第220話 クチナシ人形はわからない

「また子供…?」


レミィが二階から顔を出すリフィル見て困惑した様子で呟く。

ルツもそちらに気を取られているようで、正気ではないザンも…いや正気ではないからこそリフィルから目を離せないようだった。


その小さな少女はニコニコと笑っているように見えるけど数年共にした私からすれば機嫌が悪いということが手に取るようにわかった。


まずい…さっきの光景を見られたのだとしたら…。


「クチナシちゃん。一体なにがあったのかな~?その人たち悪い人?ねねね、悪い人?」

「この人たちは…」


何と説明すれば彼らを守れるだろうか…この小さな邪神から。


「どうしたの~?ねーねークチナシちゃん~」

「…」


「ん~?クチナシちゃんが話してくれない…アマリこっちおいで」

「うん」


アマリリスが私の腕を離れて屋敷の中に戻って行った。

考えないと…考えなければすべてが終わる。


やがてパタパタと小さな物音がしてリフィルの隣からひょっこりとアマリリスが顔を出す。


「さっき何してたの?アマリ」

「んとね…お昼寝から起きたらなんだか外がうるさかったから見に行ったらクチナシちゃんが戦ってて…それでねあのお姉さんが魔法を使って…クチナシちゃんが助けてくれたの~」


「そっかそっか~…ふ~んやっぱり悪い人だね~悪い人は~「めっ!」ってしないとダメだよね~」

「待ってくださいリフィル!この人たちは…私の友人です」


「ん~?クチナシちゃんのお友達?そうなんだ~」


リフィルの赤い瞳が爛々と輝いレミィを見据えた。


「リフィル待ってください!」

「はぁ…クチナシちゃんさ~何をしたいの~?」


「え…?」

「私がそういうのわかるって知ってるよね?ね?なんでそんな人たち庇うの?おかしいよね、おかしいよね?」


リフィルは他人の心が読める。

だけどおそらくリフィルが読んでいるのは私ではなくてザンたちのほうだとは思いますが…しかしそれでも全てを見透かしたようなその瞳は私の中の何かを締め付けるように感じられた。


「クチナシちゃんが~大切にしたい物ってなに?」

「私が大切にしたい物…?」


「うまく言えないけど~クチナシちゃんはちょっと考えすぎちゃってると思うな~」


考えすぎている?私が?何を…?


「その人クチナシちゃんの「友達」のお墓を壊しかけたんでしょう?おこらないの?今だって殺されかけてたんでしょ?それなのに抵抗しないの?アマリが怪我するところだったのに…なんにも思わないの?」

「そ、それは…」


「クチナシちゃんは~何が大事なの?」

「…」


「もういい?じゃあアマリに手を出そうとした人達はみ~んな死んじゃ…」


リフィルが言い切る前に私は空間移動を発動させてザンたちと一緒にその場を離れた。


─────────



無意識に移動してきたせいでたどり着いた場所はルティエの墓があるあの丘だった。

ここでは戦いたくない…私は本当にどうなっているのか、何がしたいのか…頭がぐちゃぐちゃで何もわかりません。


私はマスターの力を管理するために生み出された存在…故に情報処理という点において私に問題はあるはずがない。


なのに今の私は頭の中に渦巻く様々な物事に答えが出せない。

頭の中に靄がかかったようになっている。


ざりっと地面を踏みしめるような音がして私の視界の端でザンが立ち上がるのが見えた。


「お前…なんだ今の化け物は!?わかったぞ…あの屋敷はお前のような害悪をまき散らす化け物の住処なんだな!?くそっ!あの何でもなさそうな子供も俺たちの事を騙していたんだな…あの時きっちりとレミィの魔法が当たっていれば…!」


私はザンのその言葉がとても…悲しかった。


「やめてください…あの子はルティエの」

「その名前を気安く呼ぶな!」


ザンは私のいう事をやはり聞いてはくれなくて…それがまた私の中で次にするべきことを分からなくさせていく。


「ザン…本当にちょっと落ち着きましょう…?もうさっきから何が起こってるのかわからないわ…」

「なにも分かる必要なんてない!俺たちでただ嬢ちゃんの仇を取るってだけだ」


ザンは先ほどの出来事など忘れたかのように剣を構え私に向けてきた。


「ここで戦うのはやめていただけませんか。私の背後にはルティエの墓があるのですよ」

「それを盾にしようとしても無駄だ。むしろ嬢ちゃんの見てる前でお前を倒すことに意味がある」


「…」


何を言っても通じない。

考えすぎて頭が割れそうだ…だけど答えは出ない。

私はなにをするべきなのか。


「だれか教えてください…」

「何かお困りかね~?」


気が抜けたようでいて…それでいて透き通っていて不思議と安心できる声が聞こえた。

顔を上げるとそこに私を覗きこむようにして微笑んでいるマスターがいた。


「マスター?」


どうしてここに居るのか、しかしそれは間違うはずもない私のマスターその人だ。


「帰ったらちょうどクチナシと入れ違いになってね~リフィルが追ってあげてって言うからあわてて来たんだよ。というかリフィルすごくない?いつの間に知り合いがどこにいるか分かる魔法なんて使えるようになったんだろう?」


娘の成長がこわいわぁ~と笑うその姿に今まで場を支配していた重苦しい雰囲気が霧散してしまったかのように感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る