第342話 人形少女は困る

「五体かぁ~」


コウちゃんから人形兵が出たとの報告があった。

本当に待機してていいのかな?と不安になってたところだったので、早々に出番が回って来たみたいでよかったよかった。

と言いたいところだけど一つ問題がある。


「なんだ?もうぼさっとしてる暇は無いぞ、我もすぐに出る」

「いや…ちょっと数が…」


「数?五体は相手できないのか?」


相手ができないというかなんというか…。

まぁ確かにここでうーんうーん言っていても時間の無駄だから白状してしまおう。


「そうだねぇ五体は無理かな」

「なに?」


コウちゃんの目がスッと細まって私に刺すような視線を向けてくる。


「あのね人形兵を倒すとなるとカオスブレイカーを使うことになるんだけどさ?あれって人形兵を一体倒すのにだいたい二、三割くらいの魔力を使うんだよねぇ。つまり五体は私の魔力的に厳しいかもしれないかな?って」

「なるほど…それに関してはお前の責任とは言えんか…」


そう、もうこれは仕方ない事なので怒らないでほしい。

怒られても無理なものは無理なのだ。


でも私だって今がどれだけ切羽詰まった状況なのかは分かっているつもりなので一応一つの解決案を提示しておくことにする。


「あのね、もう一つカオススフィアって魔法があるんだけど、そっちなら多分まとめて倒せると思うよ?ただ…」

「…うちに被害が出るか」


「うん。間違いなくここら一帯吹っ飛ぶね」

「…」


私が惟神を使うという手もあるけれど、あれは私を中心とした指定範囲をまるまる飲み込むので、その中でカオススフィアを撃つとなると…人的被害もそこそこ出る。

コウちゃんがそれでもいいというのならやってもいいけどさ。


「どうする?」

「却下だ。最悪はお前の案を採用するしかないだろうが…それでも被害を出さねぇために戦ってんのに、そんなバカでかい負債をほいそれと飲み込めるか」


「だよねぇ…じゃあどうしようか?」


私から出せる案はもうない。

これ以上となるとコウちゃんたちに頑張ってもらうしかなく…でも考える時間もないというジレンマ。

おのれマナギスさんめ…まさか狙ったわけじゃないだろうけどよくもまぁ絶妙に嫌な数を持ち込んでくるものだ。


「リリさん、そのカオスブレイカーという魔法はあの人形兵を貫くことは出来るのですか?」

「ん?」


コウちゃんの隣で話を聞いていたアーちゃんがそんな事を聞いて来た。

貫くってなんだ?


「いえ、例えばですが直線状にあの人形兵を誘導できれば一体を貫いてその後ろの個体も…と考えたのですが」

「なるほど!」


それは天才の発想だよアーちゃん!

カオスブレイカーは一点に魔力を込めてる魔法だからやろうと思えば確かに複数体を貫けるはずだ。


「そうか。リリ、その魔法の限界は何体だ?3体以上貫けるか?」

「やってみない事には…でもとりあえず私が余裕をもってカオスブレイカーを撃てるのは3回だね。4回目以降は割と賭けみたいなところあるかも。あと一回でもカオスブレイカーを使うのならカオススフィアは使えないからね?」


使えないというのは人形兵を殲滅できる威力が出せないという事で、魔法自体が使えるわけではないけれど、この場ではもう同じ意味でしょう。


光明が見えたといっても人形兵を直線状に誘導するというのはなかなか難しいと思うし…どうするかの判断はコウちゃんに任せようと思う。


コウちゃんは数秒の間目を閉じると「ふぅ~」と息を吐きだしながら目を開いた。

どうやら決まったようだ。


「我と騎士達で人形兵を誘導する。リリお前は人形兵が二体以上直線で重なったらお前の判断で魔法を撃て」

「りょうかい~。誘導も手伝う?」


「いや、お前は見晴らしのいいところにいろ。お前自身が誘導に夢中になって他の所を見逃したら元も子もない」

「はーい。あとの敵はどうする?ローブの」


「そこは一般兵と…」

「私が引き受けるよ」


コウちゃんの言葉を遮るようにマオちゃんが手を上げた。


「マオちゃん大丈夫なの?怪我なんてしたらやだよ?」

「大丈夫だよ。それに何もしなかったらここまでついてきた意味がないしね」


うーん…不安だけど仕方がないか。

いざとなったら私が間に入ればいい。

コウちゃんには悪いけれど、マオちゃんの身の安全は何物にも代えられない。


「そうか、ならばそちらは魔王に頼んだ。よし行くぞ」


バサッとコウちゃんが羽織った白いマントを翻してアーちゃんと共に外に向かって行った。

機能性も何もあったもんじゃないけど、ああいうのってかっこいいよね。


偉いって感じがする。

人を率いるにはああいう見た目の演出も大事なんだろうなぁ。


「じゃあリリ。私も行くね」

「うん、気を付けてね」


私たちは自然に軽い口づけを交わす。

唇が離れると照れたような顔をして笑うマオちゃんがすごく可愛い。


おそらく私の顔も赤くなってると思うからいろいろと照れ臭い。

マオちゃんと結ばれてずいぶん経つ上に6歳になる娘が二人もいるのにこの初々しさですよ。

すごない?


いや、日常に溶け込んでいる部分も勿論あるのよ?朝起きたらなんとなく「ちゅっ」ってしたりするし。

その時は恥ずかしいとかはないのに、こういう時はちょっと照れてしまう。


実に不思議な現象だ。


「よし、私も行こう」


名残惜しくもマオちゃんと別れて私は見晴らしがいい場所…つまりはこの国で一番高い建物であるこのコウちゃんのお城の屋根の上に登る。


帝国を一望できるこの場所で目を凝らしてみると確かに見える人形兵…いや、あれなんか前見た時より一回り大きくない?もしかしてパワーアップしてる…?


ヤバいかもしれない。

もしかすればカオスブレイカーに使う魔力量を増やさないといけない可能性があるかも?むむむ…試しにここから一発撃ってみる?


皆には内緒にしているけれど実は魔力を補給する手段はある。

あまり使いたくない手というか…使うことに問題がある手段なので出来ればやりたくないけれど私とクチナシの見立てが間違っていなければおそらくその手を切ることになる。


ならばここで試し打ちをしておいてもいいかもしれない。

正直な話、コウちゃんとアーちゃんに帝国の騎士達では人形兵5体を相手にするのはかなり厳しいと思う。

どうせ持ち弾三発で直線を撃ち抜く作戦なら2:3も2:2:1も同じだ。


「よし!じゃあ景気づけに一発いきますか!地水火風に光と闇!全部ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて一つに!景気づけのオリジナル魔法!」


狙いは適当に今私が向いている方向にいる奴!さぁ黙してくらえ!爆散しろ!


「カオスブレイカーァアアアアアアアアアア!!!!」


私の手から放たれた混沌色のビームが数キロ離れた人形兵にぶち当たった。

あ、だめだやっぱり前よりちょっと硬い。

手ごたえが激しく微妙だ。

でもここでめげる私ではない!一度やってしまったならば最後まで突っ切るのが私の流儀だ!


「消しとべぇえええええええええ!!」


魔力をちょっとずつ調整していき、カオスブレイカーの出力を上げていく。

すると明らかな手ごたえが伝わってくるのでそのまま勢いで押し流す!

するとあら不思議、巨大で気持ち悪い形をした人形さんの頭が吹き飛び、胴体に大きな穴が開いてスッキリしましたとさ。


「こんの…馬鹿野郎がぁああああああああああああああああ!!!!」


なんか遠くからコウちゃんの叫び声のようなものが聞こえた気がするけどまぁ気のせいでしょう。

それか私の働きに感銘を受けて気合を入れたのかもしれない。

さぁみんな頑張ろう!協力して悪い魔女を倒すんだ!

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