第140話 皇帝の歩み
フォスがこの世に生を受けたとき、彼女は奴隷だった。
生まれながらにして自らの全てを他人に支配され少しの自由も許されない日々を過ごしていた。
そして不幸な事に彼女は美しかったのだ。
劣悪な環境でも宝石のように輝くその姿に彼女の所有者であった男はその濁った欲望を何度も何度もぶつけた。
人としての、女としての尊厳を数えきれないほど踏みにじられ、汚され…それでもフォスの瞳は濁ることは無く爛々と燃えるように輝いていた。
フォスの所有者だった男は当時の大国を収めていた王であり、それはそれは独裁的な暴君でもあり、他国を侵略しては妻を娶り、奴隷を増やしてまさにやりたい放題だった。
そんな中、ついにフォスは王の子供を身籠らされ出産することになってしまう。
勿論普通にすむはずがなく羞恥と屈辱にまみれた出産劇の末に男児を産み落とし、次はどうこの奴隷で楽しもうかと手を伸ばした王に遂にフォスはその牙を剥いた。
だがしかし全てを奪われて生きてきた奴隷が簡単に逆襲などできるはずもなくすぐに囚われ、そのまま見せしめとしてありとあらゆる辱めに拷問を受け、その生を終わらせることとなった。
「覚えていろ…!絶対にわたしは…お前を殺す!!誰かに踏みにじられたままで終わってやるものかぁあああ!!」
産まれたときから全てを奪われて生きてきたはずなのに、どこから出たのかその鬼気迫る反逆心に王は戦慄した。
それから十数年の時が立ったが相変わらず王はその悪名を世界中に轟かせながら暴虐の限りを尽くしていた。
しかしそろそろ自分の後を継ぐ跡取りを決めなくてはとたくさんの妻や奴隷に産ませた子供たちに殺し合いをさせ、生き残った一人を王とする事にした。
そこから数年…血で血を洗うような後継者争いを勝ち抜き、王の前に現れたのは美しい青年だった。
「ほう…悪くない顔立ちだ。貴様は誰との子だったか?」
「覚えていませんか。ちゃんと遺言を残したと思っていたのですが」
「遺言だと?なんだ貴様の母は死んでいるのか。ならば覚えているはずもないな。軟弱者に興味は無いからな」
「そうですか。では思い出してください父上」
「あ?」
目にも止まらない速さで王に肉薄した青年は王の身体を羽交い絞めに、ナイフでその身体を抉った。
「ぐぁあああ!?貴様何をする!?」
「何をってあの時ちゃんと言っただろう?」
「なんだ!?何を言っているぅう!!」
「覚えていろ絶対に私はお前を殺す。確かに「私は」そう言ったはずだ」
王は目を見開いた。
それは恐怖を振りまいていた王自らが恐怖した唯一の記憶…最後まで自分に抗おうとした美しい奴隷の最期の言葉だった。
「貴様…まさか…!」
「あの時の言葉を果たしに来たぞ、クソ野郎」
青年は恐怖に歪む王の首をそのまま跳ね飛ばし、その首を持って城の上に立った。
「見ろ!貴様らを支配していた王は私が殺した!今日からは私が…我が王だ!」
そこからは徹底的に青年…フォスによる国の改革が行われ、まさに革命と呼ばれるほどの大騒ぎとなった。
その過程で命を落とすことになるが彼の子供が同じように立ち上がり、革命を進めた。
道の途中で力尽きた英雄の遺志を継ぐ…いや恐ろしいほどに言動がそっくりなのはそれもフォスだからである。
理由は分からない。しかしフォスは命を落とす度に自分のまだ自我が育ち切っていない子供に転生する能力を有していたのだ。
数世代の自分を受け継いで悪逆の王を討ち、腐り切った国を正常に戻したフォスは旅に出た。
全てから解放され始めて何のしがらみもない一人の自由な人間として自らの足で、世界を歩いた。
その旅の間に様々な逸話を残しながらも自由を満喫していた時、フォスの前に一体の龍が現れ、当時は彼だったフォスに英雄としての力を授けたのだ。
「お前には過酷な運命を背負わせる事になるかもしれない。しかしそれでも私はお前に一つの希望を託そう」
レリズメルドという名の龍はそう言い残し飛び去った。
そこからフォスの人生は波乱の物となる。
大量の犠牲者を出したモンスターに遭遇しては討伐し、はたまた魔族との戦争に参加し武勲を上げた。
フォスが何かをするたびに人々が集まってきてフォスを讃えた。
やがて世界中から英雄と呼ばれるようになったフォスは自らの国を興し、それが後に帝国と呼ばれる国となるのだった。
────────
そして現在
「思えばあのやけに都合が良かった英雄の力も、それに集まってきた人間どもも全てはお前…原初の神の仕込みだったわけだ」
「そう、英雄は私が人間と魔族に争いを止めさせないために作り出したシステムの一つです。その能力は人間にしては分不相応の力を得ることと…一種の洗脳能力。その者を素晴らしい存在として認識し、崇めるようになると言ったものですね」
「はん。どこまでも馬鹿にしやがって。我が一番許せない行為だそれは」
縛られ、踏みつけられることを何よりも嫌ったフォスという一人の人間はその怒りの牙を神に向ける。
自分を否定させないため。
誰かの掌の上で何て踊りたくはないから。
「ならばどうしますか?もしかして勝てるとでも?私に」
「ああ…同じ顔だな。お高く留まって絶対に自分は安全だと舐め腐ってるその表情…いいぜ、綺麗なその胸糞悪い面を、見下していた者に噛みつかれる屈辱で歪ませてやるよ。反逆だ」
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