第286話 人形少女はエスコートされる
私はクチナシと話した後、皆に私が得た情報の全てを話した。
原初の神様とレイの関係、不思議な「石」の正体。
マオちゃんとクチナシはいろいろ動いていたみたいだし、メイラはたまにクチナシを手伝っていたらしいからちゃんと教えておいた方がいいと思ったからだ。
こういう時に一人で抱え込んで情報を伝達しないやつがいると後々にさらにめんどくさい事になるからね!私そういうの苦手!
古の時代より、「これは私がやらないといけない事だから皆には言えない…!一人でやらなくちゃ…!」なんて言うやつがその問題を本当に一人で解決できた場面なんて見たことない。
ぜ~ったいに途中で窮地に陥って周りの人が割を食うことになるのだ。
だから私は最初に全部伝えました!えらい!
一応私の…糸倉紗々の事は話していない。
前世の話なんてする意味ないし、いきなりそんなこと言われてもマオちゃんたちもどう受け止めればいいのか分かんないだろうからね。
いつか話す時が来るかもしれないけれど、今じゃない。
何より私は糸倉紗々ではなくリリなのだから。
あ、レイとは昔の知り合いと言ってありますですハイ。
時代とかは全く合わないのだけど、私の誕生した時代を知っているのなんてアーちゃんしかいないのだから問題なし。
…そういえばクチナシは私のそこら辺の事情は知っているのだろか…?話が出たことは無いけれど、クチナシはこっちから話を振らないと何もないところで雑談を始めるようなタイプでもないし謎である。
「そっか…だからあの時…」
マオちゃんが手の中にある拳大の石を少し悲しそうに見つめながらポツリと言った。
「マオちゃん?」
「…以前ね原初の神様に言われたの。「母親のくせに私からは娘を奪おうというの」って。ほんとうだよね、私…酷いことしちゃった」
どうやらマオちゃんは以前に原初の神様ことマリアさんにレイの石を使って脅しをかけたことがあるらしく、その事をひどく後悔しているようだった。
私としてよくいろんな人からヤバイヤバイ言われてる人に脅しなんかかけられたね…とちょっと驚いた。
マオちゃん周りにまともな人が少ないからちょっとそこらへんの感覚がおかしくなっているみたいなところがあるからなぁ…全部済んだら人里に住んでみるのはどうだろう?一般的な感性という物が身につくかもしれない。
…どこかに人形の私も受け入れてくれるところは無いだろうか?要検討である。
しかしマオちゃんの後悔はすごく分かる。
私は別に脅してなんかいないけれど、正直すごく原初の神様側に心は傾いている。
レイのことがあるからそれも関係しているのかもしれないけれど、人間が許せないのなら気のすむまで殺せばいいと私は思ってしまう。
実際同じ状況に私が経った場合、やるかやらないかで言うのなら…やる。
それはきっとマオちゃんも同じで…だからこそ胸が痛い。
「マオちゃん泣かないで」
何も知らなかったのだからしょうがないよ。
わざとじゃないのだから。
その時の状況的にそう言うしかなかった。
どれもその通りかもしれないけれど、そんな言葉をかけられたって何も嬉しくないし心が軽くなったりもしない。
だからただマオちゃんの小さな身体をぎゅっと抱きしめる。
「うん…ありがとリリ」
「えへへ」
ちょっとだけ無理やりな感じだけどマオちゃんは笑ってくれた。
「…あの、ではこれからどうするんですか?」
メイラがおずおずと手を上げて私たちを見ながらそう問いかけてきた。
「まずはそこだよね~」
「私としてはその…人がいなくなるのは困るというか…」
確かにメイラにとって人が全滅するという事は実質の死だ。
食べ物がなければ生きていけない。
悪魔が餓死をするのかは分からないけれど、少なくともメイラの心は間違いなく死ぬだろう。
なりたてだったころのメイラが人を食べなくて情緒が不安定になっていたことから疑いようはない。
「人がいなくなる前にマスターの話が事実なのだとしたら世界そのものが危ないのでは。どちらにせよさすがの私たちも世界ごと破壊されては死ぬしかないでしょう」
「そう、くっちゃんその通りよ」
結局はそこだ。
人がいなくなるくらいならメイラに影響が出ない手段があるのなら問題はない。
でも今回は世界がヤバい!なのでマリアさんを止めるしかない。
自分たちだけならまだしも娘たちの未来をこんなところで摘み取らせるわけにはいかないのだ。
「止めるしかない…んだよね」
「だね」
重く口を開きながらギュッと握りしめられたマオちゃんの手に私の手を重ねる。
「ただ自分の娘を取り戻そうとしているだけの人を…私たちは倒さないといけないんだよね」
「うん」
私だって気が重いし罪悪感のようなものに襲われているがレイとの約束もあり、どちらかと言うと前向きな私と違って、母性が強いマオちゃんは私の何倍も「痛い」のだろう。
それでもやらないといけない。
だって本当に今一番痛い思いをしているのは…。
「原初の神様は…ずっと苦しいままなんだよね」
「うん、だから私たちが終わらせてあげよう」
マオちゃんと見つめ合って、頷き合った。
これで方針は決まった。
悲しい気持ちも苦しい気持ちも分かるけど、世界を終わらせるわけにはいかない。
私たちは原初の神様を倒す。
「あともう一つ。この石を作った人物の存在の事もあります」
「あぶな。忘れかけてたよ~くっちゃんナイス」
褒めたらクチナシは無表情で私にピースを向けてきた。
急にお茶目になりおってこいつめ。
「その方の情報はでも何もないのですよね?」
「そうなんだよね。でもそっちに関してはどちらかと言うと私の問題だからみんなはマリアさん…原初の神様のほうをお願い」
極端な話をするのなら実際そちらはどうでもいいのだ。
この問題には関係がない。
その人物をぶちのめしたところで世界が救われるわけでもなし。
しかし私にはなにがなんでもそいつをぶち殺してやらないといけない理由があるわけで…失敗なんてするつもりはないけれど下手したら世界が終わるかもしれないのだ。
もしそうなってしまったら敵討ちの機会は永遠になくなってしまう。
だから先に見つけ出して…殺す。
これは一人で抱え込むとかではなくて、私がやることに意味がある事だから。
「わかった。じゃあリリはとりあえず得意の情報収集だね」
「得意ではないけどね!」
マオちゃんに茶化されてしまった。
でもまぁ要所要所で足を使っての情報収集はもうお決まりの展開ですよ!
「しかし今は原初の神のほうも行方が分かっていない状況です。まずは出かけている皇帝さんと悪魔神さんにも情報の共有をはかるべきではないですか」
またもやクチナシがまとめてくれる。
うんうん、実に有能な妹である。
「じゃあそっちには私が行くよ。コウちゃんどこにいるんだろ?」
「ふむ…どうやら例の王国にいるようですね。念のために私も一緒に行きます」
「おっけ~。じゃあとりあえず行ってくるね」
マオちゃんとメイラを残してクチナシと共に部屋を出た。
そう言えあの二人の組み合わせってあんまりない気がする。
…普段どういう会話をしているのだろうか?マオちゃんとメイラ…全然会話の内容が予想できない。
そんな事を考えていると、くいっと服を引っ張られた。
「ん?どうしたのリフィル」
振り向くとぬいぐるみを抱えたリフィルがいた。
「リリちゃん、こーちゃんのところに行くの?」
「うん、すぐに戻ってくるからマオちゃんたちとお留守番しててね」
「…わかった~」
何かを考えるようなそぶりを見せた後にリフィルは小走りで自分の部屋に戻って行った。
「どうしたんだろ?」
「準備出来ました姉様」
「お、ありがと。では出発~」
「姉様」
空間移動の穴に入ろうとした時、クチナシが私に向けて手を差し出してきた。
…なんだろう?エスコート的な?
とりあえず差し出された手に自分の手を重ねてみると、本当にエスコートされるように優しく手を引かれた。
まさかこの子、これがやりたくてついて来たんじゃないよね?「姉様」って呼ぶのも二人きりの時だけだし。
可愛いところあるじゃん。
そんなこんなで空間移動した先で…なんとコウちゃんが少し前に我が家に現れた気持ちの悪い人形と対峙していた。
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