第116話 人形少女は怒られる
「んなあああああああああ!!!」
「うるさいぞ、落ち着け」
帝国の一室…今まさにマオちゃんが処置を受けている部屋の前で私はこらえきれなくなって叫び声をあげてしまったところコウちゃんから怒られてしまった。
「だってだって!!」
「焦っても仕方ないだろうが…それに叫びたいのは我のほうだ。なんでこんなことに…」
事の始まりはクチナシを皆に紹介した後の事だった。
マオちゃんのお腹の状況からそろそろ産まれるのではないかという話をしていたところ、ふとメイラが放った疑問が全ての始まりだった。
「そういえば私はあんまり魔王城の中はわからないのですが、もう出産の準備は出来てるのですか?」
「どうなんだろう?」
「え?」
「え?」
不思議な間が私たちの間に流れ、メイラが笑顔を私に向ける。
「知らないのですか?」
「うん」
「リリさん」
「はい」
なんだろう?メイラから今までにない圧を感じる…表情は笑顔なのにちっとも笑っていないような気がする。
「リリさんは大雑把なところがあるのは知っていますがそれではダメな事もあります。魔王様がこんなに頑張っているのに支え合っていかないといけないあなたが知らないでいいはずないのわかりませんか?今ここで魔王様が産気づいたらどうするつもりです?」
「ごもっともです…はい」
「わかったならさっさと確認をとってきてください!もうすぐで産まれそうなことも含めて伝えてから準備もしてもらわないといけないのですから!!」
「いえっさーーー!!」
言われるがままに部屋を出ていこうとしたところでマオちゃんに服を摘ままれて動きを止めた。
「二人ともさっきから何の話をしてるの」
「え?だからマオちゃんの出産の準備をしてもらいに…」
「準備って?」
「そりゃその…詳しくは知らないけれどいろいろあるんじゃ?」
「?」
「?」
今度はマオちゃんとの間に何とも言えない空気が流れた。
しかし先ほどのメイラとは違い、何というか…話がかみ合っていないようなそんな感じだ。
そして私は…いやメイラも含めて私たちはとんでもない話を聞くことになった。
何と魔族は出産の際に特に何もしないそうなのだ!!
話をすり合わせると元々強靭な肉体を持つ魔族は人間の様に管理して出産という事はせずに、適当に過ごし適当に産むというのだ。
現にそれで特に問題が起こらないというのだからすごい話だ。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!そんな馬鹿な話は無いよ!?」
「その通りです魔王様!道理でなんかトップが身ごもっているのにあんまりお城がざわついたりしてないなとは思っていたのですがまさかそんな事があったなんて!?ありえません!!」
私とメイラはぎゃーぎゃーと二人で大騒ぎ。
もう時間もないしどうする!?どうする!?と二人でパニックになっていた。
「大丈夫だよ…何とかなるなる」
「ダメだって!マオちゃんそんなに辛そうなのに何かあったら大変でしょう!?メイラ何とかできないの!?」
「さすがに赤ちゃんを扱った経験はないのでどうにも…!?」
再び騒ぎ出す私たち二人。
そんな中、やけに冷静で平坦な声が聞こえてきた。
「マスター。私に考えがあります」
「なんと!?」
声を上げたのはまさかのクチナシだった。
基本的に黒いドレスを着ている私とは対照的な白いドレスを着ているので見た目も相まって私の2Pカラーみたいになっていると私の中で話題のクチナシさんです。
「本当ですかクチナシさん!?」
「肯定しますメイラ」
「じゃあお願い!助けてクチナシ!」
「はい。では早速行動を開始します」
パンっとクチナシが両手を合わせると部屋全体が闇に包まれ、一瞬で晴れたあとに私たちがいた場所は魔王城の一室から帝国の一室に変わっていた。
「…」
「…」
まぁそれはいい…それはいいんだけどね…。
この目の前に飛び込んできた亀甲縛りをされたアーちゃんとそれを踏みつけているコウちゃんという光景を前にしてどういう反応をするのが正解なのか教えて欲しい。
とりあえず場所を移していつもコウちゃんがお茶を飲んでいる部屋に通されて事情を説明。
クチナシ曰く「皇帝に頼めば良いのです」との事だったのでそれを採用することにした。
以前もお腹の子のことで頼ったのもあるので確かにコウちゃんなら安心だ。
「いやいやふざけるなよお前たち。最近我の事を便利屋扱いしていないか?これでもそこそこ忙しいのだぞ?何度言ってもこの女が我の部下を誘惑するから躾をしないといかんのだ。なぁおい」
コウちゃんが手に持った鎖を力いっぱい引っ張る。
「きゃっ!いっぱい躾てくださいませフォスさまぁ」
地面を引きずられるようにして転がされているのにやけに楽しそうなアーちゃん。
私が知らない間に友達二人は遠い所へ行ってしまったらしい。
というかアーちゃんの足がない!?一応車椅子のようなものがあるけどそれには乗らず地べたでコウちゃんの足にすがり付くようにして座っている。
いったい二人に何があったのか…いやそれどころじゃない!
「そんなこと言わずに助けてよコウちゃん!もうコウちゃんしかいないの!」
「確かにウチには我の特性上それ専門の人員がいるし我自身にも心得はあるが…魔族のお産なぞ経験無いぞ」
「コウちゃんならできる!」
「それは信頼しているのか丸投げしているのかどっちだ…とにかく気軽に受けるわけには…おい、どうした?」
話している途中でコウちゃんが私の後ろに向かって心配そうな声をかけた。
そこにはマオちゃんがいて…お腹を押さえてうずくまっていた。
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