第68話皇帝は闇を裂く
――舞い降りた光は道を照らすため
一歩を踏み出したのは明日を掴むため
剣を握ったのは迷わないように
後ろを振り向かず たどり着いた場所は安寧の城
続くならば続け人々よ 我が足跡を踏みしめ 進めや進め
我が光の前に闇は散り 残るはこの覇道
古より語り継がれし英雄の物語を今ここに
「惟神」
皇帝の手に握られた小さな銀の剣が眩いばかりの光を発してリリの闇の世界を照らしていく。
しかし闇もどれだけ照らされようとその底知れぬ暗さを失うことは無く…光と闇は拮抗して交わっていく。
「万象決戦兵装
光は闇を振り払い、その輝きを収縮させて皇帝の手に光で作られた剣のようなものを形成した。
「へ~?そういうのもあるんだね」
「おや、他の惟神を見たことがあるのか?…いや、龍神のババアに会ったというのはもしかして戦ったのか?なるほどな、あのババアの惟神は分かりにくかっただろう?年寄りはそういうところがあるから困る。だがそれに比べて我の力は実にシンプルだぞ?」
「ほぇ~」
リリは皇帝も年齢で言えば似たようなものなのでは?と思わない事もなかったが自身も生きた年月で言えば人間に比べてそこそこな物なのでツッコむのをやめた。
「どうした?こないのか?」
「そっちが剣を向けてきたんだから、そっちから来るんじゃないのかなって」
「違いない。では行くぞ」
皇帝が踏み出した。
その瞬間、闇の中から数体の人形が姿を現し、皇帝に襲い掛かった。
「姑息なことをするものだ、だが我には無意味だ」
皇帝が光の剣を一閃する。
人形たちはそれだけで両断され、動きを止める。
だが闇の中から人形たちは次々と現れる。
「いくら数を増やしても届きはせぬぞ!」
いつの間にか皇帝の持つ剣は二本に増えており、両手の剣でまるで踊るような華麗な動きで人形たちを切り裂いていく。
「う~ん…おかしいなぁ。なんで一回斬られただけで動きが止まるのか」
あの人形たちに意志があるのかは分からないが、それでもたとえ手足をもがれてもあの人形たちは動きを止めるようなことは無いはずなのに、皇帝に斬られた人形は動きを止めてしまう。
「教えてやろうか?我の力を」
リリが少し考え込んでいる間に無数の人形は、無数の残骸へと変えられてしまい、その中心で皇帝は光の弓のようなものをリリに向けて構えていた。
「弓?」
「ああ、さぁどう防ぐ?」
皇帝の構えた弓から光の矢のようなものが射出され、リリに向かって一直線に飛んでくる。
背後の巨大な人形が瞬時に動き出し、矢からリリを守るようにその大きな手を盾にする。
あの矢自体にそこまでの力を感じなかったリリは、それで防げるだろうと思っていたが、それに反し矢は人形の腕をたやすく貫いた。
「――――!!!」
口の無い巨大な人形が声なき悲鳴をあげる。
何の抵抗もなく貫かれたその手は、光に飲まれるように分解されていき、ついには腕そのものを破壊してしまった。
破損部からはとどめなく赤と青の液体が血のように流れ、その腕を徐々に再生していく。
「…ひゃぁ~怖い。なんなの今の矢」
「こっちも実は少し驚いているぞ。まさか今の一撃を受けて完全に滅ぼせないとは…いやそれどころか再生もしているな?なかなかに厄介な惟神だ」
皇帝が話している間にリリは行動に出ていた。
腕から刃を形成して目にも止まらないスピードで皇帝に肉薄し刃を振るった。
「ふっ!」
「…っ」
首にむけて横なぎに振るわれた刃を皇帝は身をかがめてかわす。
「そんなものが我に当たると思うのか?」
そのままいつの間にか弓から剣に姿を変えていた光を下から振りぬき、リリの腕はまるで硬さを感じさせないような抵抗の無さで切り裂かれた。
「いっっったい!!!!」
リリは残った腕で刃を振るうが皇帝は全ての斬撃をひらりと最小限の動きで避けていく。
「お前たち人外の者はいつだってそうだ。人間では到底及ばない身体能力、特殊な能力…そんなものを力の限り振り落とし人間を弱者として蹂躙する。だがそこがお前たちの弱点だ」
皇帝の光の剣がもう片方のリリの腕を切り落とした。
「お前たちに対抗するため人間が積み重ねてきた戦うための技、知識、経験。その全てを次の世代に受け継いで人は力をつけていく。それが命を積み重ねていく人間と、個で完結しているお前たちの差だ。そして我こそはその人の力の終着点。お前に我が負ける道理はない」
光の剣がリリの首をとらえた。
だがその時、上空から巨大な拳が皇帝に落ちてきて両者はその衝撃で距離をとった。
「もう再生したのか」
リリの背後の巨大な人形の腕は完全にその姿を取り戻しており…また、人形からこぼれ出る二色の液体がリリの失われた腕を再生させる。
「うへぇ…思ったより強かった…」
「だろ?だがお前も大したもんだ。言っておくが私は現存する神の中では戦闘力という点においては最強だぞ?あの龍神のババアも我と真正面から打ち合えば逃げ出すしかないだろうからな」
皇帝は光の剣の切っ先をリリに向け、不敵に笑った。
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