第141話 英雄と原初の神

「聞こえるか!我が国の騎士共!」


フォスのお腹の底から発声されたような…そしてそれだけでは説明がつかないような大音量で帝国全土に拡散する。


「我が、貴様らの御旗がここに居る。なのになんだ貴様らはその体たらくは!!確かに久しく休暇を与えていなかったが、だからと言っていつまでも「遊んで」いるじゃねぇ!そろそろ真面目に仕事をしろ!早急に敵の首魁を我が討つ。ならば貴様らのやることは言わなくても分かっていような!!」


帝国の各地から「ウオオォオオオオオオオ!!」っと言った雄たけびが上がる。

それを聞いたフォスは満足そうに笑う。


「ならばやれ!遊びは終いだ!その不格好な石細工ごとき、さっさと砕いて捨ててしまえ!」

「石細工とは言ってくれますね」


「ああ待たせたなボケナス」

「いえ別に」


その瞬間、フォスの光の剣が目にも止まらぬ速さで突き出される。

フィルマリアはそれを何でもないようにひらりと身体を反らし避けるもフォスは続いて間髪入れずに逆の手に持った闇の剣で薙ぎ払う。

それを刀で受け止めようとしたフィルマリアだが闇の剣はいともたやすくその刀を砕き、フィルマリアの胸に一筋の傷をつけた。


「はっ!神様も血は赤いんだな」

「私も赤いのではなく、あなた達も赤いのです」


「意味なんて何も変わりやしないのにそんなに自分を我らの上に置きたいのか?随分とまぁ器のちいせぇ事だ」

「誰だって生ゴミに特徴が似ていると言われるなんて嫌でしょう?」


「ほざくなクソアマぁ!!」


再びフォスが二振りの剣を振る。

しかしフィルマリアもそれを読んでおり、刀のリーチの長さを生かしフォスに向かってカウンター気味に突きを放ち、それは結果としてフォスの肩に突き刺さった。


「こういうの何というのでしょうね?とりあえずどうです?粋がってはしゃいでいたところに、こんな風に水を差される気持ちは?」

「あぁ~?勘違いしてんなよババア…大鎌(サイズ)」


フォスの手にあった光と闇の二刀が交わり一本の輝く大鎌に姿を変え、その刃が刀を握っているフィルマリアの脇下にあてがわれる。


「…」

「こうすると…腕が千切りやすいだろうがよぉ!!」


大鎌が上に振られると同時に大量の血飛沫が上がる。

空中で数回回転したのちにフィルマリアの切断された左腕が地面にべちゃっとつぶれるような音と共に落ちた。


「どういう気分だ?見下していた相手に片腕持っていかれんのは」


フォスは自身の肩に突き刺さったままの刀を引きぬくと刃の部分を思いっきり握りしめ、血を流しながらも砕いた。


「いいものではありませんね」


腕の無くなった肩口から大量の血をこぼしながらもフィルマリアは平然としていた。


「はっ!そのスカした顔を泣き顔に変えてやるよ」

「やれるものならどうぞ」


「そうかよ!大槍(ランス)!」


大鎌から槍へとその姿を変えたフォスの武器がフィルマリアに迫る。

突き出される槍をやはりフィルマリアは躱すがフォスはありとあらゆる武を極めた人としての到達点。そんな彼女を相手に刀での防御ができず片腕を失った身体の使い方に関しては素人のフィルマリアがいつまでも純粋な接近戦で勝負になるはずもなく、少しづつ追い込まれて行きその身体に傷が増えていく。


「実に鬱陶しいですね。腕にたかる羽虫のようです」

「ありがとうよ!あんたに不快感を与えられたのならこうして頑張ってるかいがあるってもんだよ!」


フィルマリアが刀をフォスに向かって投げた。

それを槍で受け止めると同時に刀は跡形もなく砕け散るがフィルマリアはそのまま間髪入れず、どこからともなく大量の短刀を取り出し連続で、それでいて正確に投擲していく。

フォスは槍を回転させながら短刀を防ぐが、後退をしているため少しずつ距離が開いていく。

だが


「聖弓(アロー)!」


槍から弓へ、そして放たれるのは白くそして黒い光の柱。


「遠距離戦がしたいのなら付き合ってやるよ」


放たれた輝きの矢は一直線にフィルマリアに向かい、その新路上に投擲されている短刀は何の意味もなさずに消えていく。

そして矢は見事に神の胸を貫いた。


「うぷっ…」


盛大に吐血すると同時に周りに散らばっていた刀も消えていく。


「泣かせることは出来なかったが…血で汚れた随分と惨めな顔になったじゃないか、ええおい?」

「そうですね。素直に称賛を送っておきましょう」


「嬉しくないねぇ」

「そうですか?では別の事で褒章を与えましょう」


「ほぉ?」

「実はここに居る私はまだ完全ではないのです」


「…何を言ってるんだ?」

「とある大事な目的のために私の力を何個にも分けているのですが…まだ6割…いえ7割ほどしか戻っていません」


「折り返し過ぎて後半じゃねえか。かっこつけんなよ」

「まぁまぁ。いえ別にこの状態でもあなたを倒すことなんて何という事もないのですよ。ただあまり今の状態では気が乗らないのですよ」


そこでもう一本、矢が放たれフィルマリアの右肩に突き刺さる。


「だから見逃してくれとでもいうつもりか?だとしたらノーだ。お前はここでぶちのめす」

「勘違いはいけませんよ。私が言いたいのは頑張ったご褒美に私の力の一端を見せてあげましょうということです」


フィルマリアはその右腕を天に向けた。

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