第44話 人形少女の嗤う舞台4
「なんで…こんなことに…」
レザは茫然と赤い糸に吊られたべリアを見つめていた。
その身体は取り込まれた先で破れたのか左腕と両足が剥き出しになっており、その部分はリリと同じように人形のそれになっており、糸に揺らされると歪な音を鳴らしていた。
「…っ!」
たまらず飛び出したアルギナが大鎌をべリアを吊っている糸に振りかぶる。
それはあっさりと切れて霧散して消えるが、その瞬間何処からともなく糸が再びべリアに絡みついていく。
「べリアを元に戻せリリー!」
レザが銃から光の弾を数発、リリに放つがまたもや巨大な腕がリリを守るように包み込み、ダメージを与えられない。
またいつの間にか先ほどレザが与えたダメージも修復されており、流れ落ちていた赤と青の液体もどこにも見当たらなくなっている。
「うーんでもほら…暴れられても嫌だしこのままで~。大丈夫!人形の身体も慣れればそう悪い物じゃないよ!」
アルギナがリリに大鎌で斬りかかる。
巨大な腕が盾となり、大きな衝突音が響くもどちらにもダメージはない。
「お前は…どこまで私たちを踏みにじれば気が済むんだ…!」
「そんなことしてるつもりはないんだけどなぁ…」
「どの口でそのようなことを!」
アルギナの大鎌が巨大な腕を切りつけていくも先ほどのレザの時とは違い、傷一つつけることも敵わない。
(なぜだ?今の女狐の攻撃の威力は先ほどの破壊の小童よりも高いはず…どうして先ほどとは違い傷一つ入らない…?まさか先ほどはわざとダメージを受けた?そんなことをする必要がどこにある?)
リリの惟神の能力を少しでも暴こうと考えを巡らせていたクラムソラードはべリアの糸に吊られていない部分、右腕がかすかに動いていることに気が付いた。
(あの右腕…まさか人形化が及んでいないのか?ならば)
クラムソラードは能力を使い、べリアの大剣を探し当て、気づかれないようにその右腕に握らせた。
ほんのわずかだがべリアの首がこちらに向かって動く。
礼を示したようだがクラムソラードにはどうでもいい事で、それよりもこの状況の把握が大事だった。
そしてレザはそんな一連の動きを確認しべリアのほんの少しだけ光が戻った目とアイコンタクトを取り頷いた。
「アルギナ様!」
「はぁあああああああああああああ!!!!」
アルギナの力が膨れ上がりありとあらゆる属性の魔法がその大鎌の動きに合わせて発動し、巨大な破壊の衝撃を巻き起こす。
やはり腕に傷は入りもしないが衝撃は伝わっているらしく少しずつ押し返されていく。
しかし人形も大人しくやられているだけではなく、もう片方の腕をアルギナに振り下ろして…。
「させるかぁああああ!!!」
振り下ろされた腕に、レザのありったけの力の込められた銃弾が腕を押し返すように着弾した。
それにより腕の動きはわずかに鈍り、さらにはアルギナが相手にしてたほうの腕も少しだけ弾かれていた。
これによりこの一瞬…ほんの僅かな希望を彼らは掴んだ。
「べリアあぁああああああああ!!」
「死ねぇええええええええ!!!」
レザの叫びを受けたべリアが自由に動く右腕でその大剣を防御の無くなったリリに投げつけた。
「「「届けえええええええええ!!!」」」
かくしてその三人の全てを懸けた一撃はリリに届き、その腹部をえぐるように大剣が貫通し、その身体に大きな風穴を開けた。
「─────────────!!!!!!!!!!!!」
闇の世界を声にならない悲鳴が駆け抜けた。
「────────!!!────────!!!────────────────────────!!!!!!!!!!」
それはリリの物ではない。
もちろんアルギナたちでもない…叫び声は頭上の大きな顔から発せられていた。
口がないので喋れないはずだがその叫び声は確かな音となり、聞く者の耳と頭を破壊しそうなほどの耳障りな叫びだった。
「なんだこの音は…!」
「頭が割れる!!」
「ちぃ!」
パチンとクラムソラードが指を鳴らす。
それにより不快な音はアルギナたちに届かなくなった。
しかし問題はそれで終わらず…今度はその巨大な二本の腕がでたらめに暴れだした。
「めちゃくちゃしおってからに!!ページをめくれ!」
再びクラムソラードの能力が発動し腕の届かない位置まで三人を移動させる。
しかしクラムソラードの眷属から外れ、糸により身動きがとれないべリアは移動することができず…その腕がべリアに迫る。
「ひっ…!」
「べリアーーーー!!!」
「落ち着いて」
そんな先ほどの耳に残る不快な金切り声とは真逆の、綺麗で耳にすっと入ってくる美しい声がして巨大な腕の動きがぴたりと止まった。
その声の主はリリ。
腹部に穴が開いているのも構わず、いつもの微笑みを絶やさずにそこにいた。
「大丈夫だからね~暴れないで」
その言葉に反応したのか巨大な人形の動きはおとなしくなり、その頭上にあった顔はゆっくりとリリの背後まで移動した。
そしてその巨大な腕がリリの頭上まで行くとそこから赤と青の液体が流れだし、不思議な軌跡でリリの腹部を埋めていく。
やがてその液体は色はおろかその性質も変化していき、数秒後にはリリの腹部は元通りに修復されていた。
「そんな…あれでも届かなかったというのか…!」
「それどころかむしろ悪化してしまったやも知れぬぞ?」
クラムソラードの視線の先…今まで頭上にあったから意識をしなければ見ることは無かった巨大な人形の瞳がリリの背後に回ったことで正面からこちらを見つめている。
「あれはどうやら自立して行動しておるようじゃのう…本来「惟神」はその性質上、自立行動する能力を生み出すなどありえない…まだ何かあるのか…?」
変化はその瞬間起こった。
闇の中からまた人形が這いずる音が聞こえたと思えば今度は腕だけでなく、大量の人形たちが闇の中から姿を見せた。
その数はゆうに100を越え、数えるのが億劫なほどだった。
人形たちには顔に当たる部分には目や口などは何もなく…例えるのならデッサン人形のようにシンプルな見た目をしていた。
「もうね~ほんとにね~私は話を聞いてほしいだけのにさ…なんでみんなそんなに私の事嫌いなのかなぁ…まぁいいや。そのあたりの誤解もおいおい解いていこうと思いますですはい。だからまずは…」
リリと背後の巨大な瞳がべリアに視線を向ける。
それに反応するように人形たちがべリアに向かっていく。
「あ…いや…もう「あれ」は嫌だ…お願いリリ許して…「あれ」だけは許して…!」
「だ~め。そのままだとまたべリアちゃん暴れるから…大人しくしててもらわないと」
べリアの元にたどり着いた人形がその腕に手を伸ばし掴む。
「いや…いや…いやいやいやいやいやいやいやいやぁああああああ!!お願いだからもうこれ以上私を取らないで!!」
次の瞬間、べリアの右腕が文字通り身体から引き離された。
「あぁ…あぁああ!!!!」
痛みを感じている様子はなく、腕からも肩口からも血は流れ出してすらいない。
べリアから奪われた腕はそれを持っていた人形と共に闇に消え…そして別の人形たちが次々にべリアにしがみつく。
「いやぁああああああ!いらない!もういらないから!私の身体を返して!返してぇええええ!!!」
そのしがみついた人形たちの身体が崩れていき、破片はべリアの何もない腕に集まっていく。
そして人形の腕を形作りべリアの胴体につながれた。
瞬時に天から赤い糸が伸びてその新た腕を絡みとる。まるで吊られたマリオネットの様に…。
それを見たリリは満足そうに笑っていた。
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