第11話人形少女は自由を手に入れる

 楽しみだなぁ!楽しみだ!

ついに本当の意味で自由になれるかもしれない!やっぱり魔王様だから私みたいなのの事には詳しいんだな~!ふふふふ!


「それでそれで?早く教えてよ魔王!」

「…リリ。あなた魔法が使えるのよね?」


「魔法?うん使えるけど?」

「それならば自身にパペットを縛る魔法を使うことができるのではないか?」


「…ほえ?」


自分に魔法を…?そんなことができるの…?


「パペットが魔法を使うなんてことがそもそもありえない…だから成功するかはわからないが、今君は制御権を持っている者がいないから誰かに操られる可能性があるわけで、それなら自らで自らを縛ることができれば解決するのではと考えたのだが…どうだろうか」

「・・・」


確かに行けそうな気がしないでもない。

むむむ!これは確かに試してみる価値がある気がしてきたぞ?


「オッケー魔王。やってみるよ~」


私は人形魔法を何度も見てきた。何度も何度もあのカス一族に継承されるたびに何度も縛られた。

そしてレザにもやられかけた。だからやり方なんて目をつぶっててもわかる。

さぁ始めようではないか。私の自由への挑戦を。


「パペットコネクト」


私の足元に魔法陣が広がり身体を鎖が縛っていく。

あぁ不快なこの感覚…でも我慢だ。

続いて私の指から光の糸が伸びて、そのまま私の身体につながっていく。


その瞬間、不快な気配を感じた。


「…そこに誰かいる?」


魔王の右上のあたり…何もない空間に確かに不快な気配を感じた。

私は腕から刃を出してその空間に向かって振りかぶろうと、


「待ってくれ!その…すまない。少し部下が通っただけだ。気にしないでくれ」


魔王がそういった後に気配が消えた。

それなら仕方がない。突然お邪魔しちゃったしここは謙虚に行こう。偉いぞ私。


そうしているうちに魔法の行使が完了した。

魔法陣が消えて糸も見えなくなった。

身体をあっちこち動かしてみる。普通に動くし違和感もない。

でも実感として私は「私」の制御権を手に入れたことがわかった。


「ふふふふ…あはははっ…あははははははははははは!!!」


笑いが止まらない。心の底から嬉しい。

あぁ!今が前世を含めて一番幸せってものを味わっている瞬間かもしれない!


「ははははあはっ!あははははははははははは…うふふふふふっふふふふ!あははははははは!」

「り、リリ…?成功したのか?」


魔王が私に手を伸ばした。

私はその手を掴んで引き寄せ、魔王に抱き着いた。


「!?」

「まさか失敗!?ちっ!魔王様を離せ!」


なんだか背中を軽くたたかれたような気がする。けどそんなことはどうでもいい!

私はこの気持ちをただ伝えたい。


「ありがとう!魔王!私、自由になれた!あなたのおかげ!あはははあはははははは!」

「せ、成功したのね…?よかった…」


腕の中で魔王が安心したように脱力した。

魔王も私の自由を喜んでくれてる?すごい…なんていい人なんだ魔王!

ああなんだろうこの気持ち!今まで私を縛り、物のように扱った人しかいなかったから…私に自由をくれたこの人がとってもきれいに見える!

好き好き大好き、狂おしいほどに。


「ふふふっ!魔王!あなたとってもいい人ね?」

「は…?」


「ねえ魔王?私あなたのこと気に入っちゃった。だからね?何かあったら言って?この恩を返すまではあなたの言うことはできる限り聞いてあげる」

「…それでは早速一ついいだろうか?」


「あら!なになに?」

「…もう離してもらえないだろうか」



それからしばらくして、とりあえず私の身の振り方は後日決めることになり今日は解散になった。

もちろんレザ君も快く許してあげたよ!機嫌がいいからね。

そして今は部屋をかしてもらえたので移動中です。


「少しいいかい?」

「ん?」


誰かに呼び止められた。

しかし辺りを見渡しても誰もいない。


「ああ、今は私の魔法で君にだけ声を届けている…すまないとは思うが我がことながら出不精でね」

「なるほど~」


そう言われてみれば確かになんだか魔法の干渉を受けているような気がする。


「君と少し話をしたいのだがいいかい?」

「ちょっと待ってね~」


この感じ…集中すると私に向かって言葉が届けられているのがわかる。

これならいけそうかな?

えっとレザが使ってたトンネルを作ってっと…。

見よう見まねだけど魔法のトンネルができた。あとはこれを通っていけば…。


「はい到着」


どこか広い部屋に出た。

ほとんど何もない…ドーム状のめちゃくちゃ広い部屋だ。

その中心に豪華そうな椅子がぽつんと置いてあり、そこに女性が座っていた。

不思議な恰好をしている。

イメージとしては…前世でのアニメなんかで見る花魁をイメージするとその通りみたいな…。

とにかく着物を着崩したエッチなお姉さん。

そんなお姉さんが驚いたような顔で私を見ていた。


「驚いたな…どうやってここまで?」

「え~と…お姉さんからの魔力をたどってトンネルを開けた感じ?」


「なるほど、な…なるほど…ああ、すまんね、挨拶が遅れた。私はアルギナ・テスリーラ・スルシルトルレンス・アルメナータ・アルセリナス・アルカラータ・フィオ・アルバレスン・ソラ、」

「まだ続きます?」


「いや失敬。まぁアルギナと呼んでくれたまえ…見た目通りそこそこな年寄りなものでね。いろいろあって名が長いのだよ」

「ほぇ~…あ、私はリリです」


とりあえず頭を下げた。

見た目通りって見た目20代くらいにしか見えないけれど?

魔族の間では老けてるほうなのだろうか?不思議だな~魔族。


「ああ、よろしくリリ」

「はい~」


「早速だが君の意志を確認しておきたくてね」

「意志?」


「私は君が先ほどあった魔王様の部下でね…これから接する機会も多くなるだろうしね」

「ほほ~」


アルギナさんが足を組み替えた。

見えそうで見えない。さてはなかなかの実力者だな?


「君は魔王様の頼みを聞くと言ったが…どこまでなら聞いてくれるのかな?」

「…?」


なに、その質問?


「例えばだが、魔王様が君に「死んでくれ」とお願いした場合、君は死ぬのかい?」

「うーん…」


それは悩ましいところだ。

正直私は死にたかったのだけれど…今はせっかく手に入れた自由を満喫してみたいと思っている。

だから答えはノー…と言いたいところだけれど相手が魔王なら話が変わってくる。

私の恩人が、私に死ねという…それは死んであげたい気持ちが出てくる。

そうだ、大好きな人の前で死ぬというのはなかなかに素晴らしい終わり方なのではないだろうか?

なるべく印象に残るように、その瞳に、記憶に、心にいつまでも焼き付くような劇的な死を披露すれば、一生忘れずにいてくれる。

それはとっても素晴らしいような気がしてくる。


「…いや、もういい。変なことを聞いてしまったな」

「答えなくていいの?」


「ああ。では少し質問を変えて魔王様が人間を殺してくれと言ったらどうだ?」

「…?ぜんぜんやるけど?」


「では戦争ならどうだ?魔王様が頼めば我らに協力してくれるか?」


なんだなんだこの人?なんでこんなこと聞いてくるの?

もしかしなくてもヤバイ人だな!?

でも魔王の部下ならあんまり粗末には扱えないなぁ~魔王に嫌われたくないし~。

だからレザ君だって許してあげたんだもの。


「戦争か~役に立てるかはわからないけれど魔王のお願いならそれくらいならいいよ~」

「ふむ…そうか。わかった、時間を取らせてすまなかったね。もういいよありがとう」


な、なんて一方的な人なんだ…!マイペースかよ!お菓子くらい出せよ!

ぷんぷん!

ま、いいか。帰ろっと。


「ああ!そうだ最後に一つだけ」

「ん?」


「そのトンネル移動…あまり使わないほうがいい」

「なんで?」


「他人のプライバシーは守られるべきだろう?たとえば…そうだな、私が自分を慰めている時に突然入ってこられたら困るじゃないか、お互いに」

「…確かに!」


なんとなくできたからやってみただけだけど…今度からは直接部屋に入るのはやめておこうと思いましたとさ。

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