第24話人形少女は偉い人と会う

 何がいいのかこれっぽっちもわからないありがたい話が終わって数十分。

人のいなくなった教会で私は教主と向かい合っていた。


「時間を取らせてすまなかったね…見ない顔だったもので少し話をしたいと思ったもので」

「はぁ…」


なんだなんだ、この町はただ立ち寄っただけで一番偉い人と一対一で話さないといけないのか。

誰も来なくなるわ!もっと旅人を優しく扱って差し上げろ!


「私はザナド…まぁだいたいは教主と呼ばれているが好きに呼んでくれていいですよ。お名前を聞いても?」

「…リリです」


「素敵な響きの名前だ。どうぞよろしく」


教主…ザナドが手を差し出してきた。

握手かな?う~ん…手袋の感触でごまかせなくもないけれど人形だとバレる可能性は低くはないので接触はなるべく避けたい。さすがに偉い人を殺しちゃうと騒ぎになりそうだし…。


「ごめんなさい、異性に触れるのはちょっと」

「おや、握手もダメと?」


「はい~いろいろと事情がありまして」

「ふむ。ならば仕方ない」


よし!ごまかせた。これぞ必殺なんらかの事情がある風を装う大作戦。


「ここには何をしに?商人…には見えませんが」

「仕事というか…旅行と言いますか?」


「ほほう、それはそれは…お仕事は何を?」

「…人形遣いを少々」


これ職としていけるんだよね!?大丈夫なんだよね!?


「なんと!…少し見せていただくことは可能ですか?」

「え」


なんだこいつ、なんでこんなにぐいぐい来るんだ。どうする…断る?

まぁでもなんか…逃がしてくれなさそうな気配だし…それに少しくらい権力者に顔を売っておくのもありかも…?

まぁめんどくさくなったら首でもサックリとやって帰ろう…すぐに逃げれば大丈夫でしょうたぶん。


「では少しだけ失礼して…」


私は先ほどメイラに貸してあげた人形を取り出す。


「ほぉ~小型のパペットなんですね」

「ええまぁ」


「見たところモンスターでもないようですが…」

「モンスターは危ないかもですからね」


私が持ってる人形は魔王城にあったものを拝借したただの人形だ。

とりあえず魔法の糸を構築して人形を軽く操ってみせた。


「なかなかの腕前ですね」

「ありがとうございます~」


適当なところで切り上げて頭を下げると、ザナドが軽く拍手を送ってくれた。


「ありがとう、いい物を見せてもらいました」

「はい~こちらこそありがとうございました」


「ところでそのパペットは戦闘用ではないようですが…ここまではどうやって?外も最近は危ないですからね。女性が一人旅をするというのは大変でしょう」

「ああ~そこはまぁ…企業秘密です」


「ふむ…なるほど。ああ少し時間を取らせすぎましたね。すみません」

「いえいえ」


本当だよ!とっとと解放しろ!


「あ、最後にもう一つ」

「はい」


「メイラと仲良くやっていただけてるそうで…ここにいる間だけでも彼女と仲良くしてあげてください。私の力不足ゆえに大変な思いをさせてしまっているもので」

「はぁ…?」


「こちらの話です」


じゃあ私にするんじゃないよ!そっちの話で終わらせておいてくれ。

とりあえず曖昧に笑って頭を下げて私は教会を後にしたのだった…と言いたいところだったけどメイラがザナドと少しだけ話したいとの事だったので待ちぼうけなのであったとさ。



_________



リリさんに声が聞こえないのを確認したのち、私は教主様に全てを話した。

彼女が人間だとは思えない事…それを伝えると教主様は顎に手を当て数秒ほど何かを考えていた。


「この話、他の誰かにはしましたか?」

「いえ…気づいたのはさっきで…どうしたらいいのかわからなくて…」


「ふむ…わからないというのは?」

「…リリさんを悪い人だと思いたくないので…」


「そうですか。少し話した感じ…確かに悪人には見えませんでしたね。とりあえずは様子をみてはいかがでしょうか」

「…え?」


「こちらにも少し事情がありましてね。監視はつけておきますので」

「いいんですかそれで…?リリさんはその…魔族かもしれないんですよ」


私は教主様の言葉に少なからず驚いた。

それを望んでいたわけではないけれど、もう少し強硬な手段に出るのではないかと思っていたから。

もちろん私としては不安は拭えないけれど、リリさんにすぐに手を出さないというのはホッとしている。

じゃあなんで話したんだと思うかもしれないけれど…私一人では抱えきれなかった。


「だとしても、明確な敵対行動をとっていない相手を害するというのもね。私は人間至上主義というわけでもないので」

「…それは少し意外かもです」


「そうですか?そもそも我々は神を信仰しています。神は人ではないでしょう?」

「まぁ…確かに…?」


それとこれとは違うような気もするけど、じゃあ何が違うのかと聞かれれば同じようにも思える…かもしれない。


「まぁとにかくこの件は保留ですね。何かあったらすぐに私に報告を」

「わかりました」


「安心なさい。私がついています…あなたは私を信じてくださいますよね?」

「もちろんです!目が急に見えなくなった時も教主様はずっと親切にしてくださいましたから…」


「当然の事ですよ…ではお気をつけて」

「はい!」


「あ、メイラ」

「はい?」


「多分もう少しで市場にも情報が出回ると思いますが…昨夜事件が起こりましてね。夜中に出歩くのはやめておきなさい」


教主様から衛兵が殺されたという話を聞いた。

そして事件が起こったとされる時間は…私がリリさんと出会う少し前…まさかね。そんなはずはない…よね?

私はそんな考えを振り払うようにリリさんの元に走った。



_________



ザナドはリリとメイラが立ち去った後の教会で一人、笑っていた。


「ふふふふ…まさかとは思いましたがほぼ間違いないようですねぇ。まさか一度見てみたいと思っていた魔神候補のパペットに出会えるとは…」


彼はリリの正体が以前勇者達から報告があり、現在各国でも議論されている渦中のパペットであることに気づいていた。


「彼女の力を一度見てみたいですねぇ…メイラを使ってなにかできないものか…いや、黒の使徒たちを探し出して利用するほうが早いか…?勇者たちに情報を流してもいいかもしれない…ふふふっ楽しくなってきましたねぇ…誰かいますか?」


ザナドが手を叩くと、いつの間にか白いローブを着た人物がザナドの隣に現れた。


「お呼びですか」

「あのリリという女性とメイラを監視しなさい。ただし何があっても手は出さない事。とにかく監視をして全て私に報告してください」


「かしこまりました」


現れたときと同じように、ローブの人物の姿はいつの間にか消えていた。


「さて…私も私で動かなければ…いいですねぇこの感じ…実にいい。ははははは!」


誰もいない教会で一人、ザナドは笑い続けていた。

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