第348話 限界
西側から救援要請を受けたフォスが人形兵の元にたどり着くと、報告とは正反対な状況を目の当たりにすることになった。
騎士達はもちろん民兵たちも活気にあふれており、ローブの集団を圧倒していた。
被害が甚大で死傷者も多数と聞いていたが…。
確かに街事態の被害は目も当てられないほどで、どこに何の建物が立っていたのかすら判別できないほどに崩壊してしまっおり、それだけでどれほどの金銭的、資源的被害があるのか考えたくもないほどだ。
だがそれとは逆に人的被害はほとんどないように見えた。
フォスの感覚的な話にはなるが、この場所に配置した騎士と民兵の数と現在戦っている者たちの数はほとんど同じように感じられたのだ。
そしてその理由は考えるまでもなく分かった。
「間に合ったのか、あのガキ共」
「みたいですね。流石はフォス様が鍛え上げた子たちです、素晴らしい戦いようじゃないですか。なにやら変な歌も聞こえますが…」
「ああ…なんだあの頭のおかしい恰好をした女は。いや、前に見たな?…確か前にチラッと見た時は一瞬龍神のババアの気配がしたんだが…」
「あの歌ってる子がですか?さすがにそれはないのではないかと…」
1名知らないものが混じってはいるものの、フォスは宣戦布告を受けてから秘密裏に旅に出ていた勇者たちに連絡を取り、助っ人として戦力に組み込んでいた。
レクト達の現在地的には余裕で間に合うと思っていたが、なにやら問題に巻き込まれていたらしく到着がかなり遅れてしまったが、今ここでちゃんと仕事をしてくれているからとフォスは追及はしない方針で行くことにした。
なお問題というのはレクト、ヒート、レイでの旅の途中で突如としてクララがレクトに襲撃をかまし、子づくりを目的とした篭絡を開始。
脳のてっぺんまで怒りの劫火に包まれたヒートがクララと丸二日に渡る壮絶な戦いを繰り広げていたというオチである。
しかしそんな経験があったからなのか、人形兵を相手にしているレクトにヒート、そしてクララは抜群のチームワークを発揮し、対等に渡り合っていた。
「ふぉるれね、ちゃん!」
到着したフォス達に気がついたレイがパタパタと駆け寄り、その手を取った。
「うお…レイか。そうかお前が兵たちを治療してくれてたんだな」
「うん!レク、トくんと、ヒート、くんが頑張って、くれてたか、ら!そのあい、だに!」
「うっし、ならそのままの調子で頼む。あとこれからあのデカブツをなんとか引っ張ってくから怪我人と一緒に離れててくれ。報酬は後でな」
「わかっ、た!」
フォスは素早く自らが率いてきた兵たちに指示を飛ばすと、アルスを引き連れてレクト達に合流する。
「ガキ共!よく根性を見せてくれたなオイ」
「フォルスレネス、遅かったじゃないか」
「遅かったのはお前たちだ阿呆め」
「ご無沙汰してます!皇帝さん!」
「おう」
軽く挨拶を交わしながら耳障りな叫び声をあげる人形兵と対峙する。
「話には聞いていたが実に厄介だねあれは。僕の炎もレクトの剣の力も効きやしない。当然あそこの花畑頭のアイドルの歌もだ」
「だが見たところある程度は戦えてるみたいじゃねぇか。どうやったんだ?」
フォスの疑問に答えたのはすがすがしい笑顔を浮かべるレクトだった。
「気合ですよ!」
「そうか」
聞くだけ無駄だったなともはや癖になっているため息を噛み殺し飲み込む。
隣のヒートもその通りだと言いたげに頷いてる。
(スパルタに鍛えすぎたせいで脳筋に育っちまったな…まぁいいか)
実際の所レクト達が人形兵と渡り合えているのは気合、そして根性だと言っても過言ではない。
鍛え上げた肉体を用いて無理やり打撃で押しとどめているのだから。
「ちょっとちょっと~お話ばっかりしてないで早くあれ倒してよぉ~☆クララ怖いの嫌いだよ~?☆」
「…なぁおいガキ共。あの女はなんだ?」
「なんなんでしょうね…」
「頭ピンク色花畑の躾のなっていない雌猫だよ」
困惑している様子のレクトと曇りなき敵意を持ったヒート。
フォスはこれ以上こいつらの問題に関わるのはまずいと直感的に理解する。
ボロボロの胃がさらに痛めつけられると脳が危険信号を発したのだ。
「そうか…お前らも色々と────」
世間話に興じようとした時、人形兵の巨大な腕がフォス達のいた場所を薙ぎ払った。
話をしていたとはいえ、そのような直線的な攻撃に当たるほど油断はしていなかった三人は思考を改めて切り替え、各々散会する。
「ガキ共!このままこいつを東側に連れて行く!なんでもいいから気を引きながら東に走れ!そこの歌ってる女もだ!」
ヒートとレクトは頷くと、それぞれ剣を拳を人形兵に叩きつけてながら東に走る。
「いやぁ~ん☆クララこわぁい~勇者くん連れてって~☆」
フォスにでさえ認識できないほどの速さでクララはいつの間にかレクトの側にまで来ており、その腕に抱き着く。
「いい!?クララ今はそんなことしてる場合じゃ…」
「でも~クララ~か弱い女の子だから走れなくてぇ~☆」
「いや!いまここまで走ってきてたじゃ…」
「貴様ぁあああああああ!!!」
ヒートが叫びながら地面を殴りつけると柱の様に噴出した炎が次々と燃え広がりながらクララを襲う。
「ドラゴンソング、まじっくりふれくしょん☆ふぁ~~~~~~~~~☆」
クララの歌声が光の膜のようなものに変わり、クララとレクトを覆うように展開されヒートの炎を弾き、弾かれた炎は無数の火球となり、周囲に飛び散っていく。
「何やってんだ馬鹿が!アルス!」
「はぁい」
飛び散った火球をアルスが触手を使い、一つにまとめるとそれをフォスがボールのように蹴り飛ばし、人形兵の顔面に放たれる。
直前で霧散してしまうものの、熱は残るようで、わずかに苦悶の鳴き声を上げると人形兵はフォスとアルスに狙いを定め、歪で長い手足を使い四足歩行で追いかけてくる。
「釈然としないがまぁいい!こっちにこいバケモノが!」
フォスは再び触手に絡めとられた状態でアルスに運ばれている体制で光の弓を放ちながら逃げていく。
合間合間にヒートとレクトも人形兵に攻撃を加えていく。
勿論その間にもクララとヒートは喧嘩を止めないため、無駄な被害が広がりそうになるがその度にアルスが触手を使いうまくフォローしていく。
そんな事を十分ほど続けながら移動しているとフォスは触手を数度叩いてアルスに合図を送った。
「この場所だ!ここでいい!ガキ共!そのデカブツを少しの間ここにつなぎ留めろ!」
「わかった!」
勇者パーティの面々には時間がなかったのでリリのことを伝えていない。
しかしレクトとヒート、そしてフォスの間にはすでに何を言わずともお互いを信じれる信頼感が産まれており、何を問うでもなく二人は頷いた。
そして────
「っ!ガキども離れろ!来るぞ!」
フォスの声にレクト達はその場を飛びのき、その瞬間にリリの魔法が遠方より放たれて人形兵を貫き、破壊した。
しかし…。
「なっ…!嘘だろあの野郎!外しやがった!」
リリの放った混沌色の柱は確かに人形兵を飲み込み、その機能を停止に追い込んだ。
しかしそれは東側…マオが対峙していた方の人形兵のことでフォス達が今まさに相手している人形兵は無傷でその場にいる。
リリが魔法を外したのだ。
「フォス様…これは」
「くそ!リリの奴なにをやって…」
フォスが魔法が放たれた始点…リリのいるはずの場所を睨みつけるとその場に異様な気配を感じた。
それはかつて直に感じた不気味で威圧的な…それでいて神聖な気配。
「まさか原初の神か!?このタイミングでちょっかいをかけてきやがったのか、あのクソアマ!」
状況を完全には把握できないが原初の神がらみでリリの身に何かが起こり、その状態でもこっちの状況を確認し魔法を放ったのだろう。
しかし狙いがズレた…もしくはマオの方だけでもという考えの元がむしゃらに魔法を放ったという事が推理できる。
「リリさん確か魔法は三発と…」
「ああ最悪だ。一体残っちまってる」
人形兵最後の一体は健在で、今も叫び声を上げながら暴れまわっている。
「フォルスレネス!どういうことだい!?まだこの場にとどめておくのか!」
「皇帝さん!」
「────────!!!!」
帝国が崩れていく。
壊されていく。
国がここまで成長するのに短くも大変な道のりがあった。
元々存在していた国が基になっているので完全に一からというわけではないがそれでも苦労した。
フォスだけではない、民が臣下が…外部の親交がある者まで手を貸してくれてようやくできた国がたったの数時間で崩されていく。
騎士が民兵が、勇者たちがアルスが不安そうな瞳をフォスに向ける。
いや違う、これからどうするのかとこの国を統べる皇帝に指示を仰いでいるのだ。
苦労を水の泡にされかけていること、数多の責任から来る重圧、ストレスによる胃の痛み。
それらすべてがこの瞬間最高潮に達し────フォスはキレた。
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