第364話 人形少女は問いかける
人とは一体何なのだろうか。
私は自分が何なのかいまいちわかっていないけれど…たぶん私は自身を人間のままだとは思っている…ような気もするし違うと理解しているようにも思える。
つまりはまぁ何も考えていないのだけどね。
元人間で、お人形さんボディーで…神様パワーを持っている。
じゃあ私は何?
私は私だ!って言うだけなら簡単だけど、自分の存在の区別というものはどうしても必要だ。
マナギスさんに言わせるのなら私は神様という事になるんだろう。
「じゃあ今のマナギスさんは一体何?今いる全ての人がマナギスさんみたいになったとして、それは人なの?」
「ふむ、何が人を人たらしめるのか…それはとても難しいけれど、とても簡単な事だ。心が人ならばそれは人であると言えると私は思うよ」
「ならコウちゃんは?私はコウちゃんが人としての自分に誇りを持っているってことを知ってるよ。でもあなたはコウちゃんの事を人ではない神様だと言ったんだよね」
「うん、事実だからね。人としての自分に誇りを持っているのなら神の力なんて発現しない。そんな摩訶不思議で理不尽で御伽チックなものに手を出した時点で人としての誇りだなんて言えないんじゃないかな」
「じゃあレイはどうなの?あの子が始まりなんでしょう?【惟神】なんてものは」
「それに関してはね恥ずかしいというかなんというか完全に私のミスだからね。あの子が自分で力に目覚めたのではなく、私が無遠慮にやりすぎたせいであの子を無理やり神にしてしまった。流石にそれであの子を責めるなんてマネは出来ないよ」
なら、と私は次々にマナギスさんに疑問を投げかけていく。
勘違いしないでほしいのは私は別にマナギスさんの粗を探したいだとかとか論破したいだとかは考えていない。
本当にただ単純に疑問なだけだ。
この人が何を考えているのかを知れば私の友達があんなに泣いていた理由が分かる気がして──
それが分かればマリアさんが大切な人の声から目を背け続ける理由がわかるかと思ったから。
「なら私とマナギスさんの違いは何?惟神以外に何の違いがあるの?それとも…私は人なの?」
「惟神以外とは言うけどもねリリちゃん。そのたった一つの違いというのは恐ろしいほどに大きいと思うんだよ。それは誰もが手に入れられる力ではない。それに比べて私の目指すものは違う。ただ器が変わるだけだ。それ以降の道を切り開くのは個人の努力…そこが私の考える神と人の違いだよ」
マナギスさんは私のしつこいほどの問いかけに律儀に答えてくれる。
というより少し楽しんでいるようにも見える。
あれだろうか、こういう人特有の議論するのが好きだ的な。
「努力の末に惟神を手に入れた人はいないって言うの?」
「もちろんいないとは言わないよ。ただ…努力の末に手に入れたのが神の力というのはちょっとね。人としての矜持を捨てて最後の最後で楽な道を選んだということだよそれは」
「そっかぁ~」
何を聞いてもマナギスさんが言いよどむことはなかった。
聞いたことに関してすぐに答えが返ってくる。
私にとってマナギスさんの言葉なんてこの問答に関わらず全て意味の分からない屁理屈なんだけど、本人にとっては間違いのない正しい事を言っているわけで…それを疑いもしていない。
まっすぐに自分を信じていて、信念を貫いているとでも言えばいいのだろうか。
だとすればもう何も聞いても意味はないのでしょう。
だってマナギスさんが正しいと信じているそれは、私にとっては理解の出来ない文字列なのだから。
まぁでも結局そういうものだよね。
他人の考えなんて理解できる方が珍しいのだ。
「話はもう終わりかな?」
「うん、終わりだねぇ。ほらマリアさんも立って」
マリアさんの腕を引っ張って立たせてあげる。
口の端の方から泥のようなものがこぼれ落ちている気がするけど怖いので触れない。
「マリアさん。マリアさんももうわかったでしょ?あの人と何を話しても無駄だよ。あの人はあの人なりの考えや信念があって、それにそって頑張ってるだけなんだから」
「…あの女の肩を持つつもりですか」
「肩を持つというか…」
自分のやりたいことが一貫している人っていいよねとは思うけど、だからと言ってマナギスさん本人に好感を持てるかと言うと話は別だ。
「そういうんじゃなくてさ、話してみるだけ疲れるだけでしょって」
「…」
「いろいろ理由をつけすぎなんだよ皆。好き、嫌い、憎い、愛してる…何かをするときに必要なものなんてそれくらいじゃないかな」
「…」
「もうほら、何も考えずにぶち殺すしかないよ。はいコレ」
闇の中で地面に刺さっている刀を一本引きぬいて差し出す。
それを少しだけ見つめた後にマリアさんは口元を拭ってから刀を受け取った。
「あなたの言っていることに初めて納得しましたよ。確かに私は…いろいろと考えすぎていましたね。何をどうしようと今この瞬間に考えることは…あの女を物言わぬゴミに変えること…そうでしたね」
そこまでは言っていないでござる。
あとで「だってリリが言ってたもん!」とか罪をなすりつけられそうなあれだ。
別にいいけどさ。
「なんでもいいよ。やりたいようにやればいいのさぁ。というわけで行きましょう。レッツぶっころタイム!」
マリアさんの返事も聞かずにいざ突撃。
今度は小手調べなんて言わずにわりと全力だ。
マナギスさんの腕が私のナイフを阻もうとするけれど、やはり圧倒的なパワーを持った私の全力とやり合うのは少しばかり足りないらしく、完全には防御できてはいない。
それでもマナギスさん…というかレイリの身体は傷ついたり欠けたりはしないのがめんどくさい事この上ない。
「はははは!やっぱり君は別格だねぇリリちゃん。欲しいよその身体が!一応対策はしてきてるとは思うのだけど、またその身体を持っていってもいいかなぁ!」
「やってみなぁー」
その直後に腕のほうを見えない細い糸が絡みつく不快な感覚が襲う。
でも以前みたいにそのまま私の身体を好き勝手に操られることはなかった。
私とクチナシの努力の結晶は無事にその効力を発揮しているようだ。
「うーん、やっぱりダメだったかぁ。ちゃんと対策をしてきているなんてリリちゃんは優秀だね」
「私の身体はとっくにマオちゃんの物だからね!残念でしたっ!」
絡みついた糸を引きちぎるつもりで思いっきり腕を振りぬいて、そのままマナギスさんの顔に拳を叩き込む。
しかしマナギスさんはまさかの頭突きで対抗してきてお互いに反動でわずかに下がる結果になった。
「硬いなぁ」
「言ったでしょう?この身体は「強い器」なの。この身体自体には特殊な能力も何もない。能力は完全に中身次第だ。だけどね、何もしていなくても生半可な力では打ち砕けないよ!そんなやわなものでは人の力を受け止めれはしないからね!」
「もう聞き飽きたよ、そういうのは!」
「頭を下げなさい、リリ」
背後から聞こえた静かな声に咄嗟に従って頭を下げた。
ひゅんと風を切る音と共に私の頭上をマリアさんの振るった刀が通過していき、マナギスさんに迫る。
「不意を突いたつもりなのかなそれで」
マナギスさんが手刀を作り、マリアさんの刀とぶつかる。
ガキンと鈍い音がして火花が散り、マリアさんの刀が円を描きながら空中に跳ね飛ばされ、闇に紛れて見えなくなる。
しかしマナギスさんの方も手刀を振りぬいている状態なので屈んでいる私から胴ががら空きだ。
ここでさらなる魔法を一つ披露しよう。
「いつもの地水火風、光に闇!全部ぐちゃぐちゃにしてナイフにえんちゃ!!」
もはやおなじみの私のオリジナルのカオス系の魔法だが、パーフェクト人形となった私はその魔法制御も限界を突破している。
以前までは私と言えどぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたカオス魔法をぶっぱするという扱いが限界だったけど、なななな、なんと繊細に繊細を極めた今はナイフや腕にその力を纏わせて振るうことが出来るようになったのだ。
エンチャントというやつだ。
「くらえい!」
安定と信頼の破壊力を得たナイフの一撃がマナギスさんの人形ボディの腹を切り裂き、穴をあけた。
なおその代償としてナイフと、ナイフを握っていた腕は手首の辺りから木っ端みじんに砕けてしまった。
破壊力が自らにも帰ってきてしまう欠陥仕様なのはお茶目ポイントという事で許してほしい。
「痛いなぁ…!痛覚は必要だからとあえてそのままにしてるんだけど…これは思ったより痛いね…!でもそこからは逃がさないよ」
ガッと手首から下が無くなった腕をマナギスさんに掴まれて、さらにもう片方の掌を向けてくる。
あの魔法が来る…と身構えるが掴まれている私の腕が肩ごとなくなった。
視界の端にはマリアさんが異常な長さの真っ白な刀で私の腕ごとマナギスさんの腕を切り落としたのが見えた。
本当に私ごとやりやがったよこの人…それにそんなに良く斬れる刀があるのなら初めから出してほしかった。
なんて言ってても始まらない。
「くそぅ…この身体でもその刀を受け止めきれないのか!」
「人ごときが私の力を受け止めきれる道理などないでしょう。思い上がりもほどほどにしなさい」
マリアさんは刀を振るってそのまま逆方向まで移動しており、さらにそのまま追撃をしようとしていてマナギスさんも迎え撃とうとしている。
ここがチャンスだ。
「人形くんたち!」
私の呼びかけに闇の中から数体の人形が現れて、切り飛ばされた私の腕を新しい腕に換装して去っていく。
この間おおよそ0.2秒。
恐ろしいほどに仕事ができる人形たちである。
ただここで問題が!
再びナイフでマリアさんに合わせて挟撃しようと思ったのに、ストックが尽きてしまっていた。
別に問題があるわけじゃないけど、完全にナイフを取り出すつもりでいたからちょっと固まってしまったというかなんというか。
ナイフがないのなら腕からナイフを使えばいいし、なんなら人形くんたちに一から作ってもらってもいい。
色々手段はあるのだけど、だからこそどれを選択するべきか一瞬だけ悩んでしまった。
そしてそんな私の耳に届くひゅんひゅんと何かが回転しているような音。
「上…?あ、あれって…」
視線を戻すとマナギスさんを挟んで反対側のマリアさんと目が合った。
憎い演出してくれるなぁ~。
私は空に手を伸ばし、それを受け取った。
さっきマナギスさんが弾き飛ばしたマリアさんの刀…それに先ほどと同じようにカオス魔法をエンチャントする。
「あ、まずい」
間抜けな声をだしたマナギスさんが私とマリアさんを交互に見た。
防ぐことのできない二つの刀。
腕は一本…それはつまり──
「詰みだねマナギスさん」
「粛として受け入れなさい」
そうしてクロスした二振りの刀がマナギスさんの胴体を真っ二つに切り裂いた。
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