第102話 因縁の二人

帝国にある城の一室で優雅に紅茶を飲んでいたコウちゃんこと皇帝は自らの愛用のカップに亀裂が入っていることに気が付いた。


「なんか嫌な予感がするな」

「陛下…?」


少し心配げに後ろに控えていたジラウドが皇帝に声をかける。


「…戦場の様子はどうだ?何か動きはあったか?」

「今のところは…特に報告は上がっておりません」


「ふむ…まぁ気にしても仕方がないか」


気を取り直して新しいカップに紅茶を注ぎ、焼き菓子を口にしながら時間をつぶしていたが少しすると何もない空間から腕のようなものが突如として現れた。


「!?」

「おちつけジラウド。どうせリリだろう」


反射的に腰の剣に手を置いたジラウドを制しつつもやはり皇帝は嫌な予感がぬぐえなかった。


(我の悪魔憑きはまだ解けていない。となると何故戻って来たのか…まさか返り討ちにあったか?そうだとすれば次はどうするべきか…)


リリの結果を伴わない帰還に落胆を覚えつつ次の手を思案するが皇帝はまだ事態がとんでもない方向に進んでいることを知る由もなかった。


「ふぃ~到着ー!コウちゃんただいまーっ!」

「…おかえり」


随分と元気だな…と思いつつ出かけたときとうって変わって全体的に汚れているリリを見て戦いがあったのは理解できたが皇帝が知りたいのは結果だったので早々に話を進めることにした。


「それで?どうなったんだ」

「もう~ちょっとは頑張った私をねぎらってよね。大変だったんだよ!…まぁいいや。アーちゃんこっちこっち」


ずるりとリリに引きずられるようにしてまずはメイラが姿を現し…そして次に白いローブを着た少女が姿を見せた。

皇帝はその瞬間すべての思考が吹き飛んでしまった。

忘れるはずもないその顔…その雰囲気。忌々しいほどに記憶に残るその少女は…悪魔神そのものだった。


「お久しぶりですフォルスレネス様」

「どういうつもりだリリ」


お辞儀をした悪魔神ことデミラアルスを無視してリリを睨みつけた皇帝だったが当の本人はニコニコ笑って一仕事終えました的な雰囲気を出している。


「いやぁちゃんと最初は作戦通り不意打ちアタックを決めたんだよ?でもその後話してみたらいい子だったからさ!話し合いの場を設けてみました!」

「リリさんを怒らないで上げてください。私が無理にお願いしたのです」


「そう!アーちゃんが話したいって言うからさ~。あと悪魔憑きはちゃんと解除してくれるってよ?」

「それを信用しろと?」


そんなに簡単に解除するつもりがあるのならなぜ今まで解除しなかった?と言いたいしそもそも何をどうやっても信用自体出来るわけがない…皇帝は静かに臨戦態勢をとっていた。


「はい。あなた様が望むのならすぐにでも解除いたします。ですがまずは話を聞いてはくれませんでしょうか」

「そら見たことか。貴様の言葉ほど信用できぬものもないわ。なにをどう言いくるめるつもりだ?言っておくが貴様の魔性など我には通用せんぞ」


「私が今からお話しすることは個人的な話ではありません。この先、この世界で起こる…いえ現在進行形で起こっているある事態についてお話したいのです」

「…それが我を悪魔憑きにしたことと何の関係がある。くだらない戯言をのたまうくらいならここで死ね」


惟神を発動させ光のナイフを作り出しデミラアルスの首に突き付ける。


「お願いします。他には何もいたしません。どうかお話を聞いてください」

「貴様…」

「まぁまぁコウちゃんいいじゃん話くらい。何もしないし悪魔憑きも治してくれるって言うんだからさ」


「…ジラウド席をはずせ」

「しかし陛下…」


「以前も言ったがこいつとお前は相性が悪い。はやく去れ」

「…かしこまりました」


ジラウドが部屋を出ていくのを確認したのち皇帝はナイフを消し椅子に座った。


「いいだろう聞くだけ聞いてやる。だが少しでも妙な真似をしてみろ…たとえ相打ちになろうとも貴様の首をはねる」

「はい。構いません」

「あのさ、アーちゃんって殺せるの?けっこうな不死身だったけど」


「他人より死ににくいのは認めますがフォルスレネス様なら造作ないでしょう」

「ああ、我の惟神はリリも経験したように対象に確実に有効になる。そいつの無駄な不死性も我の前ではないも同然よ」

「へぇ~…怖いなぁ」


もっともその能力を受けてなおぴんぴんしている人形を知っているがなと心の中で毒づいたのは皇帝のみぞ知る。


「それでは改めましてお話しさせていただきます。この話は多少ですがリリさんにも関係がある事です」

「およ?」

「前置きはいい、さっさと話せ」


そしてデミラアルスは語りだした。

自身の原点…そして世界で今まさに起きているとある真実を。

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