第287話 人形少女の新魔法
「ええ!?あれって」
「どうやら屋敷に現れたものと同型のようですね」
少し距離が離れているが特に見える何故か背が伸びて全裸のコウちゃんといつも通りのアーちゃんが戦っているのは間違いなく我が家に現れた人形だった。
腕の本数が違ったり、形に微妙な差はあるものの、あの気持ちの悪さは全く変わらない。
「というかあれコウちゃんだよね?裸だし」
「ええ「呪い」がそのままなので間違いなく本人かと」
「…呪い?」
「間違えました」
何を間違えたというのか。
クチナシは表情こそ変わらないがばつの悪そうな顔をして目を反らした。
まぁいいや、まさかコウちゃんにクチナシが呪いをかけているとか言うわけでもあるまいし。
よくわからないけど本当に何かを間違えただけなのだろう、うん。
「あの気持ち悪いやつってコウちゃんなら倒せるのかな」
「見た限り厳しそうですね。皇帝さんの力が通用するのならもうとっくに戦いは終わっていると思うので」
コウちゃんはかなり強かったはずだけど、それでも厳しいのか~なんて迷惑な人形なんだ。
辺りをよく見るとまるで災害でも起こったかのように町中ボロボロだし…やりたい放題かよ。
「よし、じゃあ友達のために一肌脱ぎますか」
「…姉様」
じとっとした目を向けてくる我が妹。
まずい、やはりあの一件でクチナシの中で私の株というか威厳的なものが急降下している。
ここは名誉を挽回しなくては!!
「大丈夫だ妹よ!私もあの時のことがあってから色々考えたのよ!」
「はぁ…?」
実際あの時は本当にまずかった。
仮に私一人であの人形と戦っていた場合、もし後続なんかが居たら私はやられていた可能性が高いわけで…魔力を使い果たして動けなくなるなんて間抜けもいいところなのだから。
だいたい私の全力フルパワー魔法は当たった瞬間にあの人形を完全に蒸発させたのだからあそこまでの力を籠める必要はなかったのだ。
その後の全てが無駄になってしまったからね。
せっかく魔力を全部放出したのに出だしの部分だけで倒せてしまい、残りがあの流れ星になってしまった…しかし私は失敗から学べる女。
一度した間違いは二度とは犯さない気がしない事もない。
「つまりカオスブラスターよりも強い魔法を使えばいいわけよ!」
「スフィアはダメですよ。周りも大変な事になってしまいます」
「分かってるよ。…それにしても自分で作っておいてなんだけどさ、カオススフィアって使い勝手悪すぎない?」
「まぁ…周りの被害を一切考慮しなくていいのなら消費魔力量から考えても破格の破壊力を持っていますから使えない事もないと思いますけどね。最低限マスターの四分の一ほど魔力がないと発動すらできないうえに異常な難易度の魔法操作を要求されるので効率がいいとは言えませんが」
カオススフィアは完全な思い付きで出来た魔法なので色々と欠陥があるのは仕方がない。
しかぁし!ここからは違う!ちゃんと考えて改良した新たなるオリジナル魔法を披露しようではないか!
「カオススフィアとカオスブラスターの欠点を潰しまくった新魔法!使いやすさ、魔力消費、威力とあらゆる問題を過去にした私の努力の成果を見よ!」
「…」
相変わらず微妙に信用しきれていない表情をしているクチナシ。
ふふん、しかしね私はすでに気が付いているよ?キミの扱い方をね。
「それにもし失敗しても、くっちゃんがいてくれるから安心でしょ?」
どうだ妹よ!頼られるのが好きなんでしょう?
「…なにやら打算のようなものを感じますが、お任せを姉様」
そっけなく顔を反らすも、頬が若干赤くなっていることから、やはりまんざらでもないらしい。
扱いやすくなったものよ。
「よし!じゃあ行くよ!今助けるからねコウちゃん!」
もはや慣れ親しんだ動作で全属性の魔法を使用して、その場に固定し暴発しないように混ぜ合わせる。
これめちゃくちゃ簡単なのだけど、くっちゃんに「簡単だよね?」と言ったらいつものようにジトっとした目で見られたので私はもう魔法に関しては何も言わないほうがいいと思いましたとさ。
「地水火風、光に闇!全てを混ぜ合わせて一つに!新オリジナル魔法…カオスブレイカー!」
瞬間、私の掌から極太な漆黒のビームが放たれた。
え?カオスブラスターと変わらないじゃないかって?全然違うよ!
まずこの魔法、カオスブレイカーは最初に消費する魔力がカオスブラスターの半分ほどだ。
さらに見た目は似ているという点は否定しないけれど、そのシステムは全然違う。
今までのカオスブラスターは言うなれば撃ち切りタイプだ。
最初に込める魔力を決めて、どんと魔力を込めた後に放つので前回のように使った魔力を消費しきるまで残り続けるし、すでに発動してしまっているので途中で消したり威力の調整をしたりは出来ない。
だがこのカオスブレイカーは違う!
なんとこちらは途中で威力の調整等ができるのだ!
うまくは言えないけれど、最初に放たれているビームは中身の入っていない空洞の筒のようなもので、魔力もほとんどこもっておらず、ここから自分で魔力を調整して威力の調整ができるのだ!
つまりは前回のような無駄な魔力消費をしたり、不必要な威力を出すこともない素晴らしい魔法なのだ。
「おお…これは…素晴らしい魔法だと思います」
「でしょう?」
どうやら姉としての威厳を取り戻せたらしい。
よかったよかった。
そしてカオスブレイカーは狙い通りに人形に当たり、ここからだというところに来た。
やはりあの人形の謎耐性は据え置きらしく、カオスブレイカーも弾かれている。
しかし一定以上の威力は流しきれないことはすでに分かっているのでどんどんと段階的に魔力を込めていく。
調子に乗って一気に魔力を増やしすぎないのがポイントだ。
「姉様、そこからもう2割ほど魔力を込めてみてください」
「お?」
「私の見立てではそれで終わるかと」
「ふむふむ」
私としてはそれくらいだと少し足りないかも?と思うけど、こういう事に関しては私は自分よりクチナシを信じている。
なので言われた通りに一気に魔力を注ぎ込む。
すると…。
「お、吹き飛んだね」
「ええ」
「さすがはくっちゃん」
「マスターの素晴らしい魔法あってのことです」
おだてるのがうまいね本当に。
よし、とりあえずコウちゃんのところに行こう。
クチナシと二人で茫然としているコウちゃんたちの元まで歩く。
「それにしても初めて実戦使用したけど…うんーコツを掴めばいけるね」
「お見事ですマスター」
コウちゃんたちに近づくと姉様からマスター呼びに戻るのがなんだか面白かった。
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