…あ、少々お待ちを。誰かいませんか」


アーちゃんがどこへともなく声をかけるとこれまたどこからともなく二人の女の子が現れた。

凄く幼く見える女の子と背の高い糸目の女の子だ。


「呼びましたでしょうか!!」

「はいお呼びしましたよ…ん、なんだかいい匂いがしますねあなた達。もしかしてお仕事そっちのけで遊んでましたか?」


「あ、いや…そのぉ…」

「わ、私は嫌だと言ったのです!でも色欲が無理やり…!!」


「んな!?裏切らないでよ!あんただって楽しんでたでしょう!?ちゅうちゅう吸いやがって少し痛いくらいなんだけど!?」

「ちょっ!?なんてことを言うのですか!?」

「落ち着いてくださいな二人とも。別に叱るつもりはありませんよ。むしろあなた達が欲望に忠実で私は大変嬉しいです…しかしどうやら4人ほど天に召されてしまったようなので今はもろもろ後処理をお願いしたいのです」


「え…反応ないって思ってたんですけど死んだのですかあいつら…」

「はい。なので後はよろしくお願いします…人間たちは適当にあしらっておいてください、あなた達は後処理が終われば好きにして構いません」

「怠惰はどうしますか?」


「そちらも放置で大丈夫です。満足すればあの子も帰ってくるでしょう」

「かしこまりました」


お~…なんだかすごく偉い感じが出てる!すごいやアーちゃん!


「それでは行きましょうかリリさん」

「ほ~い。メイラはどうする?」

「…私も行きます」


という事なので二人の手を引いて空間移動を使う。目指すは帝国のコウちゃんの所。

できればみんな仲良くしてくれたら嬉しいなぁ。

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