第289話 人形少女は言い訳をする
「コウちゃん何か悪い病気じゃないの…?ゆっくり休んだ方がいいよ~ほんとに心配してるんだよ私」
血を吐いたり、嘔吐したり、絶対に大丈夫じゃない。
もしこれが悪い病気とかでコウちゃんに何かあったらと考えると嫌な気持ちになる。
友達がいなくなるのはとても悲しい事なのだ。
「…おう。だが自分の子供くらいちゃんと躾けろ。いい加減感情だけで動くようなマネは自重させろ」
「さっきもなんかそんな事言ってたね?あの子たちが何かしたの?ごめんね、ちゃんと言っておくよ」
コウちゃんはガシガシと自分の頭をかくと私に座れとでも言いたげなジェスチャーをしてきたので「ここはちょっと…」とコウちゃんの吐き出したものを避けつつ向き合うように座った。
そして私たちの背後にそれぞれクチナシとアーちゃんが控えるように立った。
アーちゃんは車椅子だから座ってるけど。
「言いたいことは色々あるが…とりあえず助かった」
「お、コウちゃんが素直だ」
「うるせえ。言っておくがお前が来なくても我はあのクソ女をぶっ殺せたんだ。あと五秒でもお前が遅れていれば我の必殺の一撃で奴は塵になっていた。そのあたりだけ理解しておけ」
「うい~」
負けず嫌いだなぁ。
しかしそこですかさずクチナシが口を開く。
「見たところあの人形に皇帝さんの力は通用しなかったようですね。私の力も弾かれたので神由来の力も弾けるとなると確かに能力の出力という点では最弱と言ってもいい皇帝さんの惟神では対抗できなかったでしょう。強い弱いではなく相性の問題なので気にする必要はないかと」
「…」
コウちゃんが凄い顔をしてクチナシを見た後、落ち込むようにうつむいた。
うむ…くっちゃんよ、それは追い打ちだ。
「…まぁいい。それよりリリ」
「あい」
「先日、この付近を真っ黒な流れ星のようなものが襲った」
「へ、へぇ~…」
ヤバイ。
もしかしなくても私の大ポカのあれだ。
いや、でも私が犯人だとは分からないはず…。
「あれから感じられた魔力は間違いなくお前のものだった。説明…できるな?」
「おうふ…」
バレている。
絶対に怒られる。
どどどどどどど、どうしよう…もしかしたら怒られるだけでは済まないかもしれない。
助けを求めるようにクチナシを見ると(私は背後にも視界があるので目は向けていない)クチナシは腕を組むふりをして、指でどこかを差していた。
そして指の先には一度悲鳴をあげたっきり沈黙している上半身だけの気味の悪い人形がいて…。
そうかそれだ!
「あのねコウちゃん、実は…」
私はコウちゃんに屋敷にもあの人形がやってきたことを話した。
なんか兵隊みたいな人達に襲われたことも併せて伝えた…ただし、かなり脚色を加えて。
結構いろいろと話を付け加えたけど結論としては…。
「全部あの人形のせいなんだよ!」
という感じである。
「…全面的に納得は出来んが、まぁ話は分かった。話から聞くにやってきた兵隊とやらは隣のなんとか王国の兵か。という事はあの女はそこの関係者なのか?」
「わかんないよ」
よし、どうやら何とかなってるぞ。
全部が全部嘘ってわけでもないし、これで勘弁してほしいところだ。
「そうか。だがお前も原因の一端であることは間違いない。それについてはどう考えている」
「だからマナギスさんをぶち殺したじゃん!責任とった!」
「…」
「それとね、コウちゃんにもしておかないといけない話を持ってきたの!」
「あん?」
そして私はマオちゃんたちにしたのと同じようにレイの石の話を伝えた。
なお、今回さらに首謀者がマナギスさんであることも判明したので、そのあたりの事も追加で話す。
「…そういう事かよ。クソ女が」
話を聞いた時のマオちゃんと同じように、コウちゃんもアーちゃんの胸の谷間から取り出したレイの石を手の中で転がしながら何とも言えない目で見つめている。
人の友達をどこにしまっているのさ。
しかしうまく話もそらせたみたいだしとりあえず一安心だ。
「これを狙っている原初の神にあいつの行動目的…全部がなんとなく線でつながった感じだな。もろもろを考えているとあの女は生かしておいた方がよかったかもしれん」
「やっぱりそう思うよね」
もう少し苦しんで死んでもらった方がやっぱりよかったよね…。
「ああ、原初の神との交渉材料に使えたかもしれんからな」
「そっちか」
「そっち?」
「こっちの話」
「しかしそうなると…」
コウちゃんは石と私に交互に目配せをした。
「どうしたの?」
「お前はこれをどうするつもりだ?」
「そうだねぇ…一応は全部集めたい気はするけど、特に今は何も考えてないかなぁ」
「ならこれはまだ我が預かっておく。文句はないな」
ないけれど一体どうするつもりなのだろうか?
なんやかんやで優しいコウちゃんだから変な事はしないだろうけど気にはなる。
「何に使うの?」
「当初の用途と変わらん。原初の神の交渉材料に使う…最悪の場合は砕く」
「そっかぁ」
まぁ仕方ない事だろう。
「いいのか?友達なんだろう?随分と淡泊じゃないか」
「これはあの子自身じゃないからね。レイはもう死んじゃってるから。身体くらい綺麗にそろえて埋葬してあげたいって気持ちがないわけじゃないけれど」
どちらにせよ石が集まって出来た身体にはすでに別のレイちゃんという人格が宿っている。
あの子を殺そうとは思わないし、何の意味もないのだ。
また生まれ変わったレイと出会う約束もしているし、そこまで石自体に執着はない。
出来れば集められるだけは集めたい…その程度。
「そうかよ。わかった、とりあえずは…」
コウちゃんが立ち上がろうとした時だった。
耳障りな悲鳴のような声が聞こえたかと思うと、おとなしくなっていたはずの人形が暴れ出した。
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