第64話人形少女は皇帝に会う
とりあえず心の赴くままに暴れては見てみたけれど…私の心は全く晴れはしなかった。
そりゃあ少しはすっきりしたけれど、腕の中の物言わぬ二つの亡骸が私の中にどんよりした何かをくべていく。
もうこれ以上はいろいろと良くないと思い、二人の亡骸を闇に向かって差し出す。
すると私の意を汲んでくれた大きな人形の腕がそれを優しくつまんで闇の中へと消えていく。それと同時に世界を包んでいた闇も消えていき、元の景色に戻る。
そうして残ったのはメイラが拾い上げた二枚の銀貨だけだった。
「なんかさ~色々とさ、どうしてこうなっちゃったんだろうね」
「リリさんのせいではないと思いますよ」
そっか~私のせいじゃないのかぁ~…じゃあ誰のせいなんだろうか?
私が今殺した人たちが悪いのか?でもだったらなんで私の心はモヤモヤしたままなのか…それはまだ悪い人がいるってことじゃないのかな?だけど私にはそれが誰なのかわからない。
「あの、これ」
「あぁ…ありがと」
メイラから二枚の銀貨を受け取った。
「こんなもののためにあの子たちは死んじゃったんだね~…私って働いたことないけれど、そんなに大金なの?」
「まぁそこそこの金額ではありますが…それよりも問題なのはこの場所でしょうね」
「ん?」
「わかりませんか?ここはいわゆる貧困層…みんながお金も食べ物もなくて困ってる、そういう場所だからお金を持ってた弱者が狙われたのです」
なるほどね…メイラは悪いのはこの場所そのものだという。
だったらここを跡形もなく破壊しつくせばスッキリする?いや、そういう事じゃないよね。
この環境を作り出している誰かが悪いのだ。そしてそれは…。
「・・・」
私から見て右上の辺り、そこにさっきからずっと視線を感じていた。
少しだけ残っていた闇からその場所に向けて巨大人形が手を振っている。しばらくして気配は消えたがわざとらしく魔力の痕跡が残されたままだった。
「メイラ行こうか」
「どちらにですか?」
「さぁね~でもこっちに来いって言ってるみたいだからさ~」
「…?」
よくわかってなさそうなメイラの手を引いて空間移動を繋ぐ。
普通は知っている場所にしか行けないけれど、前にもやったけれどこちらに干渉するなどしてその場所とこちらに魔力の痕跡が残っていると、その場所にも行けるのだ。
魔法を発動して通り抜ける。
メイラはこの感覚が少し苦手らしい。しかしそんなことも言ってられないので無理やり連れてきてしまった。
そんなこんなで到着した場所は無駄に広くて豪華なつくりの広場のようなところだった。
前世のテレビでしかお目にかかったことの無いような水が流れる石造とか、花で出来たアーチとかある感じのやつ…。
そんなところで私達を待ち構えていたのは、あの教主だった。
「よくいらっしゃいました、我が神よ」
わざとらしいほどに丁寧な礼をする彼に若干ひきつつも無視して先に進む。
すると大きな白いテーブルに豪華な料理が並べられた場所にたどり着き、その先…私と向かい合うように身体の半分を不自然にローブのようなもので覆い隠した銀髪の女性が偉そうに座っていた。
「あなたが皇帝さん?」
「いかにも。よくわかったな?やはりお前の目にも我は偉大に映るか?」
「うん。なんとなくだけどなんかすっごく強そうだし…座り方が龍神にそっくりだったから。たぶんだけど神様って奴なのかな?」
「はははは!なんだ、あのババアにもすでに会っていたのか。しかし座り方が同じか…ふむ、それは地味に嫌だな」
そう言うと皇帝は立ち上がって、尊大な態度でその豊満な胸を張った。
「あらためて、我こそがこの国を治める皇帝。フォルスレネス・アルクルセレスという。一応だが24代目皇帝ということになる」
「一応?」
「まぁその話も後程しよう。まずは食事でもどうだい?うちの料理人が腕を振るった自信作だそうだ。きっと満足できるはずだ。あぁそっちの悪魔には…さすがに人肉は出せないがね」
メイラは特に反応することなく、私の後ろに使用人の様に控えていた。
なぜか教主もその隣に同じように立っている。なんなんだお前は。
まぁそれは置いておいて、一応用意された席に座るも不思議と食欲はわかない…おかしいな食べることは好きなのに手が伸びない。
「どうした?人間の食べ物は口には合わないか?」
「ううん、それよりも何か用があるんだよね?」
そもそも呼び出したのはむこうなのだから先に聞いておこうと思っただけなのだけれど…私の言葉に反応するように鎧をがしゃがしゃ言わせながら男が剣を構えて私に向かってきた。
「貴様先ほどから我らが皇帝に無礼だぞ!」
「別に無礼なことしたつもりはないけれど?あ、いやもしかして私のほうは名乗ってなかったかなぁ?ごめんごめん。リリですよろしく」
言われてみれば挨拶をしていなかったと思い至り、反省の意も込めて名乗りながら頭も下げた。
挨拶は大事だからね、これは私が悪かった。
「貴様…!馬鹿にしおって!!」
それでも男が剣を振り下ろしてきたので、めんどくさくなり首をはねた。
首を失った胴体が力なく倒れ、血が地面を汚す…かと思いきやメイラが血をまたあの不思議な力で集めてくれたので汚さずに済んだ。よかったよかった。
「はははは!いいなお前。思った以上に命を奪うことに抵抗がない…そうこなくては」
「怒ってる?」
「いいや?何もするなといいつけていたのに我の意に反して独りよがりの行動をとる部下などいらないさ。ちょうどよかった、そこの悪魔のメインディッシュもできてまさに一石二鳥というやつだ」
「だってさ。メイラ、お肉もらったら?」
「はい」
メイラが集めた血が、触手の様に動き出し、男の身体を解体し始めた。
それをしり目に私は皇帝に向き直る。
「さて…それではそろそろ本題に入ろうか?」
皇帝はその半分しか見えていない顔でにっこりと笑った。
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