第67話人形少女は要求したい
「嫌だ~」
いろいろ考えた結果、めんどくさいので嫌だという結論が出たので素直にそう伝えた。
皇帝は表情を変えないままこちらをじっと見ているが、やがてしびれを切らしたのか口を開いた。
「理由を聞いても?」
「めんどくさいから」
「はははは!正直だなぁ。そうかめんどくさいか。そりゃそうだわな」
納得してくれたらしい。
案外物わかりのいい人で安心した。
「が、しかしこっちも必死なものでね。少し説得をさせてはくれないか?」
「え~…」
「まず第一に」
この野郎、私の「え~…」を聞き流しやがった。
「アレの討伐をするというのはお前にも利があるぞ?あれは魔族とも敵対しているからな。お前は魔界で世話になっているのだろう?」
「う~ん…なんで知ってるの?」
「お前が魔界にいることをか?消去法だな。あの陰険な悪魔神がそこの悪魔の娘のような存在を放っておくのもおかしな話だし、人間側にいるよりは魔族のほうで匿われてると考えたほうが自然だなと思っただけだ。龍神のババアにも会ったそうだが、あのババアは割と有名人だからな。人間の住処に現れたのならすぐに噂になるしな」
「ほぇ~」
しかしそうか…魔族とも敵対してるのか悪魔って。
でも確かにそうなると悪魔の神様倒してきたよ~ってなるとマオちゃんも喜んでくれるかもしれない。
それにアルギナさんの機嫌もとれるかも?おお?なんかちょっとやる気が出てきたような?
「お?もしかして少しやる気になってくれたか?」
「少しね」
「いいじゃないか。ではもう一押しかな?これはとっておきだぞ?もしも協力してくれるのならこの我に恩を売れるぞ?なにか望みがあるなら言うだけ言ってみていいぞ?」
皇帝のその言葉はなかなかに魅力的だった。
というか私からいくつかお願いしようとしていたところだったからこれにつけ込んでみてもいいかもしれない。
「お、いいの?じゃあ~…どこかにいい家ないかな?」
「家?」
「うん。実はメイラの事を魔界には置いておけないって偉い人が言っててさ~どこかにおちつける場所はないかなって探してるんだよね」
「なぜ魔族がその娘を拒む?経歴を知っているのならむしろ悪魔側の生態を知るいい機会にでもなりそうなものだが…それにいくら暴食の系統と言えども魔族には無害のはずだろう?もしや人間でもいるのか?」
「ん?それは…」
「リリさん、あんまり内情を話すのはやめたほうが…魔王様が困るかもですよ」
メイラが小声で耳打ちしてくれたのだがそれはまずい。
みんなの好感度を上げようと努力しているのに下がってしまったらだめだ。
なによりマオちゃんに嫌われでもしたら私は死んでしまう。
「まぁ気にしないで。とにかく家がほしいの」
「ふむ…まぁそれくらいならいいぞ?」
「陛下!!」
今度は皇帝側で後ろに控えていた人が声を上げた。
「なんだ?うるせぇなぁ」
「あれは人喰いの悪魔です!そのような者に住処を提供するなどありえません!」
あの人アルギナさんと同じようなこと言ってるなぁ…なんだってそんなにみんなメイラを目の敵にするかなぁ~こんなに可愛い女の子なのに。
「家くらいいいだろうに。それにその程度の代償で我が助かるのだぞ?安いものではないか。それともお前は我が眷属の身分で我に助かってほしくないと?」
「そんなことは…!」
「なら黙っとけ」
まったく相手にせず部下の人を追い払ったよあの人。
怖いなぁ…これが独裁者というものか…。
「じゃあお家の事はおっけー?」
「おっけーおっけー」
「じゃあ次ね。魔族との戦いをできれば止めてくれないかなぁ?」
「それは少し難しいな」
私としてはやっぱりマオちゃんが少しは楽になるかな?と思って軽い気持ちで提案したわけだが、言葉通り皇帝は少し難しそうな顔をした。
「正確に言うと我らは別に魔族と戦っているわけではないのだよ。向こうから寄ってくる魔族を迎撃しているだけだ。立地的にここを落とせれば…と考えているのかやけに襲ってくるからな。そちらが何もしないのならこっちも手を出さんよ」
「戦争してるんじゃないの?」
「少なくとも我は…というか帝国は積極的には参加していない。わかってくれたか?」
良くは分からないけれど今そこを詳しく聞いても仕方がない。こんどアルギナさんとかに聞いてみようかな?なんなら私の代わりに皇帝と話してほしい。
「おっけー、じゃあラスト~」
「まだあるのか」
「うん。「下」って呼ばれてるところを無くしてくれないかなぁ?」
「…ふむ、それはどういう事だ?無くせとは具体的にどうしろと?」
「なんていうのかなぁ…格差?とかそういうのを無くしてくれないかなぁと」
皇帝は何かを考えるように目を閉じてトントンと指でテーブルを叩いている。
そんなに難しい事を言っただろうか?
「正直に言うと…難しいな」
「そうなの?」
「…実は「下」と呼ばれる場所はな隔離所なのだよ。言ったな?我は悪魔憑きで悪魔神はそれを人間に認識させることができると…「下」にいるのは愚かなことにそれにやられた我を悪魔憑きと認識している者共がそこにいるのだよ」
「なんで?」
「我が何も知らぬ人間に悪魔憑きと認識される…それはこの呪いの浸食を進めさせてしまうからな。わざと劣悪な環境に追い込み、適当に死んでくれるようにしているのだよ。こっちから全員処刑などしたら外聞が悪いからな」
なるほど…そんな理由があったのか。
だけどさ?だけどだよ?
「それで?いいの?だめなの?」
「話を聞いていたか?」
「うん、聞いてたよ。だけどそれって私には関係ない話だよね?私はやってって言ってるの」
そう、さっきからなんだかいろいろ説明されているけれど、私には何も関係のない事ばかりだ。
私はただ頼みごとを聞いてほしいわけで…そこに関するあれやこれは何も聞いていない。
「…そうか、お前はそういうやつか。だがどうして「下」を無くしたいなどと言う?あの子供二人のせいか?お前は出会って何時間も経っていない子供になぜそこまでこだわる?今から出会う可哀想な子供すべてにそんな心をさくつもりなのか?」
「さぁ?そんなのわかんないよ。だけど私はあの二人の事でモヤモヤした気持ちになったから何とかしたいだけだよ」
「そこを少し考えてみてはどうだ?何事もまずは…」
「どうでもいいって言ってるんだよ?出来るのかできないのか聞いてるの」
「…無理だ」
「そっか。じゃあダメだね。メイラ帰るよ~」
私が席を立つと同時に皇帝からすごい量の力が放たれた。
まるで全てを焦がすような…突き刺すような光の暴力。
「こっちも必死だと言っているだろう?お前が言葉で説得できないのなら、もうこうするしかない」
「ふーん」
同じく立ち上がった皇帝の右腕には銀色の鎖が巻き付いた小さな剣の彫刻のようなものが握られている。
「古来より邪悪な魔物は人の勇者に倒されるものと相場が決まっている。そして我こそは人の最上、人間という種の到達点だ。物語の様に討伐されたくなければ我に協力したほうが身のためだぞ?」
「この世界が物語だとしたら私の物語の主人公は私だよ。きっと綺麗な世界と素敵な愛に溢れた優しいお話だから…死ぬのはあなた」
私の腕から黒い闇が溢れて世界を黒一色に覆っていく。
そして背後から大きな人形ちゃんとその腕が姿を現して準備完了。
「惟神 万象傀儡遊戯 君死ニの人形劇 【開幕】」
「はっ!どこが素敵な世界だ、我には地獄にしか見えぬよ。だがいいだろう。闇を晴らす正義の光を見せてやろうではないか」
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