第128話 人形少女は再戦する

 マオちゃんと子供二人がいなくなった。

それを告げられた私がどういう行動にでたのかいまいち思い出せないけれど…気が付けば魔王城の部屋はボロボロになっていて私の目の前にはここの使用人たちが震えながら立っていた。

えっと…なんでこんな事になってるんだっけ?あぁそうだマオちゃんがいなくなって…探しているうちに使用人たちの話が食い違ってるって誰かが言い出して…。

あぁむかつくなぁ…。


「んで、マオちゃんと子供たちはどこ?」

「わ、私達はなにも…」


使用人たちは私を前に震えるだけでほとんど何も言ってくれない。

なんだこいつら?


「落ち着いてくれリリ。最後に魔王様と話したものは誰だ」

「それは…」


一緒に探してくれていたレザ君が焦りながらも冷静な声色で使用人たちに尋ねると全員の目が一人の使用人に向けられる。


「お前だな?その時はどんな話をしていた」

「い、いえ!私は何も…!ただ時間になったので魔王様をお呼びしただけで…」

「その時子供たちは?マオちゃんと一緒だったはずだよね?」


私が訊ねると使用人は目を泳がせながらオドオドして汗を大量に顔からにじませる。


「「何も言っていませんでした…!」なのでほったらかしにしておくのだろうと私もそのまま…」

「リリ!!」


レザの切羽詰まったような声が聞こえたけれどなんだろう?うるさいなぁ。

ただ馬鹿な事を言う使用人さんの首をへし折ろうと掴んでいるだけなのに。


「あ、あぐうぅ!」

「ねえ?ねえねえねえねえねえ。マオちゃんがあの二人をどれだけ可愛がってるか知ってる?知らないはずないよね?ね?マオちゃんは絶対に子供をほったらかしになんてしない。いつだってそうだし今日もレザ君含め私たちも待機してた。なのに誰にも声をかけようとしなかったの?ねえ?どうなの?ねえねえねえねえねえ」


ゆっくりと首を掴む手に力をこめていっていたところで私の腕をクチナシが掴んだ。


「なに?」

「マスター。まずは話を彼女から聞き出すのが先です。現在手がかりは彼女しかいませんから」


言われてみればそれもそうだ。短気はいけないよね、うん。

力を抜いて手を離すと使用人が崩れ落ちて苦しそうに咳込む。


「わざとらしく咳なんてしてないでさぁ~早く話してよ~本当にマオちゃんは何も言ってなかった?」

「ひっ…!」


「どうなのさ?早く言ってよ。言えって。ねえ?聞こえてる?」

「も、申し訳ありません!」


顔を近づけてお願いすると使用人は額を地につけて話し出した。

マオちゃんからは子供たちを私に預けるためにレザ君かべリアちゃんに声をかけるように言っていたこと。

そしてそれに従わずに子供たちをマオちゃんを誘拐したやつらの仲間に引き渡したこと。


「仕方がなかったのです!私も脅されていて…!逆らったら何をされるかわからなくて…!!」

「ふーん…ところでこれ何かなぁ?」


使用人の服を掴んでお腹の辺りを破ると肌着に括りつけられるようにして金貨の入った袋が見えた。


「これは…ちがっ…!」


まだ言い訳をしようとするのが心底気持ち悪くて…うざくて脛の部分を踏みつけてそのまま踏み砕いた。


「いっ…!!?あああああああ!!!」

「どうでもいいからマオちゃんと子供たちがどこにいるのか話して」


「し、知りません!本当です!ただ私はあの子供たちを渡しただけで…!信じてください…!どうかご慈悲を!」

「そっか知らないんだ。じゃあもういいよ」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「うるさい」


これ以上そいつの声を聞くのがたまらなく不快だったので首を折って黙らせた。

他の使用人たちはそれをみて悲鳴をあげたりしていたけれどどうでもいい。


「マオちゃんたち…探しに行かないと…」

「リリさん!少しだけ落ち着いてください、一度冷静になりましょう」


メイラが私の肩を掴んだけれど落ち着けと言われて落ち着けるような状態じゃない。

今にも衝動に身を任せて暴れてしまいそうだ。


「マスター」

「…なに」


「近くに覚えのある気配があります。おそらくは私達を誘っているのではないかと」

「ふーん」


私はすぐに空間移動で魔王城の外に出るとそこに確かに見覚えのある少女が立っていた。

前世での黒いセーラー服を着た10代前半くらいの容姿をした少女。


「龍神さんだっけ?何か用かな…それとももしかしてマオちゃんの事知ってる?」

「…ああ」


それを聞いた瞬間に私は龍神に斬りかかっていた。

それを読んでいたのか何なのか辺りの空間がぐにゃりと歪むような感じになって、気が付けば魔王城から少し離れた場所まで飛ばされていた。


「どういうつもり?」

「はぁ…いやなに、少しお前を足止めしてくれと頼まれてな。ワシも乗り気ではないのだが少し付き合ってもらうぞ」


「ふざけないでよ。こっちは遊んでる精神的余裕なんてないんだよ?邪魔をするのなら…」

「まぁそう言うな。どうせお前はワシに付き合うしかないのだからな…惟神 万象御伽噺 神綴リ儚ミノ昔話」


景色に変化はないけれど、明らかに周りの空気感が変わった。

どうやら本当にやるつもりらしい。

本当にイライラする…何なんなの?どいつもこいつもなんで私からマオちゃんを奪おうとするの?

あぁめんどくさい…もう殺そう。


「クチナシ」

「ここに」


呼びかけると私の背後に闇が広がってそこからクチナシが姿を現す。


「やるよ。全力で」

「はい」


「惟神 万象傀儡遊戯 君死ニノ人形劇」

「【第三幕】神悪戯夢散咲夜(かみあそび ゆめちりさくや)」


周囲が闇に包まれて隔絶される。

しかしいつもとは違い、私の背後には鮮やかな桜の木が存在していて闇の世界を彩っていた。

どうやらまた何か変わってしまったようだけれど…今はそんなことどうでもいい。

ただ目の前にいるこいつを

私の邪魔をするこいつをぶち殺してマオちゃんのところに行く。それだけだ。

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