第23話勇者少年は思い悩む
この世界ではざっくりと分けて二つの種族がいる。
人間と魔族。
数が多く、力は弱いが様々な魔法を使いこなすことができる人間と、数は少なく魔法なども個体により使える使えないにばらつきがあるがモンスターの特徴を持ち人より強靭な魔族。
そして古来よりこの二つの種族は争いを続けている…もうなぜ争っているかなどほとんどの者は知らない。
しかし流した血の多さが、積もった憎しみの大きさが争いを止めることを許さない。
普通に戦えば人間は魔族にあっさり敗北してしまうのだが、時折人の中に魔族に対抗できる圧倒的な力を持って産まれてくるものがいた。
人はそれを勇者や聖女と呼んでいる。そして勇者の名をもって生を受けた少年レクトは今、神都の地に足を踏み入れていた。
「黒の使徒…ここに来たのは間違いないみたいだね」
「みたいだなぁ…まさか神都を出てターゲットを追いかけたらまた戻ってくる羽目になるなんて思わんかったな」
神聖騎士から話を聞いたレクトの言葉にボヤキを返した背の高い男もまた勇者の一人で名をアグスという。
「しかし死体で見つかったのは一人だけ…私たちが追っていた時は十人以上はいたはずですよね?残りのメンバーはどこに…?」
手を頬にあてて考え事をしているようなしぐさのシスター服を着た少女…聖女フリメラが疑問を口にした。
彼ら三人は常に行動を共にする仲間だった。
いままで数多くの強大なモンスターや名のある魔族を打ち倒した、人間たちには英雄。魔族には悪魔と呼ばれるほど有名なパーティだった。
そんな彼らは魔族やモンスターだけではなく、道を踏み外した人間たち…邪教徒と呼ばれる者たちの対処も率先して行っていた。
「…もう神都に潜伏してる…と考えるべきだろうなぁ」
「神聖な私の故郷…彼らに汚されるわけにはいきません!すぐにでも探し出しましょう!」
「フリメラ落ち着いて…」
「そうだぞ~レクトの言うとおりだ。何事も慎重にな…じゃないとこの前のパペットみたいにやっかいな事になっちまうからな」
「パペット…」
レクトの脳裏には少し前に出会った異常なパペットの姿が浮かぶ。
そう彼らはリリが対峙した勇者たちなのだ。
「黒の使徒はあのパペットがいた邪教組織にもつながりがあったはずです。もしかしたらアレの対処法も手に入るかもしれませんね」
「だといいがなぁ~…」
パペットに圧倒的敗北を|して以来、三人は様々な文献を読んだり、人形遣いに話を聞くなどして徹底的に対策を練ろうとした。
しかし大した成果は得られていないというのが現状で、黒の使徒を追っていたのも情報が欲しいというのも大きな理由だった。
「次は絶対に負けません…偉大なる神に誓って邪悪なる者を討って見せます」
「ま、いつまでもあんなのを野放しにはしておけんしなぁ」
リリを倒すべきものとして見ている二人だったがレクトは一人、違う想いを抱えていた。
レクトは初めて…いや、リリが人形遣いの手を離れて自由を手にした瞬間のリリを見たとき胸にこみあげる熱い物を感じていた。
その姿に目を奪われて釘付けになった。
何故かはわからない…だがしかしレクトは確かにリリをこの世の何よりも綺麗だとその瞬間思っていた。
「(あのパペットにもう一度会えば…この気持ちが何なのかわかるのだろうか…)」
そして何とかもう一度説得したい…説得して人間に危害を加えないと約束してもらって、それで…。
「(それで…?どうしたいんだ僕は…?)」
リリの事を考えるたびにレクトはこうして思考の迷宮に沈んでいく。
その気持ちにつける名前を彼はまだ知らないのだから。
「なにぼ~っとしてるんだ?とっとと行くぜ」
「そうですよレクトさん。敵は待ってはくれませんからね!」
「ああ、そうだね…うん、すぐ行くよ」
邪教徒、勇者達、教主、盲目の少女…そして人形。
この神都で何かが起ころうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます