第55話人形少女は食べ物を探す

 自分の身体を抱きしめるようにして震えながらうつむくメイラに肩を貸しながらきょろきょろと宿らしき場所を探すこと数十分。

このなんとか帝国ってところめちゃくちゃ大きいし人も多いし建物も凄いしでどこに何があるのかまるで分らない!


「んあーーーーーー!!宿屋はどこなのーー!!!」

「・・・」


メイラも本当に辛そうだし…一回外にでる?それとも魔王城に戻ろうか?あの人形ちゃんのところに放り込んでもいいかもしれない。

でもせっかく旅行に来てるんだしやっぱり現地で過ごしたいという気持ちもある。

どうしよう…。


「おい姉さんたち、宿探してるのか?」


困っていると三人のすこし薄汚れてる感じの男たちが話しかけてきた。


「ん?そうなの宿探してるの!」

「へへっそりゃいい…見ない顔だが旅の人かい?そっちの子は具合が悪そうだし良ければうちに泊まれよ」

「それが良い、あんたら美人でかわいいし安くしとくぜ」


おお~…なんて親切なんだ…やっぱり困ってるときはお互い様だね!

メイラもこんな感じで最初は誘ってくれたし宿屋の人は優しさでできているのかもしれない。


「うん、じゃあ案内してもらおうかな!メイラもいいよね」

「…はい」

「そうこなくちゃなぁ…ひひっ」


男たちの案内で少しだけ歩くと、なかなかに立派な宿にたどり着くことができた。

なんだか小さなお城みたいだ。


「ここ本当にお兄さんたちの宿なの?」

「そうだぜ?いいところだろ?」


うむ。男たちはなんだか薄汚れた感じなのにここはすごく綺麗だ。


「とりあえずこの子が本当に限界そうだし早速休ませてもらっていいかなぁ?」

「お!そうだな、体調は良くしてもらわんといけないからなぁ~」

「ひっひ!」

「とりあえず一人銀貨一枚いただこうか。一泊だとそれくらいだ」


私は懐の袋から銀貨を二枚取り出して男に渡した。

その後は部屋に通されたのでベッドにメイラを寝かせたのだけれど…すごいこのベッドめちゃくちゃでかい!部屋の3分の1くらいはベッドだ!すげ~…。


「まだ具合悪い?」

「…そうですね」


「そっか~じゃあゆっくり休みなね。何か食べる?」

「大丈夫です」


まったくそうは見えないけれどね!やっぱり何かご飯を持ってきてあげよう。

この宿はご飯ついてないそうなので外に調達しに行かないといけないのだ!食べ歩きしたかったから丁度いい。


「じゃあ私少しだけ外見てくるね」

「はい…あのリリさん…できれば誰もこの部屋に近づかないように言ってもらっていいですか…?」


「うん?いいよ~」

「ありがとうございます」


そして鍵をかけたことを確認して部屋を出る。

宿の外で男たちに部屋に近づかないでほしいと伝えたところ、どうせ夜までは人はほとんどいないとの事だったので一安心。

私はるんるん気分で食べ歩きに出たのだった。


「おばあさん、これいくら?」

「…あぁ、一個60コルだよ」


目についた前世でのリンゴのような果物を売っていた露店で一つ買ってみた。


「これってこの辺の果物?」

「そうだね、上で収穫されて余った分が流れてきたもんだから品質は微妙だがね」


「上って?」

「上は上さ…あたしたち下層の人間たちは入ることすら出来ないお貴族様達の住処だよ」


「ほうほう」


もしかして貧富の差が激しい感じなのかな?この国は。

くそ~ならその上とやらのほうがおいしいご飯にありつけたかもしれないのかぁ~…メイラの体調が戻ったらそっちに行こうかな?どうせ皇帝とかに合わないといけないんだし。

しかし口にしたこの果物は美味しかったので良しとしよう。


「もう二個ちょうだい」

「…なんだい最初から三個買ってくれればおまけしたのに…まぁいいか二つで100コルでいいよ」


「ありがと!」


そういえばさっきは宿で「コル」っていう単位じゃなくて銀貨って言われたな?なんで?…まぁいいか。

私はお金の袋から100コル分のコインを取り出した…ところで手の上からお金の重みが消えた。


「およ?」


見ると袋がなくなっており、すごい勢いで小太りの人物が走って行く。


「ははは、やられたね。だめだよあんた…ここではお金はちゃんと持ってないとさ」

「もしかして盗まれた感じ?」


「それ以外なんだってのさ。もう追いかけても追いつけないよ。残念だったね…ああその手に残った100コルは貰うからね、ほらこれ商品」


手元には果物二つだけが残った。


「その感じ、おばあさんもしかしてわかってた?」

「ああ、あたしには見えてたよ。まぁ授業料と思って諦めな」


私は男が走っていた方向を見た。

そして目の前のおばあさんを見る。


「小太りの男と、肉付きは悪くないおばあさんか…」

「どうしたんだい?ぼそぼそと」


「ううん、ちょうどいいかなって」

「あん?」


「いやほら…好みが分かんないし種類は多いほうがいいよねって話」

「何を言っているんだい本当に。お金盗まれて頭おかしくなっちゃったのかい?」


「いやだな、ご飯の話だよ」


とりあえず私はお金を盗んだ男が逃げたほうへと歩き出した。

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