第320話 人形少女は殴りたい

「と、まぁこんなわけで~☆」


神様と龍の戦いを語り終えたクララちゃんが何故かピースとウインクををこちらに向けてきた。

不思議な物で、瞼が閉じると共に金色の星のようなものが散らばって見える。


…これがアイドルか…。


キラキラと小さな星はゆっくり流れてきて…私の額にぶつかってコロンと落ちた。

いや、実際にでとるやないかい。


「リリちゃん、リリちゃん」

「ん?」


リフィルが私の腕をつつくと、クララちゃんの星を一つ掴み上げてアマリリスの口の中に突っ込んだ。


「おいひ~」

「食べられるんだよこれ」

「そうなんだ…」


ポリポリと小気味のいい音をさせながらアマリリスが小動物のように口を動かして星を食べる。

音からしてクッキーとかなのだろうか?


興味本位で自分の元に落ちた星を摘まんで一口かじる。


うーん、美味しい。

美味しいけどこれ…醤油味のおせんべいだ…。


「話は分かりましたがクララ・ソラン。あなたはどうやって生き延びたのですか?」


私が見た目と味のギャップに思考が停止していた間に、クチナシが話を進めてくれた。


そう、それ。

それを聞きたかった。

今の話からすると身体を貸していた?クララちゃんも死んじゃったのでは?という疑問がある。


「え~?☆ほらぁ~クララって~きゃわたんなアイドルだからぁ~☆」

「だから?」


「だから~クララ~世界一か~わ~い~ぃ~☆みたいなところあるからぁ☆」

「あるから?」


「生き残ったのっ☆」


クララちゃん渾身の下ペロダブルピースがクチナシに炸裂した。


私は一瞬だけ全てを投げうって、動かなくなるまでぶん殴りたくなったが娘たちがいたので自重する。


ねぇ実際のところは良く知らないんだけど、本当にクララちゃん人気なの?この世界で受けてるの?この子。


「…なるほど」


クチナシが絞り出すような何とも言えない声でそれだけを言った。

まさかくっちゃんが流された…?さっきまで私と魔法の創作をしていたから疲れていたのかもしれない。

うん、きっとそう。


「クララちゃんか~わ~い~ぃ~」

「か~わ~い~ぃ~」


何故かクララちゃんが大好きな娘たちに怪電波が浸食してきていた。


やめるんだ娘たちよ。

それを突き詰めた先にあるのは死である。


いやでもしかし、アマリリスはともかくとして、あんまりこういう事に意外と興味を持たないリフィルがこれだけ楽しそうにしているのは珍しく、無下にやめろとは言えないのだ。


「あーうん、じゃあとりあえず、それはそれとして、コウちゃんに何か用だったの?ここまで来た理由は?」

「んー…まぁ一応何かの縁という事で~原初の神様はしばらく出てこないかも☆って事を伝えとこうかなって」


「そうなの?」

「うん~見た目はほぼダメージを受けてなかったけど…なんとなく数か月は回復に時間を使いそうな感じだったぁ~☆あとそれと~私が…というか大祖母様が体験した原初の神様の~情報を~」


お、情報なかなか有用な気がする。

話に聞くだけで完全には理解できないから、紙にでもまとめてくれていたら…。


「新曲に落とし込んできたから歌うね!☆」


本当にぶち殺してやろうかこの女。


「普通に口頭か、紙にでもお願いします」

「え~つまんないの~☆とにかくそれが一つ~、あの元皇帝ちゃんなら有用に使ってくれるかなって~☆」

「わかりました。フォス様には後日、私のほうから伝えておきますね」


「ありがと~☆それと~私は一抜けね☆!」


一抜け?なんだそれ?

何のことかわからなくて首を傾げていると、クララちゃんが一瞬だけ真面目な顔になったのが見えた。

もっとも一瞬でアイドルスマイルに戻ってしまったが。


「神様との戦いから一抜け☆元々は大祖母様の宿願を果たすのが目的だったわけだしぃ~クララアイドルだからぁ~危ないことしてたら奴隷…ファンのみんなが悲しんじゃう☆」

「…クララ・ソラン。それは私との、」


何かを言おうとしたクチナシを止める。

この二人の間には何かあったみたいだけど、戦いたくない人に無理に戦いに参加してもらう必要もないでしょう。


…というかクララちゃんのことなんて頭数に入ってなかったし…。


いつの間に神様と戦ってたの?という感じだ。

それに話を聞く限りはクララちゃん自身も命を懸けてたみたいだしね。


「ちなみにこれからどうするの?」

「ん?勿論アイドルとして世界中にクララの歌声を届けるよ☆ほらぁクララの歌を聞けないなんて人生損してるも同じじゃん?☆だいたい生きる価値なんてクララの歌を聞くかどうかみたいなところあるじゃん?☆」


無い。

断じて無い。


と私は思うけれど、世の中にはもしかしたらクララちゃんを求めている人もいるのかもしれない。

それならまぁいい事なんじゃないかな?とは思った。


「じゃあそういう事で☆クチナシちゃんもご主人様が言ってるなら問題ないでしょうぉ☆」

「…まぁ」


そして数日後。

残念がる娘をなんとか宥めつつ、怪我が治ったクララちゃんを見送った。


あの子が屋敷にいる間はずっと電波ソングが流れていたから大変だった…。


それから逃れるために自らの世界に閉じこもっていたおかげでなんと例の魔法が完成してしまったのは複雑な気持ちだ。

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