第227話 悪魔ヒーローは友を助けたい
――僕の名前はヒート・ダークハート。
自分でつけた僕自身のソウルネームだ。
悪魔としてこの世界に生を受けて十数年、いろいろあってなかなか波乱万丈の人生を送ってきたがそれなりに楽しくやっている。
特に最近は母上…悪魔神様からの許可もあり自由にやりたいことをやって人助けの旅に出てその道中で友にも出会った。
まずはレイ。
ある時、魔物に襲われているところを保護したのだけど出会った当初はかなり精神的に追い詰められていたようでなかなか会話すらしてくれなかった。
最初は孤児院に預けようとしたのだが…根気強く会話を試みている間に打ち解けて、さらには回復の魔法が得意だということで旅に同行してもらうことになった。
その独特の喋り方や考え方から奇異の目で見られることもあるが僕自身まともではないことを自覚しているので問題はない。
一つ気がかりと言えばレイとはすでに5年ほどの付き合いになるが今だに性別が分からないということだ。
少年にも見えるし少女にも見える…不思議な子だ。
そしてもう一人の友…レクト。
彼とは突然発生した大型の魔物に襲われていた商人たちを助けていた折にたまたま出会った。
その時から何か不快な…波動のようなもの?を感じていたのだがまさかその場にいた無辜の人たちを思考誘導して洗脳しだすとは思わなくてかなり驚いた。
だが話を聞く限りどうやら意図したものではないそうで…本人は気づいていないがそれが行きついて今までの仲間にも見放されてしまったらしい。
ならばここで手を差し伸べるのは僕の務めだ。
今まで誰にも感知されなかったらしい奇妙な力を僕が感知できたというのもあるし、見捨てるという選択肢はない。
それが僕という悪魔なのだから。
しかしその特異性とは裏腹に付き合ってみるとレクト本人はなかなかに好感の持てる人物だった。
数年は三人で旅をしてたくさんの経験を共した。
世間を騒がせている魔物を丸三日かけて討伐した。
病に苦しむ娘を持った父親のために秘境と呼ばれる場所に珍しい薬草を取りにも行った。
たまたま見つけた高級食材をその場で丸焼きにして食べてみると割と普通だな?と笑い合ったりもした。
レクトの謎の能力を取り除くという目的を忘れたわけじゃないがこの三人ならもっと大きなことができるんじゃないか、もっとたくさんの人助けができるんじゃないかと胸を躍らせていた。
そう…僕は楽しかったんだ。
だから立ち寄った王国で大量惨殺事件が起こった時、リリと名乗る人形に出会った時の彼の反応が僕にはショックだった。
確かに悪魔だという事を伝えていなかったのは僕だ。
でもあそこまでレクトにこれまでの全てを否定されたのが何より悲しかった。
あの時の彼は普段の彼と同一人物にはとても見えなくて…おそらくそれも何らかの影響だと思われた。
故に絶対に彼から気持ちの悪い何かを取り除こうと決心した。
現状の手がかりはリリと名乗った人形の魔物と…彼女が言った僕の母上だ。
しかしどこに行ってしまったのか分からない。
何も始まっていないが正直手詰まりだ。
現在は王国で出会った善意の協力者マナギス女史の家を間借りして羽を休めている。
レクトはあれ以来不安定さに拍車がかかってしまい、レイが魔法で眠らせている状態だ。
これからどうするべきかと頭を悩ませていると背後から声をかけられた。
「戻りました~」
「はぁ…疲れたぜぃ」
「おかえり二人とも」
いつの間にか部屋に入ってきていたのはフリメラにアグスという二人組だ。
どうやらレクトの昔の仲間らしく、なんやかんやで心配して行方を捜していたらしい。
「何か収穫はあったかい?」
「すみません、全て空振りでした」
「こっちもだぜぃ…」
二人には全ての事情を話し、協力をしてもらっている。
レクトに関すること…リリという人形について、そして我が母上。
何か少しでも情報がないかと調べてもらったがどうやら成果は得られなかったようだ。
「圧倒的に情報不足だ。これじゃあ手が出せない」
「そうですね…」
「うむ…ところで今レクトの奴はどうしてるんだ?」
「レイとマナギス女史が色々とやってくれている。僕たちが心配することは何もないね」
「そりゃよかった」
何もよくはない、事態は何も進展していないのだから。
同じ場所でずっと足踏みだ。
…思考が少し僕らしくない方向に向かっている。少し頭を冷やそう。
「ちょっと外に出て風に当たってくるよ」
「ごゆっくり」
お気に入りの真っ赤なマフラーを巻いて外に出る。
肌を斬りつけるような冷たい風が駆け抜けて閑散とした街を通り過ぎていく。
この国ももう少しで戦争という強大な嵐に飲み込まれてしまう。
「難しい物だね色々と」
僕は人助けがしたい、だけど人は何故か自ら争いを起こす。
それは僕にはどうすることもできない。
「はぁ…」
ついつい漏れ出たため息が白くなって風に流れていく。
なんとなくそうやって佇んでいるとカラカラと硬い物が転がるような音と共に強大な気配がすぐ近くにいきなり現れた。
「ようやく見つけたぞ。こいつで間違いないのか?」
「はいフォス様。この子で間違いないです」
隣から聞こえた声は懐かしくそして僕がずっと待ち望んでいた人の物で…。
慌てて振り向くと車椅子の女性がそこにいた。
いや正確には車椅子の女性と小さな女の子だ。
小さな女の子が車いすの女性の大きすぎる胸に埋まるようにしてふんぞり返っている。
そして車椅子の女性は間違いなく…僕の母上だった。
「母う…悪魔神様…?」
「お久しぶりですね「怠惰」。元気でしたか?それと好きな呼び方でいいですよ」
「母上!!」
僕はたまらず母上の元へと駆け出した。
もう少しで手が触れるというその時、小さな足が僕の顔面にめり込んだ。
「な、なにを!?」
「うるせぇ、時間がないんだ。とっとと話を進めるぞ」
やけに偉そうな態度で小さな少女が吐き捨てるようにそう言った。
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