第101話 聖女の考察
≪フリメラside≫
「行ってしまわれましたか…」
久しぶりにお会いできたリリ様はやはり美しかった…お礼を言われ頭を撫でられた時など感極まって少しだけ粗相をしてしまったけれどなんとか処理をして眼前の問題について少しばかり考える。
ここに残ったのはうめき声をあげているアグスさんと…いつの間にか傷一つなく綺麗な姿に戻っているレクトさんだけだ。
確かにリリ様に首を斬られていたはずなのにきれいさっぱり消えているし、意識はないようだが胸が上下していることから生きてもいるようだ。
「…アグスさん起きてください」
少しお行儀は悪いけれど眠るアグスさんの顔を叩いて無理やり起こす。
「んぁ!?…なんだぁフリメラかぁ…」
「おはようございます」
「ああ…というか俺はなにを…」
「覚えてないのですか?」
「いや…あ~ちょっと待ってくれぃ…」
頭を押さえて何やらうつむくアグスさんだったが彼は先ほどまで大変な事になっていたので覚えていないほうがいいのかもしれない。
「あ~思い出した…うわぁ最悪だ…ってあの女の子はどうしたんだ!?」
「覚えてましたか…彼女ならとっくにどこかに行きましたよ」
「まじかぁ…そのフリメラ…見てたよなぁ?」
「ええ、ばっちりと」
「はぁ…俺なんであんなことを…」
「まぁ彼女に何かをされたのでしょうね。ところで少し聞きたいことがあるのですがいいですか?」
「今かぁ?とりあえず移動したほうがよくないかぁ?」
「いえ、今のほうがおそらくいいと思います」
横目で眠るレクトさんを一瞥する。
まだ起きる気配はないが彼には出来るだけ聞かれたくない話だ。
「まぁいいけどよう…聞きたいことってなんだ?」
「アグスさんは私がレクトさんと出会うより前から一緒に居ましたよね?どうやって彼と出会ったのですか?」
なんで今そんなことを?と言いたげな顔だったが私の表情が真剣だったからか釈然としない顔ながら話し出してくれた。
「あいつとは俺が盗賊をしてた頃に出会ってなぁ…一人で旅をしているレクトを見かけたときにイイかもだと思って襲ったんだよ…そうしたら返り討ちに会ってなぁ…力には自信があったから驚いたぜぃ」
「それで?」
「ん~そこからはあいつに「これからは人から奪うためではなく、守るために力をつかおう」的なくさいセリフを言われて…んであいつの旅になんとなく同行してるうちに俺まで勇者だとか言われだして…みたいな?」
「よくそんな言葉でついてくる気になりましたね」
「そうだよなぁ…でも俺の心にえらく刺さってなぁ…レクトについて行くのが俺にとって正しい事なんだって」
そう、私が気になるのはそこだ。
私も出会ってからずっとそう思っていた。レクトさんと共に行くのが正しい事なのだと思っていた。
「では今ならどうです?レクトさんの事をどう思いますか?」
「どうってそりゃあ大切な仲間さぁ」
「本当に?レクトさんはこれまで筋の通らないことを言うことが稀にありましたね。それが理由で先ほども帝国騎士の方に怒られてしまいました。現実を見ない理想を語る彼に私たちはそれが正しいとついてきましたが…今でもそれが正しいのだと言えますか?」
「そりゃあお前…」
「どうして今まで盲目的にレクトさんについてきていたのか…説明があなたの中でつきますか?」
「…そういえば俺…なんであいつの言うことを考えもせずに肯定していたのか…そうだ俺はそんないい子ちゃんじゃ無いはずだよなぁ…」
やっぱり…私の中である事が形になろうとしていた。
実は私も少し前からレクトさんの事を冷めた目でしか見れなくなっていた。
理想を語る彼に淡い恋心のようなものを感じている時もあった…だけれどある日を境に何故?と疑問を持つようになった。
なぜ子供のように理想だけを語る彼に惹かれたのか…どうしてその行動を全て肯定してしまうのか…考えれば考えるほどわからなくなり…それと同時に無条件で彼を持ち上げる周りが気持ち悪く感じるようになった。
教主様はそのおかしさに以前から気づいていたようで…そして私の心情が変化したのはリリ様にひかれだしてからだ。
当初はあの人の敵だからレクトさんが嫌いになってしまったのか?と浅はかな自分を責めたがそれだけでは説明ができないほどに気持ちが悪かった。
そして今…アグスさんに話を聞いて少しばかり確信を得た。
アグスさんは先ほど黒の使徒の聖女に魅入られていた…そしてリリ様達の話を聞くと彼女はどうやら悪魔の神…というものらしい。
つまりは…勇者レクトを盲目的に信じてしまう事に何らかの力が働いている可能性が高いという事。
神様とつながりを得ることでその力から逃れられること…これはほぼ間違いないのではと思っている。
あの帝国騎士もレクトさんを信頼してはいなかった。だから少しわからなくなるがそこは誤差だろうと今はおいておく。
あのレクトさんが死んだときに現れた、リリ様曰く「天使」と呼ばれる存在の事もある。
勇者レクトには恐ろしい秘密がある…これが私の下した結論。
早急に教主様に報告をしたほうがいいだろう…そしてアグスさんにも。
これから何かが動きだしそうな予感がした…とてつもない大きな何かが。
私は心の中であの美しい私の神に人知れず祈りをささげた。
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