第66話人形少女は答えを出す

「オシャレなタトゥーだね」

「タトゥーとやらがなんなのか知らんが、オシャレではないぞ」


しかし見た感じはもうなんというか…ものすっごい中学二年生感が強い見た目だ。

黒い痣、というか文字のようなものが半身を覆っていてなかなかにナイスなデザインとなっております。


「さっきの話じゃないんだが我は強いと言っても新たに産まれたばかりの時は弱体化もしてるわけで…そこを陰険な野郎に狙われてしまってな。お前たちは「悪魔神」というのを知っているか?」

「しらなーい」


聞いたことないけれど…名前から察するに悪魔の神様?


「ふむ、まあアレは龍神のババアより陰険なガキだから無理もないか。まぁそのまま悪魔の神だ」


ですよね!そこら辺は分かりやすいのは好印象だよ、うん。


「やつはなかなか特殊でな、本来「神」とは信仰してくれる眷属や願いを捧げる者が極端な話、一人しかいなくても成立するわけだ。そこには数は関係ない…だがアレは自らの眷属の数がそのまま力になるとかいう妙な能力持ちでなぁ…さらには他種族を自らの眷属にする力のおまけつきだ」

「ふーん?」


なんでその悪魔神とやらの話を聞かされてるのかはよくわからないけれど…それを語る皇帝の表情が悪魔神を本当に忌々しく思ってるんだろうなぁと思わせる。


「「悪魔憑き」…聞いたことあるだろう?」


私の背後でメイラが少しだけ身じろいだのを感じた。

皇帝もその鋭い視線をメイラに向けている。

悪魔憑き…なんか聞いた覚えはあるんだけどなんだったけかな…?あ、いや待てよ…そうかメイラか。

なんか初めて会った時にそんなふうに呼ばれていた気がする。


「それもやつの力でな。自らの眷属となる素質があるものを「悪魔憑き」という存在と周囲に認識させる…とでも言えばいいのか、とにかくそんな能力があるんだ」

「あの…では私が突然悪魔憑きと呼ばれだしたのはその悪魔神が原因という事ですか?」


今まで黙っていたメイラが口を開いた。

私的にはもう済んだことじゃん?って感じだけどやっぱり当事者としては気になるのだろうか?

まぁなるか。それで実際に悪魔になっちゃったんだからね。


「おそらく間違いないだろうな。そこの男に話を聞いたが、人が悪魔になるなどまずありえんからな…奴の仕業でもない限りな。そして我も今やその悪魔憑きだ」


トントンと皇帝が自分の黒い痣が広がっているほうの頬を指で叩いた。

それが悪魔憑きの証とでも言うのだろうか。


「ん?でもメイラの時ってそんな痣みたいなのなかったよね?」

「ええ、なかったはずです」

「そうだろうなぁ…この痣が出るのはもう末期だからな。悪魔化する直前だ。だからその娘も悪魔化の儀式を受けたその時は出ていたはずだ。つまり我は今半分悪魔になりかけてるってことだ。無理やり力で抑え込んでるのよ」


「へぇ~?やられちゃったの?」

「やられてしもうたのよ。さすがに我ほどになると奴本人…もしくはその眷属が直接接触でもしてこぬ限りはそう簡単には悪魔憑きなどにはされぬのだがな。赤子として生まれ変わった隙をついて当時の無能な臣下が出し抜かれてな…このありさまさ」


おやまぁ。それはそれは大変な事でしたね。


「当時って?今とは違うの?」

「ああ、その後子が作れる年齢まで待ってすぐさま子を作り転生したのだが…どうにもならなくてな。その時はさすがに腹立たしくて当時の臣下はほぼ全員血祭よ」


だははははははは!と綺麗な顔に似合わない豪快な笑いを披露してくれた。

というかさすがに物わかりの悪い私でもなんとなく見えてきた。


「つまりあなたが私に頼みたいことというのは」

「うむ、悪魔神を倒すのに手をかせという事だ。我が助かるにはそれしかないからな」


なるほどなぁ…。

正直に言うとめんどくさい。断りたい気分でいっぱいだ。

だけどメイラは一連の話をなんだかとっても気になっている様子で…もしメイラが自分に起こったことを知りたい、もしくはもっと直接的な…犯人に復讐したいということなら受けてあげたほうがいいのかもしれない。

でもなぜ私に?という疑問が残る。それにそもそも、


「別に悪魔になってもいいんじゃないの?」

「恐ろしい事を言うなお前。言っただろ、悪魔が増えれば奴の力が増す。ましてや神である我を眷属として取り込んだとなるとどれほどの力を得るのか想像も出来ぬ。それにだ」


「それに?」

「我は人間だ。たとえ神になろうとも我は人間なのだよ」


真面目な…とても真面目で力強い視線だった。

それだけ皇帝にとっては大事な事という事なのね。正直私は人間から人形になったからか種族が変わるくらいなんだという感じなのだが別に他人に価値観を押し付けるつもりはない。

人それぞれ大切なものがあるよね、うん。


「じゃあもう一ついい?なんで私に頼むの?」

「…まぁ我がこんな事情を抱えているからな。悪魔神及びそれの息のかかった組織…黒の使徒とか言ったか?それの動向はそれとなく追っていたのだがな…神都でそいつらを発見し…ありえない事が起こった」


「ありえない事?」

「そこの悪魔の娘だ」

「え、私…ですか?」


皇帝がメイラを指さし、メイラは少しびっくりした様子でたじろいだ。


「うむ。悪魔はその出自に関係なく生まれた時点でもれなく悪魔神の眷属だ…だがそこの娘は違う。なぜかそいつは奴の眷属にはならなかった」


続いて皇帝の指は私に向けられた。


「お前がどういうわけか悪魔神からその悪魔を奪ったんだ」

「んん?」


何を言われてるかはさっぱりだけれど…私がメイラを悪魔神から奪ったってこと…?ん~?


「よくわからないという顔をしているな?我もそれを報告された時はそんな顔をしたよ。だが現に悪魔神の眷属は増えていない。つまりお前は眷属の支配力という点で見れば奴よりも上…なのかもしれない」

「ほぇ~」


「まぁそんなこんなで我はお前の情報を収集するとともにそこの男に事の詳細を聞き、お前が神として覚醒しているかもしれないと思い立ち声をかけたわけだ。結果は大正解だったがな。さて、ではここまで話を聞いてどうだ?この哀れな人間様を助けてはくれないか?」


にっこりと笑う皇帝に私が返す返答は…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る