第288話 人形少女はやる気を出す
私たちの声が聞こえたのか、ゆっくりと振り向いたコウちゃんはとても驚いたような顔をしていた。
アーちゃんも似たような顔をしている。
せっかく危なそうなところを助けてあげたのだから喜んでほしいな!
「やっほーコウちゃん。危ないところだったね!」
この間にクチナシが闇の中からバスローブのようなものを取り出してくれたので、それをコウちゃんに手渡す。
女の子が身体を冷やすなんてダメなのに、何故コウちゃんは昔から脱ぎたがるのか…。
「リリ…お前…」
「助けに来た…わけじゃないけど助けに来たよ!ところでなんで成長してるの?」
「お前の所の躾のなってないガキのせいだ。ちゃんと教育くらいしておけ」
「んん?」
「それよりお前!」
コウちゃんが何かを言おうとしたその時、何かが崩れるような大きな音と共に悲鳴のようなものが聞こえた。
それはあの人形の鳴き声で、相も変わらず耳障りだ。
「うるさいなぁもう。初めてだから微妙に狙いがそれちゃって下半身しか吹っ飛ばせなかったのがダメだったね」
「姉さ、マスター。あの人形の近くに誰かいます」
「お?」
確かによく見ると悲鳴をあげる人形の近くに、頑張って立ち上がろうとしているらしき女性の姿があった。
一般人巻き込んじゃったかな?それとも…。
「いたたたた…何が起こったのか一体…」
それは聞き覚えのある声だった。
一体どこで聞いたのか…うーん…顔を見ればわかるか。
というか痛そうだし手を貸してあげたほうがいいかな?
そう思って女の人に近づこうとした時、カツンと何かがつま先に当たった気がしたので見て見ると、黒いブローチのようなものが落ちていた。
「これって…」
ブローチを拾い上げると共に懐に入れていたレイの石が光り出す。
「え、なにこれ」
「おいリリ!それは!」
コウちゃんが手を伸ばしてきたけど、それより早くブローチにひびが入り、砕けてしまった。
ブローチの中心部分にあった真っ黒な宝石も粉々になってしまっており、その中から光の粒子のようなものが溢れたかと思うと町中に散らばっていく。
よく見るとそれはどうやら何度か見たことのある人の魂のようで…蛍みたいで綺麗だけどブローチ壊れて大丈夫だったのだろうか…?まさか私が壊したとか思われないよね?
「なんなのこれ…あ、石が大きくなってる」
いつの間にか私が手にしていたレイの石はその大きさを一回り増していて、それと同時に頭に一瞬だけ電流が流れたような痛みが走った。
これは…石の記憶…?
先ほどのブローチはどうやらレイの石の欠片だったようで、その石に残っていた記憶が私の頭に流れ込んできたみたい。
そしてその記憶は死ぬほど胸糞悪くて、死ぬほど悲しいものだった。
身体中を切り刻まれ、面白半分に「中身」を入れ替えられ、頭の中をぐちゃぐちゃにされた記憶。
それを実行した人物の顔に、この場でのコウちゃんの戦い。
時間にしてほんの一瞬の出来事だったけど、恐ろしいほどの長くつらい記憶を私は垣間見た。
なるほどなるほど。
コウちゃんと情報の交換をするだけのつもりだったけど、幸運な事に私は早速目的の一つを達成できそうだ。
「やあマナギスさん。久しぶり」
「んん…?その声は…リリちゃん?」
プルプルと震えながらもようやく立ち上がった女性は以前に魔道具の指輪を売ってくれたマナギスさんだった。
「うん、リリです。元気にしてた?」
「元気は元気だけど…さてさて、一体全体どういう状況なのかな?」
汚れを払ったマナギスさんが私とコウちゃん、それに下半身の吹き飛んだ気味の悪い人形を交互に見て首をひねる。
さてさて説明してあげたいけれどどういうのがいいのか…まぁ簡潔に事実だけ伝えたほうが分かりやすくていいか。
「えっとね。ここであなたは死ぬの」
「え?」
ナイフを出す間も惜しかったので、腕からブレードでマナギスさんの身体を肩から斜めに斬った。
刃が身体を通過した時に妙な感じがしたのでバックり開いた傷口から手を突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回し、妙な感じがするそれを取り出してみると、人の魂の塊だった。
なんでこんなものがあるのか分からなかったので適当に握りつぶしておしまい。
そのままマナギスさんはべちゃっと血だまりの中に内臓やら何やらをまき散らしながら倒れた。
実にあっけなく敵討ちが終わってしまった。
うーん…もう少し痛い思いをしてもらった方がよかった気がするなぁ。
頭に血が上ってしまってうっかりすぐ殺しちゃったよ!ドレスもべちゃべちゃだし…はぁこういうところがダメなんだよ私は。
「…殺したのか?」
コウちゃんとアーちゃんが恐る恐ると言った様子で私の隣に来てマナギスさんの死体を覗き込む、
というかコウちゃんよ…せっかく着るもの渡してあげたのにどうして腰に巻いてるのさ。
下半身は隠れてるけどおへそから上は丸見えのままじゃないか。
「いやコウちゃん、ちゃんと服着ようよ…」
「うるせぇ服なんかどうでもいい。いいから答えろ」
よくないと思うんだけどなぁ…。
「たぶん殺しちゃったと思うけど…ていうかこれで死なないとかある?」
「さっきまで殺しても死なないクソアマだったんだよ。他人の魂を身代わりにしていたらしい」
「あ、なるほど。それでか~さっきこの人の中から魂は取り出してお空に還してあげたよ」
「…そうか。だがリリ」
コウちゃんが私に光の剣を突き付けてきた。
え、え?なんでなんで?
「…コウちゃん?」
「お前には聞きたいことが山ほどある。全部ちゃんと答え…げふっ」
真面目な顔をしていたコウちゃんが血を吐いた。
「げほっ!げほ!うるせぇ!お前は黙ってろ!おぇっ…」
「フォス様!?」
なにやらまるで誰かと会話をしているようなことを叫びながらコウちゃんが血を吐きながら剣を振り回していて、アーちゃんが必死にそれを止めようとしている。
もしかしたらコウちゃんは疲れているのかもしれない。
「ちぃいいい!わかったからこれを…げほっ!止めろ…!」
最後には血ではなく吐しゃ物を吐き出して、コウちゃんはその場に座り込んでしまった。
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