第131話 人形少女は止まらない

 白銀に輝くしなやかな身体に巨大な翼。

鋭い爪が備わった身体に対して大きめな四肢。

闇に包まれた世界で銀の光が降り注ぎ、それが強大な存在であることをこれでもかと主張していた。


「ガラクタ共にこの姿を見せるのは業腹だが仕方がない。感涙にむせび泣きながらひれ伏せ!」


高く飛び上がった龍神の口元に巨大な魔法陣が展開され銀色の眩い光が集っていく。

どうやらなにか大技が来そうな予感ですね。


「マスター」

「ん?」


「少しだけ時間稼ぎを。ここできめます」

「おっけー…と言いたいけれどどうすればいいのかな」


「魔法で対抗してください」

「魔法ねぇ…」


マスターが龍神に両手を向ける。

するとその手の中に赤く燃える炎、激しく流れる水、荒れ狂う風、鋭く硬い岩、痛いほどに眩しい光、底の見えない深い闇…その全てが集い交わって一つの塊になっていく。


「何をしようと無駄じゃ!偉大な龍の息吹を受けるがいいわ!」


龍神の魔法陣から闇の世界を消し飛ばす勢いの光の奔流が放たれた。

真正面から受けるとかなり危ないけれど…マスターなら何とかしてくれるはず。


「オリジナル魔法…カオスブラスター!」


同じような勢いでマスターの手から全ての属性が混じり合った魔法が放たれた。

二つの強大な光の柱がぶつかり合い、すさまじい音をたてて拮抗する。

拮抗とは言ってもどちらかと言うとマスターのほうが少し押されているのであまり時間をかけるのは得策じゃないですね。

私は隠し持っていた切り札をきった。…いや私がというよりはマスターの持っている物なのですがマスターはそれを知らないので私が隠し持っていると言ってもおかしくは無いはず?


そんなこんなで私が呼びだすのは一体の人形…龍神はまだ気づいていないが龍神の背後からその人形は這い出して来る。

この闇に包まれた世界は全てがマスターの能力の一部。どこからでも人形を出現させることができる。

私が呼びだしたのは神を模した人形…人世の神である皇帝さんの魂を借りて創造された人形だ。

さすがに他の人形のように能力を完全に再現することはできないけれど、それでも一撃分くらいなら皇帝さんの惟神を再現することもできる。

そして皇帝さんの惟神の能力はその一撃があれば十分相手を倒せる。


龍神が背後から落ちてくるように迫っていた人形に気が付いた。

しかしもう遅い。


「なっ…!これはあのガキの人形…!?」

「この世界は個ではなく群、そしてその全てがマスターの力そのものです。それを失念していたあなたの負けです」


皇帝さんを模した人形の腕に握られた光の刃が龍神の背中に突き立てられた。


「うぐぁああああああ!!?」


さすがに形を留めておくことができずに人形の身体がボロボロと崩壊していく。

だが龍神も刃を受けた背中から光の亀裂が走り、身体が崩れていく。


「ほ~すごいじゃないクチナシ」

「…マスターは少し自分の能力に目を向けるべきだと具申します」


「まぁそのうちね。君がいてくれて私は嬉しいよ」


それはつまり今後も力の使い方を覚えるつもりはないという事ですかね。

いえ私の存在意義はそれなので別にいいのですが…。


――――――――

≪リリside≫


「さてじゃあ終わらせようか」


少女の姿に戻り、なんとか生きていると言った状態で座り込んでいる龍神の首に刃を当てる。

無駄な時間をかけてしまった…急がないとマオちゃんと子供たちが心配だ。


「…待て、ワシの話を聞け」

「聞かない」


さっきはスッと刃が通ったような気がするけれど何故か今は通らない。すごく硬い…見た目は女の子の首なのになんだか見た目との違和感がすごい。


「いいから聞け。ワシは魔王の小娘の場所を知っている。本当はしばらく遊んだ後に伝えるつもりだった」

「あっそう」


今度は上から勢いをつけて振り下ろす。

あ、入った入った。

刃が少しだけ龍神の首に通ったのでそこに力を入れて押し込んでいく。


「ぐっ…っあ!話を聞けと言うとるだろうが!魔王の小娘の場所を伝えると…!」

「信じられるわけないじゃん。こうやって散々時間をかけされられたのにまた騙されるかもしれないし殺したほうが確実」


「いいのか?ワシは本当に場所を知っている。ここでワシを殺せばそれこそ手遅れになるかもしれないぞ」

「じゃあ今教えてよ。ほら早く」


「言えるわけなかろう。取引じゃ、ワシを解放しろ。そうしたら連れて行ってやる」

「じゃあいいよ。死んで」


刃はどんどんその首にめり込んでいき、血が流れていく。

時間かかるなぁ…もっとスパっといけないかなぁ。


「冷静に考えろ!貴様の目的は魔王の小娘でワシではないだろう!?いいのか赤子も囚われておるのだぞ!心配ではないのか!」


さっきからギャーギャーと本当にうるさい。


「心配に決まってるでしょう?」

「ならば…!」


「ねぇ…ねえねえねえねえねえ!うるさいんだよ!今そんな話をする段階じゃないんだよ!早くマオちゃんたちのところに行かないといけないのにさぁ…グダグダグダグダと…」

「じゃからそれをワシが…!」


「じゃあ早く言って。できないのなら殺す。どうせこの件に関わった奴は皆もう殺すしかないんだし同じことでしょう?あなたが本当の事を言うのでも嘘を言うのでもそれを本当かどうか私達には判断できないしどちらにせよ殺すんだからここでやってしまったほうが面倒がないでしょう?ね?」

「貴様…」


マオちゃんはみんな探してくれてるし私ならきっと探し出せる…だから今はこの私から家族を奪おうとした害虫を駆除しないといけない。

私は私から大切なものを奪おうとするものを許さない。


そして龍神の首が飛んだ。


「愚か者め…後悔するで無いぞ」


不思議な事に龍神の首と胴体は風に解けるようにして消えてしまった。


「あれ?」

「…どうやら逃げられたようですね」


「ふーん…まぁ後で探し出せばいいよ。絶対にこのままにはしておけないからね」

「その点はあまり心配しなくてもよいかと」


「そうなの?」

「はい。居場所は分かりますので」


クチナシがそう言うのならそうなのだろう。

ならば早くマオちゃんたちのところに行ってあげないと…あぁ思い出したらなんだかすっごく胸が痛くなってきた。

もし…もしも三人に傷でもつけられていたら…。


「マスター。考えるのは後にしましょう」

「…そうだね」


私は考えを振り切り、惟神を解除してマオちゃんたちを探しに戻った。

その時、遠くから何かを砕いたような…いやそんなものじゃない、爆発音のようなものが聞こえてきたのだった。

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