第196話 魔王少女は激怒する
<アルギナside>
二人の魔王によって繰り広げられる戦いを感情の読めない瞳でアルギナは見つめていた。
「ほぇ~すごいねぇ~☆あのよわよわだった魔王ちゃんが押され気味とはいえあんなに戦えるようになってるなんて~クララ衝撃☆」
「…そうだな。どこから持ってきた力を使っているのかは知らんが、それを抜きにしてアルソフィア自身が相当に無理な努力をしているようだな」
「ふふふっ!女狐ちゃんわぁ~そんな可愛い可愛い魔王ちゃんに遂に力を渡す気になったんだねぇ~☆その親心にクララ感動しちゃった~☆」
「…」
「なぁ~んて…もちろんそんなつもりじゃないのは分かってるよ?いったいどういう風の吹き回しなの?急に先代の魔王ちゃんをあなたが倒した時にクララが施してあげた封印が解けたからびっくりしちゃったよ☆そもそも女狐ちゃん…」
クララはそこで一度言葉を切るとアルギナの耳元に顔を近づけ、誰にも聞き取れないような小さな声で続きの言葉を投げかける。
「ワシが生きてるとよくわかったな?」
「ああ…「私」のところにいるアレは中身が入っていないことはとっくにわかっていた。安心しろ、本体のほうは気づいてない…というか興味がないようだからな」
一瞬だけ表情を変えていたクララが元のアイドルスマイルに戻ると同時に顔を離し、アルギナの隣に足を抱えて座り込んだ。
「え~ショックぅ~☆結構頑張って正体隠す努力してるんだけどなぁ~☆」
「方向性を間違えている気もするがな…ところでどうやって生き延びたんだ?クラムソラード」
クラムソラード、その本来の彼女の名前を呼ばれたクララは頬をわざとらしく膨らませ怒っているような表情を作る。
「クララだよ~☆あの時、あなたの計画が失敗した時に白いガラクタ…クチナシちゃんがね、私のところに来たときには女狐ちゃんの本体が見てる事に気づいたらしくてね~☆それらしい事言いながらこっそりと逃がしてくれたの~。まぁ同胞の龍たちの身体は本当に殺されちゃったけどね~魂だけ預かってる状態なの~☆私もクチナシちゃんとの決め事でこうして正体がばれないようにしてるってわけ~☆」
「そうか、悪かったな。巻き込んでしまって」
「ほんとうにどうしたの?なんだか気持ち悪ぃよぉ~☆」
「私にも思うところがあるだけだ。なぜ今こんなことをしているのかと聞いたな?簡単な話だ。私が求めている物と…本体が求めている物は似ているようで違う、それだけだ」
「ふーん…まぁこっちもこっちで本体さんはあの時、龍を全滅させるつもりだったみたいだからバレると本当にまずいの~告げ口なんかしたらダメだぞ☆」
「ああ…」
アルギナの視線の先で先代の魔王が紅い涙を流していた。
────────
≪魔王side≫
突然真っ赤な涙を流しながら動きを止めてしまった先代の魔王の姿に私もつい動きを止めてしまった。
それが致命的な隙であることは一目瞭然なのに、先代魔王は動かず私を見ているだけだった。
「一人…さみしいねぇ…あなたひとりになる…私?わたし独り…さみしぃなぁ…いたいなぁ…これは、夢、じゃない…ねぇ…わたたたたたた…し、ひとりぼっちちち…あ、あ、ああああ、うわぁあああああああああああああ!!!!」
先代の魔王はその場に座り込み、まるで幼い子供のように頭を振り回しながら泣き叫びだした。
「いやだいやだいやだいやだぁ…!わた、私、独り、なんで一人…こわい…さむい…夢じゃない、なんで…うぅぅぅぅうううう!!!」
地面にこぼれた赤い涙が白い地面を染め上げていく。
不気味で異常なこうけいだけどそれは…なぜか私の心を痛いくらいに締め上げる。
「アルギナ」
私は視線は動かさずに、少し離れたところでこちらを見ているアルギナに声をかけた。
いつの間にか私は拳を握りしめていたようで手のひらに爪が刺さってピリッとした痛みが走る。
「なんだ」
まるで他人事のようなアルギナの声色にイラつきを覚えつつも表面上だけは冷静であろうと努めさらにこぶしを握り締めた。
「…この人に何をしたの」
「…」
「黙らないでよ。あなたは!この人に何をしたの!」
最期の時にはすでに正気を失っていたという事をアルギナは言っていた。
確かにそうだ、この人は正気だとは思えない。
だけど…何もないのにこんなに痛々しくなるはずがない。
「何もしていない」
「嘘!あなたは…!」
「アルメティアには特別な事は何もしなかった。普通に魔王として育て、力を与え、そしてその勤めを果たさせた。それに心が耐えられなかったんだ。その子は魔王としてかなり適応力が高かったがただ単純に心が弱かった…それだけだ」
「ふざけないでよ…」
魔王とは何か、魔王の存在する意味、その役目。
その全てを知った今なら彼女がどれだけ苦しかったかなんて想像するまでもなく分かる。
私もこの力を得たときにそれを知って…本当は逃げ出したかった。
だけど私は今こうしてここに踏みとどまっている。
それはひとえに私には大切な家族がいたから…壊れてしまいそうな心をつなぎとめてくれる大切なパートナーと子供たちがいてくれたからに他ならない。
でも私の目の前で子供のように泣く彼女はしきりに一人は嫌だと言っている。
つまり彼女には誰もいなかったのだ…壊れてしまいそうなときに支えてくれる誰かが。
魔王だというのなら彼女だってアルギナに育てられたはず…なのにアルギナは…。
「あなたは彼女に寄り添わなかったの!?それで何もしなかったなんてどの口で言ってるの!」
「返す言葉もないな」
反論も釈明もしない。
ただへ依然とアルギナはそれを受け入れた。
「そういうところが…ずっと嫌いだったのよ…!」
「あぁ、さすがに理解してきたよ。だがアルソフィア、あまり私に気を取られていると大変な事になるぞ」
「何を…!」
ガッと手首を掴まれた。
可愛そうなくらいに細いその腕はもちろん先代魔王の物で、涙でぐちゃぐちゃになった瞳が私を見据えていた。
「あなたも…一人に…なる…私と…いいいいい、いいっしょ…」
瞬間、真っ赤な何かが私を覆い尽くした。
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