第129話 クチナシ人形による人形少女の力

 マスターと龍神の戦いが始まりました。

私がこの姿で戦うのは初めてですが…おそらく問題はないでしょう。

それより気になるのは龍神が私の存在を疑問に思っている様子がないところですね。

彼女は私が産まれて初めて戦った相手…つまりマスター曰く「巨大人形ちゃん」だった時の私しか知らないはずで…今の状態の私を気にせず受け入れているという事はどこからか情報が漏れている?

私の事を知っているのは限られます…そして漏らした可能性があるのは現在拉致されている魔王様と皇帝…いや悪魔神さんのほうですかね。

ここは慎重に行動したいところですが…マスターから伝わってくる焦燥感はもはや目の前にいる敵に対する明らかな殺意に変わってしまっているので無理でしょう。

進言する?いえ、私がやるべきことはマスターのサポート、それだけです。


「どうした?来ないのかガラクタ人形」

「…」


挑発に乗ったわけではないでしょうがマスターは無言で腕の刃を展開して龍神に斬りかかった。


マスターは自分に興味がない。

自分が何者なのか、自分の能力、出来る事…自分に関わる全ての事に対して「どうでもいい」と思っている。

以前悪魔神さんがマスターについてとても大事な話をしていましたが聞き流していたくらいに興味はないです。

故にマスターは自分の力を理解しておらず、戦い方も効率的にできているとは言えず…今だって実はマスターは自分が直接戦うよりも魔法を使ったほうが圧倒的に強いはずなのです。


その魔力は常軌を逸していて、また魔法のセンスもとてつもない。

どうやらマスターは魔法なんてなんとなく知っていれば使えると思っているようですがそんなわけはない。

もし本当なら世の中は地形すら変えられる魔法をいたるところで撃たれまくる地獄のような光景になってしまいます。

魔力なんて足りない分を補う方法なんていくらでもあるのですから…。


つまりは膨大を通り越して異常な量の魔力と複雑な処理や修行などの必要な工程を全て無視してありとあらゆる魔法を使うことのできるセンス。

…弱いわけがありませんよね?むしろ武術などの動きができないマスターは接近戦より魔法による遠距離戦が圧倒的に強いのは当然です。


しかしマスターはそれを理解していないので斬って殴ったほうが強いだろうと思っているわけですね。

それとなく指摘をしたこともありますが「…?」とあまり良く分かっていなかったようなのでもうあきらめています。

ならば今できる範囲で最大限サポートするのが私の役目。


「ねえねえねえねえねえ!急いでるんだからさぁ…ちょこちょこしないでよぉ」

「言ったじゃろ、ワシの目的は時間稼ぎだと」


マスターの斬撃は龍神にひらりと躱され、マスターが冷静でないのも合わさっていいように遊ばれているように見える。

さぁ私も始めましょう。


両手の指から赤い糸を伸ばし、周囲を包んでいる闇の中につないでいく。

マスターは自らの力である惟神についても一切理解していない。しかし私はこの力の全てを理解している。


惟神発動時に周囲を包む闇はマスターの持つ「創造」の力の塊でこれを媒介に無数の人形を生み出すことができる。

素早く、そして大量に創造できるのは下位の脆いパペットだけだが、どれだけ脆くても、どれだけ弱くても惟神の力だ。

例え神であっても一切の対策なしで攻撃を受けるとダメージを負う。


故に相手は絶対にこれに対処をしないといけないわけだがパペットはほとんど無限と言っていい数を引っ張り出すことができる。

もちろん創造の力を使うたびにマスターの魔力を消費するがだいたい千体のパペットを闇の中から引っ張り出すことでマスターの魔力の1パーセント程が消費される。


さらにマスターはその身に始まりの樹の枝という存在自体が惟神とでもいう物を現在二本宿していて、それにより魔力は時間が経てば無限に供給される。

決して強くはないが無視はできず…しかも無限に現れるそれは実に厄介でしょう。


私の糸に引っ張られ、のっぺりとした特徴のない人形たちが現れ龍神に襲い掛かっていく。


「ちっ!有象無象のガラクタがわらわらと!」


ちなみに人形たちには私と違い、意志という物がないので全て私が動かしているのです。

マスターの邪魔にならないように、それでいて相手が嫌がるように無数の人形を操る…これが実はちょっと楽しい。

しかしやはり言われた通り所詮は有象無象…うざったいだけで簡単に壊されていく。

だが確実に龍神の動きは制限されているのでマスターの攻撃は躱しにくくなり…ついにその首を捉えた。

と思った時、龍神の姿が消えて私の目の前に現れた。


以前も使っていた龍神の瞬間移動能力…さらにはその腕に鋭利な刀が握られている。


「【鬼を討ち取らんがため 魔を裂く刀を手に立ち上がれ】聞いているぞ。貴様がこの世界を管理しているガラクタだとな」


その刀からは尋常でない力が感じられ、おそらく私を一撃で切り伏せることが可能であると察せられた。

私はもちろんマスターでさえも不死身ではない。

殺されれば死ぬのだ。


この惟神の力の一つに「損傷変換」という物がある。これは赤と青色が混じったような気味の悪い液体をこの世界から取り出し、損傷した部位にかけることでその部分を損傷する前に戻せるが…死んでしまってはどうしようもない。


以前皇帝と戦った時にマスターが顔に攻撃を受けたときがありましたがあの時は本当に危なかった。


まぁそんな話は置いておきまして…今は私に振り下ろされようとしている刀の事ですね。


さてどうしたものか…と言ってみたり。

龍神のセリフからやはり私の事が知れてしまっているようです。ですが他人の事を知ろうとしたのなら自分の事も知られている可能性を考えるべきです。


「あなたの惟神は物語をなぞる能力…ページをめくることでその対応した話の能力を得る。そしてページをめくった際の余波で瞬間移動のようなことができる…でしたか?」

「な!?」


龍神が一瞬躊躇した隙をついて身体をそらし刀を紙一重で避けることに成功した。

そのまま新たな糸を操り特別な人形を引き寄せる。

この惟神の力による「魂搾取」による呪いを受けた物の魂の一部を強制的に奪い取り、その能力を完全にコピーした人形を作り上げるの力。

それにより現れるのはレザの見た目と能力を得た人形。

それが龍神の背後から覆いかぶさり大爆発を起こす。


「ぐっ…!くそ!」


さすがに龍ですね。いくら破壊の力が込められた爆発でもそれほどダメージを受けている様子はない。

ですが、


「死ね」

「ちぃ!」


さらに背後から迫っていたマスターの斬撃が龍神の片腕を斬り飛ばし、さらに追撃をする。

私も新たな人形…べリアの見た目と能力を持った人形を生み出し炎の力で攻撃をさせる。

そこで再び龍神の姿が消え、私達からは距離を取った場所に再出現する。

腕に握られていた刀はその姿を消していた。


「ページめくりによる瞬間移動を使うたびに発動していた能力が消えるのも本当だったようですね」

「…そこの白いガラクタ…貴様なぜ…」


「あなたと同じですよ…あなたの事を知っている人にお話を聞いただけです」

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