第130話 クチナシ人形による能力講座

「ワシを知る者だと?…ちっ、あのガキめ。ワシを売りおったな…というかやはり貴様ら帝国と繋がっておったという事か。最初からおかしいとは思っておったのじゃ…帝国のガキに会いに行ってみれば怨敵であるはずの悪魔神のやつがいた事に始まり、問うてみればやけにお前たちの情報を持っていたからな…」


やはり龍神は私達と入れ替わりで帝国に向かい、皇帝さんと悪魔神さんから私たちの情報を得たらしい。

皇帝さんは私の呪いにより精神的なところで私達の不利になるような行動はとりにくくなっている…ならばおそらくは情報を漏らしたのは悪魔神さんのほうだとは思いますが…その時の状況を詳しく知りたいところですね。


ちなみに私が龍神の能力を知っているのは皇帝さんからの情報で間違ってはいない。

こちらもそこそこの物を差し出しはしましたが話を聞いておいて正解でした。


「なにグダグダ言ってるのか分からないけれどさぁ…どうでもいいからさっさと終わらせようよ」


マスターのイライラがこれまでにないほどに高まっている。

その言葉は龍神にはもちろん私にも向けられたもののようだった。

私はただでさえマスターに個人的都合で戦力の低下を招き、一度直接危害を加え、さらにその言葉に逆らうという創造物としてここに居るのも恥ずかしいほどの醜態を連続で晒している。


きっとマスターはそのことを根に持っているわけではなくて純粋に今この状況に苛立っているのはわかるけれど…だからと言ってこれ以上マスターの意に反していい理由にはならない。


「申し訳ありません。至急行動を再開します」

「ちっ!」


龍神に一斉に人形たちをけしかける。

片腕を失ったことで対応力が大幅に落ちたのか先ほどよりも目に見えて苦戦している。

そこにマスター本人も参戦したのだがそこで龍神の残った腕が変化を起こし、白銀に輝く鱗のようなものに覆われた鋭い爪を持つものになった。


「【死中に活 追い詰められた英雄は最期の一撃に全てを懸け世を救え】カウンターストライク…!」


異形の腕がマスターの胸を貫いた。


「マスター、止まらないでください」


その私の言葉が伝わっているのかいないのか分からないけれどマスターは動きを止めずそのまま龍神の首に刃を押し当てて少しずつ押し込んでいく。


「な…!なんでまだ動ける貴様!」

「知らないよ」


胸を貫かれているせいかなかなか前には進めず、しかしそれでも確実にマスターの刃は龍神の首を切り落とさんと食い込み、血を流させる。

今の龍神の能力…あれがたぶん「絶対反撃」とかいう相手の攻撃に対して致命傷となる攻撃を持って反撃するという能力で間違いないでしょう。


まともに相手をするとまさに厄介極まりない能力ですよね。こちらの攻撃は当たらないのに向こうからはほぼ即死の攻撃が飛んでくるのですから。

しかしマスターには命の身代わりがあるのですよ。


私の視界の隅でレザを模した人形がマスターと同じ傷を負ってボロボロと崩れていく。

この人形は他人の魂の一部を強制的に徴収して人形に押し込める力で、その魂の持ち主の能力を使えるだけではなく今のようにマスターの死を肩代わりしてもらうこともできる。

もっとも一部とはいえ魂を犠牲にしているので今でいうのならレザはかなり苦しい思いをしているはずなので後程菓子折りでも持って行こうと思います。


そんなこんなでマスターの刃が数センチほど龍神の首に食い込んだところでその姿が三度消える。


「【傷ついた龍は川を下り 聖なる泉にてその身体を癒す】」


そして姿を見せたかと思えば欠損していた腕と首が元通りに治癒していた。

龍神の能力は驚異の一言に尽きる。


恐ろしい切れ味を誇る刀に絶対反撃、それに完全治癒…正直無茶苦茶だし多様性のあまり対処のしようがない…ように見えるが実は弱点がある。


本のページをめくり能力を得る。つまりは一度に能力を複数使うことはできないのだ。

さらにはページの巻き戻しも行えない…つまりは一度次の能力に移行すると前に使っていた能力を再び使うことはできない。


なので一つ一つにこうして対処していけばそれに対抗するために別の能力に切り替えて行くしかないので逆に追い詰めることができるのです。


そして龍神の能力は全部で五つ…そして現在使ってくれた三つの他にもう一つはこの場では役に立たない能力だというのも分かっている。

最初にマスターや私と出会ったときに使っていた自分の眷属の能力を底上げするというアレですね。

というわけで残るのはあと一つ。


「下手に出れば調子に乗りおってからに…一度痛い目を見せなければ大人しくならんらしいな!」


小柄な少女の見た目をしている龍神の身体が少しづつ異形の物に変化していく。

先ほどの腕の様に白銀の鱗を持つしなやかで、それでいて強大で荘厳さを持つ龍…龍神クラムソラードがその本当の姿をついに見せた。

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